第41話 スーツの効果

 相手のモンスターが低ランクという事もあるかも知れないし、自分の生体レベルが相手の性能を上回っているせいかも知れない。それにしても。


「トウジくん! このスーツ、見た目はえっちだけど全然ダメージ通らないよ! 凄いね!」


 身体のラインどころか胸やお尻の形まで丸わかりの状態で、リオンさんがハルバードを振り回し、魔法を放って敵を屠っていく。

 スキルレベルが高くても、技量や実戦での駆け引きみたいなものが欠けている僕達では、ワーカーアントのような手数の多い敵を一度に複数相手にするとやはり多少の被弾は免れない。

 だけど防具召喚スキルレベル5で呼び出した全身タイツというかプラグスーツ的なナニカは、ワーカーアントの攻撃を一切通さず、蟻酸ですら弾いてしまった。つまり直撃を受けてもHPは一切減らない。

 まあ、それでも多少の衝撃は感じるので痛みを全く無効化する訳じゃないんだけどね。ジェリーさんの思惑は、そういった被弾を避けて戦闘出来るように技量を上げろっていう事なんだろうけど、具体的な指導がないのに実戦で鍛えろとかスパルタ過ぎるだろ。


 結局僕は防御用に時空間収納から合成素材用に保管していた小剣を取り出し、左手に持った。攻撃は右手の太刀、防御は左手の小剣。魔剣ディフェンダーの代わりに僕自身が上手く立ち回るしかないからね。

 リオンさんは流石というか、長柄の武器とバックラーを上手く使っていて、蟻酸攻撃以外の被弾はほとんど無いようだ。


「この! この! こんな恥ずかしい恰好で! それもこれも!」


 リオンさん、余程恥ずかしいらしく激怒しながらワークアントを血祭にあげている。


「燃えろ! 燃え尽きてしまえ!」


 もう僕は驚かないぞ。

 普段のコミュ障は仮の姿。オンラインゲームで弾けているが如く、バトルで大暴れするのがリオンさんの本性なんだ。うん。


 不思議なもので、当たってもそんなに痛くないしHPも減らないと分かっていると、逆に冷静に敵の攻撃が見えたりする。防具召喚でスーツ……うーん、バトルスーツと呼称しようか。そのバトルスーツを着る以前は無意識の内に緊張で身体が硬くなっていたのかも知れない。

 今は自分でも驚く程スムーズに反応してくれる。結果、僕達は危なげなくワークアントの群れを全滅させた。それもう、イヤになるくらいの数だね。地面に散らばってるドロップアイテムの数、数、数。

 殆どが所持していた武器や防具だけど、中には透明な容器に入った液体がある。鑑定で見たら蟻酸だった。さて、片っ端から回収しちゃいましょうかね。


***


「取り敢えずこのエリアのモンスターは片付いたかな?」


 かなり疲れた様子で地面にへたり込んだリオンさんがそう呟く。確かに索敵の反応は近くにはない。


「僕も流石に効きました。家に帰って休みたいですね……」


 ワーカーアントの群れを殲滅させたあとも、僕達の戦闘は終わらなかった。ゴブリンやオーク、それを率いる上位種に幾度となく遭遇し、それを片付けてきた。それも、僕とリオンさんの二人だけで。

 ジェリーさんは僕達の背後にいて、『撤退は許さない』とばかりにまるで督戦隊みたいだった。目に表情がないのが余計に怖い。あ、督戦隊ってのは兵が逃亡したり降伏したりするのを後方から監視する役割の人達だ。分かりやすく言えば、逃げたら殺す。殺されたくなかったら戦え。そう脅す人達だね。


「じゃあ、野営の準備をしよう」

「「へ?」」

「ん? ああ、心配しなくていい。二人は休んでて構わない。私が周囲の警戒をするから」


 ジェリーさん、なんで凄く普通のテンションでそういう事言っちゃうの?

