第38話 続・縛りプレイ

 今度はオークの群れとエンカウントした。群れと言うよりは役割分担がはっきりと分かれているパーティと言った方が近いかも知れない。

 オークの分際でやたらと立派な甲冑に身を包んだ、他より一回りも大きな個体。オークジェネラルだ。そいつが指揮官らしい。それを守るように、ジェネラルの劣化版のような鎧を着たオークナイトが2体。さらには以前僕らが苦戦したオークウィザード。他にはオークの剣士とも言うべきオークブレイダーが5体。


「何て事だ。全部上位種だなんて。これは稼ぎ時ですよリオンさん」

「そうね! これはわざわざ危ない橋を渡るはないわね」

「「ハチの巣にする!」」


 スチャ!

 僕とリオンさんの声がユニゾンし、二人は同時に構えた。僕はM16を。リオンさんはトミーガンを。


「……は?」


 またジェリーさんが不思議そうな顔をしているけど、ここは危険を冒して得られる経験よりも、楽して得られる経験値とSPの方が重要だと判断。


「てーっ!」


 リオンさんの号令で、僕達二人が同時に斉射する。前列にいたオークブレイダーはなす術なく穴だらけにされ倒れ伏す。ここでリオンさんが火魔法による攻撃に切り替え、僕は引き続きM16による銃撃を続ける。

 前回のオークの軍団と違って今の相手は数が少ないし、初見で喰らわせた攻撃に対処出来ていないようだ。瞬く間にオーク達は壊滅するが、流石に指揮を執っていたジェネラルだけは、消え去る前のオークナイトを盾にどうにか生き残ったようだ。


「オークジェネラルはオークの王であるオークエンペラーの側近。かなり強いから心してね」


 後ろからジェリーさんの忠告が飛んで来る。彼女がそう言うという事は、僕達の技量とジェネラルの力を比較して、決して油断ならないって事なんだろう。

 それならば、尚更バカ正直にやる必要はない。僕もリオンさんも、距離を保って銃撃と魔法で削っていけばその内勝てるだろう。


 ――そう思っていた時がありました。


「うっそだろ!? あの盾、弾丸を弾く!」

「やだ! 剣圧だけで魔法が消されちゃった!?」


 ジェネラルが持っている大型のタワーシールドはM16の弾丸を全て弾き返し、リオンさんが放った魔法はヤツが振るった剣の風圧で相殺されてしまう。


「それならっ!」


 リオンさんの奥の手。時空間収納の中に保管しておいた火魔法を一気に出現させ、数十発にも及ぶ火魔法を浴びせかける。

 間髪入れずに着弾する火魔法に、さすがのオークジェネラルも無傷ではいられないだろう。


 ――そう思ってた時がありました。


「やったか!?」

「ほら、リオンさんがそんなフラグを立てるから……」


 煙の中から姿を現したのは、全く無傷のオークジェネラル。その瞳は憎悪の闇を宿し、盾を前に、剣はやや後ろに引きながら戦闘態勢を取った。


「リオンさん! 来ますよ!」

「くう、火魔法レベル1じゃ全然ダメージが通らないって事!? それなら!」


 今にも間合いを詰めようとするオークジェネラルの目前に炎の壁が立ち昇る。しかもオークジェネラルの四方を完全に囲み、身動きが取れないようにしてしまった。


「おお、なるほど。でもそこからどうする?」


 ジェリーさんは相変わらず後方から様子を見ているだけだ。でもリオンさんの戦法には感心しているな。そして、これでは単なる足止めにしかならない事も分かっているため、次の一手を興味深く観察しているみたいだ。どうやら、この程度の相手では自分が手を出すまでもないと考えているらしい。


 それなら。

 僕は武器召喚レベル4で手榴弾を呼び出した。ピンを抜き、次々と炎の壁の中にいるオークジェネラルに向かって放り投げた。それこそ、ポイポイと玉入れでもするように。


 炎の壁の中で、続け様に爆発が起こる。それでも相手はM16の銃弾を跳ね返すような盾を持っている相手だし、レベル1とは言え火魔法を喰らって無傷でいるような相手だ。油断はしない。


「リオンさん、僕と一緒に下がって下さい!」

「うん!」


 炎の壁の中にいるオークジェネラルから距離を取る。後ろで監督していたジェリーさんの腕を掴み、彼女もついでに。そして100m前後も離れただろうか。そこで僕は収納していたライトアーマーを出した。


「こんな所にこんなモノを出して、逃げる?」


 ジェリーさんが『まさか逃げるんじゃないでしょうね?』といった疑惑の目と、心情をそのまま言葉に出して僕を見る。


「まさか。用があったのはライトアーマーじゃなくてこっちですよ」


 僕は銃座に着いてM2を構える。ブローニングM2機関銃。なんでも大戦中から現在に至るまで現役で使われている傑作らしい。両手でグリップを握り、炎の壁が消えるのを待つ。死んでいればそれまでだし、生きていたらコイツをぶち込むだけだ。

 現状呼び出せる中ではこれが最大火力。これが効かなければマジで逃げるしかない。


「あー、立ってるね。しかも激おこ」


 リオンさんが言う通り、着ていた甲冑はボロボロだし、かなりダメージを受けているように見える。しかし剣も盾も手放しておらず、戦意はいまだ漲っている。


「……撃ちます」


 ダダダダダダダッ!

 ダダダダダダダッ!


 連続する射撃音と共に、ビクンビクンと震えるオークジェネラル。流石にコイツの前では盾も甲冑も役に立たないようで、弾丸を撃ち尽くす前に絶命して前のめりに倒れた。


「……なにそれ」


 ジェリーさんの呆れたような声。

 そう言われてもな。これが僕の戦い方で、接近戦は出来ればしたくないんだよね。


「……相手のオークジェネラルがちょっと気の毒」


 そう言われてもな。これが僕の戦い方で、以下略。


「次はその怖い武器も使用禁止」

「なんでっ!?」


 ジェリーさんはどうあっても僕達を危険の中に放り込んで鍛えたいらしい。

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