第40話 開眼?
ワーカーアントの群れとの戦いは長時間に及んでいる。
蟻酸という思わぬ攻撃手段に手こずった事もあり、僕とリオンさんは連携して対処している。逆に言えば個々の強さは大した事がないので、蟻酸に気を付けておけばダメージは微々たるものだ。
だけどここに来て、ジェリーさんの言う防御の重要性に気付かされている。例えば魔剣ディフェンダーは自動で防御する上に、自分のランク以下の武器を破壊したり魔法を無効化したりしてくれる。では蟻酸のような特殊攻撃の場合はどうか。
防御はするだろう。しかしあくまでもディフェンダーは剣であり盾ではない。降りかかる液体を斬ったところで、その飛沫や水滴といったものから僕を守る事が出来るかと言われると、やっぱり首を傾げざるを得ない。
というか、日ごろからモンスターと戦うのが日常みたいな世界で暮らしていた訳でもないし、刺客に狙われるような不穏な国で育った訳でもない。こんなダンジョンの中で数時間戦ったところで何かに目覚めるとかあり得なくない?
ジェリーさんだって数十年かけて今の強さになった筈だ。そう考えると、色々と縛りプレイを強制されるのも何だか理不尽な気もする。もっとも、彼女だって今に至るまでに何度も大きな怪我をしたのかも知れないし、死にかけるような局面もあったかも知れないから、そこは汲み取るけど。
だけど僕はそういう危険な目に遭わずに生き残りたいんだよね。
という訳で、スキルを取っちゃおう。
「リオンさん! 炎の壁で少しだけ時間を稼いで下さい!」
「うん! 了解!」
リオンさんの魔法でワークアントの足を止め、その間に僕はスキル一覧を開いた。武器召喚スキルがあるなら……
あった!
【防具召喚:取得SP50ポイント。スキルレベルに応じた防具を召喚する】
ふむ、スキルレベル1から4くらいまでは、程度の差こそあれ中世から近世くらいまでの防具が召喚されるみたいだ。それでも現状のワークマ〇の服よりは急所を保護してくれるだけ有難い。ところがレベル5以上になると、いきなり近未来的なデザインになってくるらしい。
僕は防具召喚を取得し、スキルレベルを一気にレベル5まで上げた。持って行かれるSPは765ポイント。手持ちのSPが殆ど無くなってしまうが、痛い思いをするよりはマシだ。
さらにMPを50ポイント消費して、僕とリオンさんの分を二つ召喚した。
色はグレーに赤いラインが入っていて、レザーやウレタン、ゴムやビニール、シリコンやグラスファイバーなど、僕が知っているいずれとも違う伸縮性の高い不思議な素材。随分と身体にピッタリとフィットする、体型がモロに出るデザインだ。某エヴァ〇ゲリオ〇に搭乗する彼や彼女が着ているプラグスーツっぽい。
さて、戦場でこれに着替えるのは中々勇気がいる――と思ったら、装着を意識するだけでいつの間にか着ていた。ただこれが破損した場合は全裸になりそうでちょっと怖い。
それから、この姿は何気に恥ずかしい。凄く恥ずかしい。それでも僕だけ恥ずかしい思いをするのはイヤなので。
「リオンさん! これを装着するイメージで!」
「え、ちょっとこれは……えーい!」
僕が着ている姿を見て少しイヤそうな顔をしたリオンさんも、背に腹は代えられないのか決心したようだ。何しろ彼女の服も蟻酸にやられてボロボロになっている。
リオンさんの姿が一瞬シルエットになる。多分その一瞬は裸なのだろうけど、謎の光でハッキリとは見えなくなる、変身ヒロイン系のアレだ。自分もこの演出をさせられたのかと思うとちょっと死にたい。
「うわあ、ふたりとも絶妙にえっち」
後ろで魔法を時空間収納に詰め込みながら、無表情でジェリーさんが言う。あんたは黙ってろ。
「トウジくん、これ恥ずかしいね」
「ですねえ。とっととありんこを叩き潰して、上に何か着ましょう。インナーとしてならかなり着心地がいいですし」
「うん……でもトウジくん、がっちりしてるんだね」
こら、そこでポッとか頬を染めない!
そう言うリオンさんだって色々とくっきりしてて直視出来ないんだから!
お互いの恥ずかしさもあって、ワーカーアントへの憎しみが倍増。怒りで戦闘力が増すという事もないのだろうが、とにかく早く全滅させて着替えたい。
ちなみに、全滅させなくても逃げればいいじゃないという意見もあるかもだけど、そうはいかない事情があるんだよね。
そもそもこのアント系のモンスターというのは女王蟻のモンスターが巣穴におり、そこに餌を運び込む。まあ、僕らがよく知っているアリと同じだね。
ただその餌というのが問題で、人間や動物、あるいは他のモンスターの死骸を喰らう。しかしこのアント系がダンジョンに発生した場合はどうなるか。
そもそもダンジョン産のモンスターは倒せば消えて無くなるし、ダンジョン内で死んだ人間や動物などもダンジョンに吸収されてしまうらしい。即ち、ダンジョンにいてはアリ共の餌が無いという事だ。そうなれば、こいつらは群れごとダンジョンの外に出て来る以外にない。それはつまり、外の世界で人間を狙うという事に他ならない。
「確かにこんな奴ら、外には出せないわよね。MP無くなるまで飛ばすから!」
ボディラインがピッチピチのプラグスーツもどきを着せられて、半ばヤケクソ気味に火魔法を連発するリオンさんに苦笑しながら、僕も悪鬼斬滅の太刀を持ってワークアントの中に斬り込んで行った。
僕達はジェリーさんのスパルタで開眼したんだ。そう、スキルを禁じられたら新たにスキルを取ればいいじゃない的な感じで。
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