第43話 戦術と方針

 さて、朝食を終えてテントを片付けた僕達は、今日の戦闘準備だ。テントを片付けると言っても、そのまま時空間収納へ放り込むだけなので手間いらずだね。おまけに次に取り出した時にはテントが張った状態だという便利さ。


「二人共、昨日のえっちなスーツは着ないの?」

「「いや着てるから」」


 昨日の戦闘後から、僕とリオンさんはあくまでもインナーとしてバトルスーツを着ている。その上にワークマ〇から回収した迷彩柄のウェアとパンツだ。僕達の他にはモンスターしかいないとは言え、あのピチピチスーツで戦うのはちょっと恥ずかしい。


 それと、今日の討伐如何では、ドロップアイテムの合成で悪鬼斬滅の剣をランクアップさせられるかも知れない。いや、魔剣ディフェンダーの方にするべきか? 悩みどころだけどどちらかは早くBランクにしたいところだ。

 ……出来れば、アントクイーンと出くわす前に上げちゃいたいね。ボス系モンスターと戦う時は縛りなしとか言ってた気がするし。


 野営地を片付け、僕達はホームを歩いている。索敵スキルによって敵の位置は把握しているので必要以上に気を張っているという事もない。


「てか、ホーム凄い長いね。ぷっ」


 リオンさんがつい噴き出してしまう。そりゃそうだ。駅のホームなんて幅も長さも高が知れている。それが数百のモンスターと大立ち回りしても余裕なくらいのスペース。何ならホームの終わりが見えないくらい長いし。笑っちゃうしかないよね。

 駅のホームでありながら大樹が生い茂り、打ち捨てられた電車には蔦が巻き付いている。うん、まさに文明が滅びたデストピア。


 そんなダンジョンで迎えた二日目も、出くわしたモンスターを片っ端から倒して行くという、見敵必殺を地で行く苦行。

 何が苦行かって、僕の武器召喚のキモとも言える銃火器の使用を禁じられている事。サブマシンガンやアサルトライフルさえあれば入れ食い状態なのに。

 今の縛りプレイ状態では、僕は個に対する戦闘を繰り返して数を熟していかなければならないのに対し、リオンさんは魔法によるアウトレンジからの攻撃や、ジェリーさんから何かコツを教わっているみたいで魔法の精度も上がっていたため、殲滅速度に違いが出てきている。


「トウジくん、敵を一か所に集めて!」

「了解!」


 少し逃げると見せかけてやれば、ワラワラと敵が集まってくる。そして丁度いい頃合いを見計らって走るスピードを上げて奴らを振り切る。


「ナイストウジくん! いくよ! 炎の壁!」


 リオンさんが集まったモンスターの足下から炎の壁を出現させた。しかもマジックワンドを使ってのダブルキャスト。炎の壁が二重に立ち昇る。

 僕を追いかけてきたモンスターは勢い余って炎の壁に突っ込んで行く。何とか止まろうとした者も、後ろから押されて灼熱の壁に飲み込まれてしまう。

 更には熱から逃げようと後退しようとする者もいたが、リオンさんの追撃がそれを許さない。再び繰り出した炎の壁が連中の退路を断ち、炎の壁によるサンドイッチ状態だ。


 逃げるに逃げられないモンスターは焼け死ぬのを待つばかり。

 このような感じで僕がモンスターを釣り、リオンさんが仕留めるという戦術は、さっき言った殲滅速度の違いによるものだ。


 結果的に経験値やSPはリオンさんに多くいく事になるけど、今の僕とリオンさんのレベル差は1。だけどゴブリンやオークを相手にしている状態でのレベル1の差というのは結構大きい。だからバランスを調整する上でも今はこれでいいのかも知れない。


 そして、スキルを取得する事と使いこなす事は全くの別物であるという事が、ここに来て徐々に表れてきている。これがジェリーさんの言いたかった事なんだろうな。例えば今のリオンさんの炎の壁。あれは壁を出現させる座標の調整が難しく、ピンポイントで出現させるのは無理と言っていた。だけどジェリーさんにコツを教わって、何度か試しているうちにほぼ狙った場所に出せるようになったそうだ。

 付け焼刃と鍛錬して習得した技術は違うって事だね。


「お、魔剣ディフェンダーがドロップしてる」


 さっき戦ったのは複数のゴブリンナイトが率いる大規模な群れだった。80匹くらいはいただろうか。接近戦では厄介な魔剣ディフェンダーも、レベル4以上の火魔法をぶっ放すリオンさんの前では無力だったみたいだ。


「これ、リオンさんが持ちます?」

「うーん、それもいいかもだけど、これってさ、トウジくんのやつをグレードアップさせるのに必要でしょ?」

「ええ、それはまあ……」


 合成スキルによって武器や防具をグレードアップさせていくのもゲームの中でなら醍醐味のひとつだろう。特にこういった特殊効果の付いた武装なら尚更だ。そして、アイテムとしてのランクだけじゃなくて、レアリティも上げる事が可能なんだよね。実際、僕の魔剣ディフェンダーはレアリティをRからSRに上げる事によって、浮遊した状態で僕を守ってくれるようになった。これを更にグレードアップさせたらどうなるのか楽しみではある。

 そして、レアリティを上げるには、恐らく同じレアアイテムを合成する事が必要なんだよね。


「ほらほら、遠慮しないで! あたしはマジックワンドもあるし、グレードアップさせるならマジックワンドをお願いしたいし!」

「なるほど。分かりました。じゃあ遠慮なく」


 ちなみに、レアリティを上げるには同じ素材のものをもう一つ準備しなければならない。例えば魔剣ディフェンダー(R)Dに同じものを合成すると、魔剣ディフェンダー(SR)Dとなり、レアリティは上がるけどランク自体はDのままだ。ランクDをCに上げるには、ランクDのものを素材用に20個準備しなくてはならない。この辺が複雑だ。


 だけどこれで僕の方針は決まった。どうにかもう一本魔剣ディフェンダーを入手して、今所持しているものを一段階進化させてやる。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る