第46話 魔剣覚醒
「ボスモンスターとの戦闘で脅威なのは、ボスそのものの強さもあるけど、何よりも恐ろしいのがその物量」
僕達を休ませてくれているのだろうか。ジェリーさんが涼しい顔で大規模魔法を放ちながらそう語る。
彼女の繰り出す風魔法に切り刻まれ、吹き飛ばされ、押し戻されるゴブリン達。おかげで僕達は水分補給や軽食をつまみ、幾分鋭気を養う事が出来た。
ジェリーさん自身は生体レベルが20。ステータスは2万を超えるバケモノだけに、まだまだ体力もMPも余裕があるらしい。あれだけの大規模な魔法をポンポン放っているのに。僕よりずっとチートだな、異世界エルフ。
「ダンジョン産のモンスターも野生のモンスターも共通しているのは、ボスモンスターは大量の配下を従えている事。それらが町や村を襲えば逃げる他に選択肢は無い。大きな都市であれば軍が抑えるけど、それでも大きな被害はどうしても出てしまう」
物語でたまにある、モンスターの氾濫とかいうやつか。ジェリーさんの住んでいた異世界では普通にある事のようだ。
「あれは悲惨。ここで抑えなければ外の世界に……」
そこでジェリーさんが言葉を切った。何か向こうの世界で嫌な思い出でもあったのだろうか?
「トウジ、リオン、これを」
ジェリーさんが僕達に透明な小瓶を放って来た。中にはエメラルドグリーンの半透明な液体が入っている。ぱっと見、メロンソーダに近いか。
「それは魔力を回復するエルフの秘薬。数は私が持っているのも含めてそれだけ」
「魔力回復薬!? どれくらい回復するの!?」
思いもよらないアイテムの登場にリオンさんの目が大きく見開かれた。でもそれって、かなり貴重なものじゃないのかな?
「今は私の最大魔力の一割くらい。昔は全回復してたんだけど……古くなったから効果が弱まったのかな?」
そうやって首を傾げながらも、ジェリーさんの魔法攻撃は止まらない。というか、ジェリーさんの魔力の一割って、2000ポイント以上のMPを回復するのか。
これを文字通りMPを10%回復すると取るか、一律で2000ポイント以上回復すると取るか。昔は全回復してたって言ってたのは、MPの総量が少なかった時の事だった可能性もあるしなあ。
仮に、最悪のケースを想定すれば、僕のMPの一割なら約58ポイントの回復。これなら武器召喚レベル5の武器を四回召喚出来る。本来ならば一回あたり消費MPは25ポイントだけど、セーブエナジーのレベルが5になった事でMP消費が1/2になったからね。漸く効果が目に見えて効いてきた感じだ。
僕は残ったMPをフル動員して、合成スキルを使いまくった。残念ながら悪鬼斬滅の太刀のランクは上げられなかったけど、魔剣ディフェンダーはランクアップ。それにレアリティもアップした。早速、解析で性能を見て見よう。
【魔剣ディフェンダー(SSR)B:装備すると二本に分裂し、装備者の周囲を浮いたまま敵からの攻撃を自動で察知して迎撃する。意識を敵に向ける事で遠隔操作する事も可能】
つまりだ。これって僕、攻防一体の装備を手に入れた? まるでサイ〇ミュ兵器だな……
さて、なにか絶対防御を手に入れた気分がする。少なくとも一山いくらのゴブリンが相手なら、銃火器を使うまでもないという確信すらある。
僕は左右に魔剣ディフェンダーを浮かべ、悪鬼斬滅の太刀を手にゴブリンの群れに向かって歩を進めた。どの道MPは殆ど使い切ったのだし、接近戦を挑むしかない。ジェリーさんからもらったエルフの秘薬はゴブリンキングをやる時まで取っておこう。
「トウジくん!?」
焦ったようにリオンさんが呼び止めるが、僕はそれに笑顔で答えた。
「大丈夫ですよ。リオンさん達は僕を抜けていった奴らをお願いします」
「……!? ふう、分かった。気を付けてね?」
「分かってますよ。まだ死にたくないですからね」
「……」
ディフェンダーを出した事でジェリーさんに何か言われるんじゃないかと思ったけど、特に何も無かったな。やっぱボス相手はこれが必要だって事なんだろう。
僕の後方からリオンさんの火魔法や、ジェリーさんの風魔法が僕を追い越し飛んで行く。その間隙を縫ってゴブリン達が僕に殺到して来た。かなりヘイトを買ってしまったみたいだな。
「行け、ディフェンダー!」
一本を僕の防御に残し、もう一本に指示を出す。
切っ先を前に向けて、物凄いスピードで飛んでいく魔剣ディフェンダー。それはゴブリンの首を突き刺しても止まらずにそのまま突っ切り、首を落としながら次の獲物へと飛翔する。そのまま水平に移動してもう1匹を仕留める。そして円を描くように一回転し、一気に4匹を両断した。
そうした所へ、ジェリーさんとリオンさんの魔法を潜り抜け、尚且つ僕のディフェンダーの遠隔攻撃も届かなかった敵が僕に迫って来た。
その迫った来た敵に僕の意識が向く。すると、攻撃に向かわせていたディフェンダーの一本が僕との精神的なリンクを切り、僕の下へ戻って来た。そして残っていた一本と共に、僕の周囲を浮遊し僕を守ろうとする。
そうか。これは僕の未熟さか。
僕が攻撃に意識を割きながらも目先の敵と戦う事が出来れば、もっと効率よく敵を倒せるのに。しかしこれでハッキリした。この魔剣ディフェンダーは、ある程度なら僕の意思で動かす事が出来る。逆に、僕の意思を介入させずにフリーな状態にしておけば、僕を守る盾となり矛となる。
使用者の技量次第で攻防一体の武器に進化するのが魔剣ディフェンダーなんだな。
――この戦闘でもっともっと上手く使いこなしてやる!
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