第47話 実戦に勝る修行なし

 雲霞の如く……と言うにはややオーバーかも知れないが、機関銃やライトアーマーの爆破、ジェリーさんの大規模魔法でかなりの数を減らしたとは言え、まだ三桁は軽くいるであろうゴブリン軍団。

 しかし当初のような物量で押し潰すような作戦から、どうも死角へ回って攻撃してくるケースが増えたように思う。そしてそれは後方から何やらギャーギャーと声を出しているゴブリンナイトの存在によるものだろう。


 以前のオークマジシャンやゴブリンリーダーもそうだが、上位種は知能が高い者もいるため、指揮能力に秀でている個体もいる。

 だけど無駄だ。僕は二本に分裂した魔剣ディフェンダーを腰の高さに水平に浮かべ、僕の周囲を高速で回転させる。まるで僕自身が丸ノコになって草刈りをしている気分になる。そう、ゴブリンという雑草をね。


 こうなるとゴブリンは僕に近付く事さえ出来ずに離れた所から睨むくらいが関の山だ。それなら僕の方から行ってやろう。


 触れるもの全てを切り刻む独楽のようだ。僕がゴブリンの密度が濃い場所を狙って高速で駆ける。ゴブリン程度が逃げ切れる訳もなく、汚らしい緑の血で辺りを汚しながら、ドロップアイテムを残して消えて行く。悪鬼斬滅の太刀を振るうまでもなく、僕の周囲で高速回転している魔剣ディフェンダーがゴブリンを屠る。


 後方から支援しているジェリーさんは、僕を巻き込むような大規模魔法は控えて弓矢による攻撃に切り替えているし、それでも打ち漏らした敵はリオンさんがハルバードによる近接戦で倒していた。MPが切れたのか温存しているのか分からないけど、緊急を要する事態ではなさそうだし、ゴブリン程度ならジェリーさんもいるから大丈夫だと思う。


 極論を言えば、スキルレベル5のバトルスーツを着ている僕達は、雑魚ゴブリンの攻撃なんていくら被弾しようともHPが減る事はない。それよりも問題なのは、ゴブリンキングと対峙した時の攻撃の手札だ。

 恐らくだけど、ジェリーさんはサポートに回ってメインで戦う事はしないと思う。そしてリオンさんの最大火力は火魔法レベル5の炎弾、それをマジックワンドで増幅するやり方だ。僕も武器召喚による銃火器の火力が頼みの綱なので、詰まる所、MPがなければ話にならない。

 戦闘中に生体レベルが上がればHPもMPも全快するけど、実を言えば既に一度上がっていたりする。あれだけの数を相手に善戦出来ていたのはそのせいだ。

 もしかしたらリオンさんがレベルアップするチャンスはあるかも知れない。でも僕の方は望み薄だろうね。1レベルアップするのに必要な経験値が加速度的に跳ね上がっているし、レベル10以上になるとゴブリンで換算すれば1000匹単位で必要になってきている。

 だからこそ、ジェリーさんのエルフの秘薬が僕達の切り札になる。


 例えこの戦闘で生体レベルが上がらなくても、SPはいくらでも獲得したい。僕は自分から積極的にゴブリンに向かい、回転しながら僕を守る魔剣ディフェンダーの刃に巻き込んでいく。


 その時、回転していた魔剣ディフェンダーが僕の正面で剣身をクロスするように構えた。そしてそこに石礫というには些か大きすぎる石が飛んで来た。僕の頭と同じくらいあるぞコレ。


 ガギィィンという衝突音を残して石の砲弾が僕の目の前でズシンと落ちる。その音から、その石が決してハリボテではない、かなりの質量を持ったものだと分かる。

 投石機か何かか? まさかあの大きさの石をゴブリンが投げつけて来たって事はないだろう。バッティングセンターの120キロくらいは出てたぞ?


 だけどこの石の攻撃は魔剣ディフェンダーが防御出来るレベルである事は分かったし、視認してからでも十分避けられるスピードだ。それなら僕は他のゴブリンに注意を払いながら斬っていくだけだ。身体強化レベル5を舐めるなよ?


 そしてついに雑魚ゴブリンの飽和攻撃も打ち止めが見えてきた。後方からのジェリーさんの矢も的確にゴブリンを減らしているし、すり抜けていくゴブリンも減った事からリオンさんも前線に向かって来ている。


「お待たせ、トウジくん!」

「リオンさん、大丈夫ですか?」

「うん、接近戦を熟しているうちに結構MP回復したし、大きいのも何回か撃てるよ!」

「そうですか。じゃあここからが本番ですね!」


 僕とリオンさんは並んで武器を構え直す。ここからは僕達のターンだ。


***


 少し驚いた。

 私はまだこの世界の仕組みとか分からない。トウジとリオンも、ゴブリンの大群相手に善戦は出来ても勝利するのは難しいと思ってた。でも数を減らす事は出来る。

 私の力ならゴブリンキングと一対一で勝つ事は難しくない。だけど厄介なのはキングが率いているその数。それを一人で相手取るのは流石に骨が折れる。

 だから私はトウジとリオンが露払いになれば、くらいに考えていたのに。


 だけど二人の殲滅力と火力は私の想像を遥かに超えていた。こちらの世界の兵器の恩恵はあるにせよ、千を遥かに超えるゴブリンを相手に押し返すニンゲンなど、私の世界にはほんの数える程しかいなかった。

 それは選ばれた剣聖や大賢者、勇者と言った、希少なジョブを持つ者だけ。


 現段階でも、トウジとリオンの強さはニンゲンとしてかなりの高みにあった。さっき挙げた希少なジョブを持つ者を除いては、ほぼ成長限界と言える域にまで達しているというのが私の見立て。

 だけどこの戦闘中に、彼等はまた一段成長したように思える。二人ともまだ若い。もしかしたらエルフの私を超えるかも知れない。そんな期待を抱かせる。


 だから私は決意した。二人のフォローに回って成長を見届けたい。二人ならゴブリンキングに勝てるかも知れない。


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