 確かにダンジョン内に長期間留まる事も多いみたいな話は聞いた気がするけど、僕達の場合はダンジョン内で何かを探したり、ダンジョン攻略を目的としている訳じゃない。何もこんな危険な場所に留まらなくても、家に帰って休めばいい話だ。


 そんな僕達の不満を感じ取ったのか、ジェリーさんが苦笑しながら続けた。


「ワークアントが出たという事は、ソルジャーアントを引き連れたアントクイーンがいるという事」

「「――!!」」

「アレをダンジョンの外に出すのはマズい。地中に巣穴を作られるのも厄介だけど、何よりアントクイーンは強い」


 ジェリーさんが強いって言うのか……

 それが外に出るのは確かにマズい。


「だからダンジョンから出るのは、アントクイーンを討伐してからの方がいい」


 その言葉に僕達二人は従うしかなく、野営の準備を始めた。と言っても、テントを張るだけ。寝袋は咄嗟に行動出来ないので却下。

 食事は時空間収納から思い思いの品を取り出して食べている。僕はコンビニおにぎりとオーク肉を串に刺して焼いているやつ。リオンさんはサラダチキンと、食パンにお惣菜コーナーで売っていたコロッケとスパゲティを挟んで食べていた。

 こういったものも、いずれ無くなってしまう。食料事情は先行き真っ暗だなあ。またどこかに調達にいかないと。


「ひいっ、かっら! からひぃ~! がっ! こっちもからい! からいけどとまらない! ひぃ、たすけて」


 ジェリーさんには特別にパッケージに鬼の顔がデザインされた獄激辛やきそばと、蒙古なタンメンを付け合わせにおススメして差し上げた。


 食事を終えた僕達は、リオンさんに洗浄魔法を掛けてもらい、スッキリしてからテントに入った。駅のホームがダンジョンに変質したとは言え、時間は普通に経過しているようで空は既に暗くなっている。ランタンに火を灯し、今日のステータスを確認していると、なぜか同じテントにリオンさんが入って来た。


「もう一つのテント、ありますよね?」

「えへへ。いいじゃん、ビルドの事とかも相談しながら、ね?」


 うむう……ピッタリしたバトルスーツ姿を思い出しちゃうじゃないですか……


◎本日のモンスター撃破数

 小早川冬至 

 ゴブリン×42、ゴブリンソードマン×21、ゴブリンリーダー×8、オーク×36、オークウィザード×2、オークナイト×9、オークジェネラル×1、ワーカーアント×166

 獲得経験値:2909

 獲得SP:2478


 立花莉音

 ゴブリン×31、ゴブリンソードマン×26、ゴブリンリーダー×11、オーク×48、オークウィザード×1、オークナイト×5、ワーカーアント×222

 獲得経験値:2694

 獲得SP:2145


◎ステータス

小早川冬至

称号:ファステストキラー

  :断罪者 

  :異世界種族の友

生体レベル:10→11

HP:384→577

MP:384→577

SP:31→2509

経験値:353→562

所持スキル:万夫不当5(武器召喚、治癒魔法、時空間収納、剣術、身体強化、取得経験値増加、取得SP増加、解析、解析阻害、セーブエナジー)索敵レベル4、隠形レベル4、合成レベル5、暗視、防具召喚レベル5←(NEW)

装備品:悪鬼斬滅の太刀C 魔剣ディフェンダー(SR)C

パーティメンバー:立花莉音、アンジェリーナ


立花莉音

称号:ジェノサイダー

  :異世界種族の友

生体レベル:9→10

HP:256→384

MP:256→384

SP: 57→562

経験値:834→2448

所持スキル:火魔法レベル5、水魔法レベル3、槍術レベル3→4、身体強化レベル5、取得経験値上昇レベル4、取得SP上昇レベル4、隠形レベル3、洗浄、時空間収納レベル3、セーブエナジーレベル2→5、暗視

装備品:ナイトのハルバードD ナイトバックラーD マジックワンド(R)D

パーティリーダー:小早川冬至

パーティメンバー:アンジェリーナ


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