第35話 いざダンジョンへ

 ジェリーさんをパーティに加えた僕達は、そのまま駅に向かった。

 空洞化とも言えるのかな? 中心部に人がいなくなったせいで、モンスターの密度も低くなっている気がする。恐らく郊外に移動しているんだと思うけど、各地にある避難所がやや心配ではある。


 それでも駅から出てくるモンスターはいる訳で、僕達はそれを片手間に倒しながら、このシステムやパーティに機能についてジェリーさんに説明していった。


「念話的な機能に遠隔での治癒魔法、それに時空間収納の共有化……随分と便利というか」


 半分呆れながら感心するという器用な真似を繰り出すジェリーさんだけど、僕的には索敵情報の共有化や経験値の分配なんかもあったら便利かなと思う。ゲームをやり込んで来たリオンさんならもっと思うところは有りそうだ。


 ところで、僕の万夫不当のレベルが5になった事で、武器召喚で呼び出せる武器も増えた。銃火器で言うなら対物ライフルや重機関銃と言った威力の高いもの、それから乗り物は4輪車も召喚出来るようになった。ただし乗り物はあくまでも自動車の免許を持っていれば動かせるといったもので、数人で運用するような戦闘車両ではない。

 ちなみにこのレベル帯だと、僕の知識は殆どない為イメージ出来る武器や車両が無かったりする。そこで役に立つのがリオンさんのオタク知識だ。


「重機関銃や対物ライフルだと、12.7ミリの弾丸よね。それだと、トウジ君にも分かりやすいところでへカートⅡかな?」


 ああ、それなら聞いた事がある。あの大ヒットアニメのヒロインが使っていたライフルだ。確かに僕にも分かりやすい。


「でもそのクラスって、もう生身の生き物を相手に使うような威力じゃないよ? 重機関銃なら戦闘機を撃ち落とす為に使うような代物だし、対物ライフルって、元々は戦車と戦う為のものだもん。しかも射程は1キロ超え。モンスター相手に使うケースがあるかなぁ?」

「ふーむ……」


 確かに言われてみればそうなんだけど……遠距離で狙撃するケースは有るかも知れないとして、ドロップアイテムの回収が大変そうだし。これはお蔵入りかな?


「リオンの言うセントウキやセンシャがどういったものか分からないけど……つまり凄く硬い敵と戦うもの?」

「そうそう、そんな感じ」


 僕とリオンさんの会話を不思議そうに聞いていたジェリーさんが小首を傾げながら訊ねる。


「それなら使い道はある。モンスターの中には剣も弓も魔法も弾く者もいる」

「うわあ、ねえ、それって何か聞いてもいーい? 予想は付いているんだけど」

「代表的なのはドラゴン」

「「やっぱり」」


 つまり、そういう敵と戦う事も想定されてるって事だよね。リストに設定があるって事は。レベル5でこれじゃあ、レベル10とかでは何と戦わされるんだろう……


「それじゃあ気を取り直して、行きましょうか」


 ちょっとゲンナリしたところだけど、結局僕達のやる事は変わらない。目先の目標はダンジョンに行ってモンスターを狩る、だ。

 だけどそこでジェリーさんとリオンさんからストップが掛かった。


「待って。一度ダンジョンに入ると長丁場になる。それなりに準備が必要」

「あ、あたしも一度家に戻りたいんだ。忘れ物があって。えへへ」


 リオンさんの忘れ物はまあ、そういう事もあるだろうけど……ジェリーさんの言う準備ってなんだろう? 野営出来るくらいのものは時空間収納に入ってるんだけどなあ。


***


 車に乗り込んだ僕達は、取り敢えずリオンさんのアパートに向かった。到着してからとてとてと駆けて行った彼女を見送り、車内でジェリーさんと言葉を交わす。後部座席にいるジェリーさんが少し窮屈そうだな。やっぱり車、召喚した方がいいかなぁ。


「ところでジェリーさんの準備って、何が必要なんですか? 野営用の食糧やテントなら、もうありますけど」

「ああ、それも必要だったけど、もう有るんだ? じゃあ、私の弓がちょっと……」


 弓? 弓なら世界樹の若枝の弓というなんか凄いのを持っていたはずだけど。


「実は普段使いの弓を落としてしまって……それに矢も無くなった。世界樹の若枝の弓は魔力の消費が多い上に、光の矢は目立つから、狙撃した場所がバレやすいというデメリットがある」

「なるほど……」


 僕の武器召喚で供給する事は可能だけど、それだと僕のMPが追い付かない可能性があるもんなあ。しかもジェリーさんの弓術レベルは9だ。そんな達人レベルに見合う弓が出せるかどうか……

 でも待てよ?

 メガネ君やおさげちゃんの友達のイネちゃん、弓を使ってたけど、どこから調達してるんだろう?

 もしかしたら……


「ジェリーさん、ちょっと車から降りて下さい」

「ん? うん」

「それじゃあ、弓術スキルを行使するイメージで」

「イメージ……あ!」


 やっぱり。何かがウインドウに表示されているんだろう。彼女の視点が宙を彷徨っている。

 そして、何かに気付いたらしいジェリーさんの手の中に弓が現れた。ついでに矢筒もある。これはつまりアレだ。僕の武器召喚と似たようなシステムなんだね。

 おそらくスキルレベルによって召喚出来る弓の品質も違うんだろうし、矢を使い切れば弓も消失してしまう。でも相手に応じた性能の弓を召喚する事でMPの無駄遣いを防げるね。

 ……逆に言えば、あの世界樹の若枝の弓って、とんでもないMPを消費するって事か。怖いな……


 耳より情報として、事前にたくさん召喚して時空間収納の中に保管しておけば、MP消費無しで取り出して使える事を伝えると、様々なレベル帯の弓を情け容赦なく召喚し始めて僕の時空間収納を圧迫していった。

 ちなみにパーティ機能が開放された時、時空間収納の中に共有フォルダ的なものが出来ていて、パーティで共有するものはそこに突っ込んである。プライベートは死守できる仕様のようで助かるね!


 ……というか、ジェリーさんて自分で時空間収納のスキル取れるんじゃないのか?

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