第44話 ボスモンスターの脅威

「「――!!」」


 僕とジェリーさんが同時に反応した。


「どしたの?」


 リオンさんがそんな僕達を見て不思議な顔をする。無理もないか。僕は索敵スキル、ジェリーさんは気配察知を持っている。恐らくジェリーさんも察知したんだろう。とんでもない気配がスポーンした事を。いや、このエリアでのみ出現するかどうかなんて分からないからスポーンという言葉は適当じゃないかも知れない。だけど一筋縄ではいかない相手がこの先に現れた事は間違いない。


「ヤバそうなのが現れた。二人とも、縛りは解除するから全力で戦う」


 ジェリーさんが真剣な表情でそう語る。武器も世界樹の若枝の弓を手にした。それほどまでに手強い相手って事だ。


「そこまでなのね」


 リオンさんは両手が塞がるハルバードではなく、片手でも扱える短槍を手にした。空いた左手にはマジックワンド。ちなみに短槍も僕が合成してランクDまで上げてある。


「それじゃあ遠慮なく」


 僕も魔剣ディフェンダーを背中に浮かせ、右手に悪鬼斬滅の太刀、左手にはトミーガンを持った。


「数えるのもバカらしい数ですね」

「ん。私も少し本気を出す必要がある」

「そんなに!?」


 索敵ウインドウは敵性存在を示す赤い光点で埋め尽くされようとしている。百や二百じゃ済まない数だ。リオンさんにもそれを正直に伝えた。


「数が多すぎて正確には分からないです。以前のオークの軍勢よりも多いのは確実です」

「うわあ……」


 ジェリーさんと出会った大型スーパーでの攻防戦。メガネ君とおさげちゃん達の介入が無ければ僕達はオークの大群にやられていたかも知れない。特に途中でいいのを貰って気を失っていたリオンさんには苦い記憶だろう。


「それだけじゃない。ボスクラスがいる」


 ジェリーさんがいうボスクラスというのは、ある種族の最上位個体だったり、あるいは迷宮そのものを支配するような規格外のモンスターの事を言うらしい。となれば、これだけの大群を率いてるのだから種族最上位の個体がいるという事になる。


 僕の索敵とジェリーさんの気配察知の違いはここだ。何かがいる事を事前に知る事が出来る点は同じだが、索敵の場合は今まで出会った事のない敵だった場合、視認するまで何が相手かは分からない。

 一方の気配察知は、数は大まかにしか分からないし、相手が何であるかも目で見なければ分からないが、相手の強さを感じ取る事が出来るという。だからジェリーさんは僕には分からない強敵がいる事を事前に感じていた訳だね。

 そして、僕の索敵にはゴブリンやゴブリンソードマン、それにゴブリンリーダーの反応が多数ある。その事をジェリーさんに伝えると――


「ゴブリンの王――ゴブリンキング」


 緊張した面持ちでそう呟いた。


「迎え撃ちましょう。死にたくないし、幸いこのホームの幅は50mほど。纏まって迫ってくるならいい的です」


 敵は数は五百かそれとも千か。僕は時空間収納の中にあるものと新たに召喚したものを合わせて、三台のライトアーマーを並べた。その内の一台を100m程前方に動かし停車。その中に手榴弾を数発置いたまま、二人の所へ戻る。


「リオンさん、もう一台の方をお願いします」

「うん!」


 僕とリオンさんはそれぞれライトアーマーの銃座に移動し、M2のグリップを握る。


「私は?」

「撃ち漏らしを片付けて下さい。出来ますよね?」


 小首を傾げて訊ねて来るジェリーさんにそう聞くと、不敵な笑みと共に返答が返ってきた。


「誰に言ってるの?」

「あはは。頼りにしてます」


 左右に僕とリオンさんのライトアーマー。真ん中に弓を携えたジェリーさん。僕達のM2はあっという間に弾切れになるだろうから、そこから先は時空間収納にストックしてあるトミーガンとM16を使い切るつもりで撃ち続けるだけ。そこから先はもう出たトコ勝負になるんだろうな。


「リオンさん、時空間収納の中のトミーガンは自由に使っていいですからね!」

「わあ、ありがとう! トウジくんだいすき!」

「はいはい」


 ははは。この人、何気にマシンガンぶっ放すの好きだからな。

 さて、軽口を叩いてリラックスしたところで、ちょうどゴブリンの大群が視界に入ってきた。こうしていると、ゾンビの大群を食い止めるゲームのPVを思い出すな。それか、自衛隊の部隊がまるごと戦国時代に飛ばされた映画のワンシーンか。

 少数ながら圧倒的な火力を持つ僕達か、それとも奴らの数の暴力が僕達を蹂躙するか。勝負しようじゃないか。


***


「ねえサトシ君、今日はヤケにモンスターの姿が少ないね」

「やっぱりミユキちゃんもそう思う?」


 おさげ髪の少女が油断なく周囲を見渡しながら、メガネの少年に呟く。


「へっ、俺達にビビッて逃げたんじゃねえのー?」


 金髪を逆立て、スタジャンを着た少年は金属製のメイスを肩に担ぎ、余裕の表情だ。


「でも、駅にかなり近い場所まで来たのに、全然モンスターが見当たらないのは……」


 長弓を持った少女は、逆に顔を顰めている。


「へっ、イネは心配しすぎなんだよ」

「ノブオ君、イネって呼ぶな!」


 彼等は以前トウジとリオンに助けられ、また二人を助けた高校生の四人。メガネの少年がサトシ。おさげの少女がミユキ。金髪の少年がノブオ。イネと呼ばれた少女がミイネだ。


 トウジに救われたサトシとミユキはモンスターを狩ってレベルを上げる事の重要性を説き、賛同者を集めて避難所を守る自警団のような役割を果たしていた。それもこれも、助けてくれたトウジへの恩に報いる為だ。


 今日も巡回しながらレベリングをする予定だったのだが、全くモンスターと出くわさない。それは喜ばしい事ではあるが、どうしようもない不安も過る。モンスターがいる事が日常となりかけている現在、逆にモンスターがいない事は異変でもあり、それは不安を掻き立てるには十分な要素だった。


「っかよ、このまま手ぶらで戻るのもちょっと癪じゃね?」

「それはそうだけど……ノブオ君、何か案でもあるの?」

「おう、ちょっと駅の中、様子見てみようぜ?」

「駅……か」


 ノブオの提案にサトシが考え込む。

 モンスターが駅から溢れ出て来たのは周知の事実であり、ある意味アンタッチャブルな存在となっているのが駅だ。しかし彼等としてもレベルを上げる為にはモンスターは必要悪であり、貴重な食材を落とすオークのようなモンスターもいる。


「少しだけ、様子を見てみようか」


 考えた末に出したサトシの決断に、他の三人が頷いた。

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