第45話 序盤は蹂躙だけど……

「先鋒が前のライトアーマーを飲み込んだらアレを爆破します。その後は各々の判断でやっちゃいましょう」

「ん、承知した」

「了解だよ!」


 100m以上ならM2やM16、そこを突破されたらトミーガン。ジェリーさんの魔法や弓の射程はイマイチよく分からないから彼女にお任せだ。

 基本的には接近される前にリオンさんの炎の壁で敵の足を止めつつ、こちらも新たな銃火器で殲滅。そんな感じになるだろう。


「撃ちます!」


 敵の先陣がライトアーマーを飲み込む。そこを狙ってM2の銃口が火を吹いた。ライトアーマーの装甲が12.7mmの銃弾に耐えるかも知れないという心配もあったけど、どうやら杞憂のようだ。

 進んで来るゴブリンを巻き込み、ライトアーマーが大爆発を起こす。中に放り込んだ手榴弾にも誘爆し、燃料の軽油にも引火。爆発したライトアーマーの周囲にあった敵の反応がごっそり消える。

 100m先はオレンジ色の炎と黒い煙に包まれた。

 しかし見なくても敵は密集しながら進んで来ているはず。僕とリオンさんは躊躇わずに銃撃を続けた。


 銃弾が切れる。同時に銃座からM2が消えた。僕はM2のみを召喚する。すると銃座にセットされた状態で出現した。便利だな。再び銃撃を開始する。だけどリオンさんはそうはいかない。

 彼女は運転席に乗り込み、ライトアーマーを発進させた。そして50mほど前方に車を乗り捨てて、走って戻って来る。

 僕とジェリーさんはそれを援護するように攻撃を続けた。


「車の中に手榴弾入れてきたよ!」


 戻って来たリオンさんが笑顔でサムズアップしながらそう言う。さすがだ。こうやって少しずつ後退しながら敵を減らしていくのもいいかも知れない。


 しかし二番煎じはそう簡単にはいかなそうだった。開戦直後に大きな被害を受けたゴブリン達は、置き去りにしてきたライトアーマーからなるべく離れて進軍しようとする。


「そうはさせない」


 その時、ジェリーさんが何かの魔法を発動させた。どういう理屈か分からないけど、強風がゴブリンをライトアーマーの周辺に集めるように吹き荒れている。


「ただの風魔法よ。初歩の初歩」


 涼しい顔でジェリーさんは言うけど、台風並みの風を起こすのが初歩の初歩ってエルフすげえ……

 まあとにかく、ジェリーさんの魔法でライトアーマー周辺にゴブリン共が集められている今が好機!

 強風で弾道が逸れる事もあるだろうけど、そこは連射しながら微調整すればいい。僕は躊躇する事なくライトアーマーに向けてM2の銃弾をぶち込む。

 再び轟音と爆発、そして爆炎と黒煙。これでまた索敵から一気にゴブリンの反応が消えた。しかし次から次へと押してくるゴブリンの群れの終わりはまだまだ見えそうにない。これは時空間収納内のストックと僕のMPが切れるまで、どれだけヤツらの数を減らせるかにかかってきた。MPが切れた時には問答無用で接近戦に突入する訳だし、そうなったら僕の中ではもう切り札は無いな。


 そしてM2を撃ち尽くし、僕は再び車内に手榴弾をばら撒いて後方に下がる。100mほどの距離をおいて再びライトアーマーを召喚、M2で置き去りにしたライトアーマーを爆破してゴブリンを巻き込む。

 これを繰り返しながらゴブリンを数を減らして行く。それにしても、ダンジョンという謎空間の中ではホームが異常に長くて今回ばかりは助かっている。下がりながら敵を減らす戦術が取れるんだから。


「トウジ、まだMPに余裕はある?」


 もうどれだけゴブリンを倒したか分からないけど、奴らの進軍の足が止まった。そこでジェリーさんが声を掛けて来る。


「ええ、余裕って訳じゃないですけど、まだ大丈夫ですよ」

「そう、じゃあみんな、車の中に入ってて」

「「?」」


 そんなジェリーさんの言葉に首を傾げながらも、僕とリオンさんはライトアーマーの中に入る。するとジェリーさんが再び大規模な風魔法を発動した。しかし今回は竜巻である。

 ゴブリンの群れの中に巻き起こった竜巻は、ゴブリンや武器などを巻き込みながらこちらに移動してくる。


「ちょ、大丈夫なの、アレ?」

「う~ん……ジェリーさんを信用するしか」


 近付く竜巻にガクブルするリオンさんに、僕もそう答えるしかできない。何しろ彼女、スパルタだからなあ。


 だけどそんな心配を余所に、僕達の目前で竜巻が急に消失する。巻き上げられていた数十体のゴブリンはそのまま落下し、殆どが絶命。運よく生き残ったヤツも虫の息だ。

 そしてそれとは別に、数多くの武器が落ちて来る。これに貫かれ、まだ息があったゴブリンもあっけなく死んだ。


「ごめん、全部は回収出来なかったけど、ドロップアイテム。合成に必要でしょ?」

「ジェリーさん……」


 なんだこの人、女神か?

 後退しながらの戦闘だったので、半ばドロップアイテムの回収は諦めていたんだけど。でもこれで合成を繰り返して行けば、魔剣ディフェンダーどころか悪鬼斬滅の太刀までランクBに上げられるかも知れない。


 だけど今は生き残るのが先決。急いでドロップアイテムを時空間収納の中に放り込み、ライトアーマーに乗り込み後退。だけどヤバいな。そろそろストックのトミーガンも使い切る頃だし、新たに召喚するにもMPが不安だ。


 少しの間、ゴブリンとの間に睨み合いが続く。索敵の反応が示す赤い光点も、随分密度が減っているように見る。しかしまだまだ三人の人間が相手取るにはバカげた数だ。

 どうするか。火器で敵を屠ってもMPが尽きればジリ貧だ。ここは危険を承知で魔剣ディフェンダーのランクとレアリティを上げ、斬り込むべきか。


 難しい選択を迫られたな……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る