第34話 やはり努力を怠ってはならない

「覚醒? したらだいぶ身体に力が漲ってきた。やっぱりこっちに飛ばされてきた当初は力が抑制されてたみたい」


 ジェリーさんのその一言は、ダンジョン転移に巻き込まれてからの数日間、思うように力が発揮できない状態だったからこそ隠れていたという事実を裏付けるものだった。このステータスだったら、ゴブリンやオークなんて、いくらいようが問題ないだろうからね。

 そもそも、彼女が持っている認識阻害の魔法だって、眠っていた程度で解けるものではないらしい。僕達が彼女を発見出来たのは、彼女が十全に力を発揮できなかったからこその結果だったりする。


 持っているスキルの数とレベルの高さ。それに生体レベルとHP、MPの高さ。僕とは生体レベルがたった10違うだけなのに、2万超えのステータスとか凄いな。でも高レベルの魔法をポンポン放つには、それくらいの数字は必要なのかも知れないし、逆にそこに至るまでに一体どれだけのモンスターを狩らなければならないのか。


 見たところ、ジェリーさんは少なくとも経験値やSP取得にブーストが掛かるようなスキルは持ち合わせていない。つまりは正真正銘掛け値なしの努力の末に得た力って事だ。僕達がちまちまオークやゴブリンを狩っていたところで、到底辿り着けない境地なような気がする。


「ね、ジェリーってこの強さになるまでどれくらい掛かったの?」

「んー、80年くらい? そこから40年くらいは全然強くならないなぁ」


 何気ない会話のハズだった。リオンもそこまで深く考えた訳じゃないだろう。それに相手はエルフだ。分かってはいた。分かってはいたんだ。


「「アンタ一体何歳だーっ!!」

「えっと、まだ若いよ? 200歳超えたくらいだから」

「「……えっと?」」

「ニンゲンで言ったらハタチくらい? トウジとリオンも同じくらいじゃない?」


 相手はエルフだ。見た目通りの年齢じゃない事は分かっていた。でも流石に200歳は想定外というか……十代後半くらいの美少女にしか見えないのになあ。


 それに、ジェリーさんがレベル20に到達するまでに80年掛かったという点も気に掛かる。エルフの80年をそのまま人間に重ねても無意味かも知れないけど、それでも若くて体力もある状態が長い種族にして80年の月日。仮に人間が15歳くらいから本格的にモンスター討伐を始めたとしても、そこから80年も現役でいられるとは考えられない。65歳定年制を取り入れれば、実働50年だ。

 レベル20というのは、人間には到達不可能な領域じゃないのか? いや、取得経験値上昇のスキルがあれば可能なのかも知れないが。

 それからもう一つ。ジェリーさんがそこから40年も成長を感じていないという点。彼女の思い過ごしで無ければ、レベル20が上限という事も考えられる。

 更には。


「覚醒していきなりレベル20もアレだけど、スキルを既に持っている状態ってどういう事なんだろう?」

「うん、言いたい事も分かんなくないけどさ、もうそういうものだって納得しちゃいなよ? 異世界から連れて来られた人は覚醒すると本来の力を取り戻す。それでいいじゃない?」

「うーん? まあ、それでいいのかな?」

「いいのよ」


 なんとなくふわっとした感じでリオンさんに納得させられてしまった。彼女にそう言われると、それでいいやって気持ちになってしまうな。


「ニンゲンとエルフは生涯の活動時間に天と地程の差がある。総じてエルフの方が強くなるのは仕方がない」

「うんうん」


 見た目に反してかなりのお歳を召していらしたジェリーさんが諭すように語ると、不思議と耳を傾けなきゃっていう空気になるな。あの重度のコミュ障だったリオンさんが、既に普通に接しているのも年の功というやつか。


「二人が何が出来るのかはステータスというやつを見て概ね理解出来たけど、それをどの程度使えるかはまた別の話」

「どれだけの熟練度かっていう事?」

「そう。だから三人でダンジョンに行ってみよう」

「「……!」」

「そこで二人の力量を見極める」


 今まで考えなかった訳じゃない。表に出て来るモンスターではもはやレベルアップしようにも相当数倒さなくてはならない。

 しかし先日のオークの軍団のように、あの数の集団を指揮する上位種がいると、命を懸けるにしては得るものが少ないと感じてしまう。

 なので、ダンジョンに突入するのは僕とリオンさんがもう少しレベルアップしてからと考えていた。だけどここで規格外の力を持ったジェリーさんが協力してくれると言うなら話は別だ。僕とリオンさんは二つ返事で頭を下げた。


「「ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い致します!」」

「……? それは年長の者に指導を請う言葉?」

「ん? まあ、そうですね」

「二人揃って言うと、新婚の夫婦が長老に挨拶してるみたいね。ぷぷっ」

「「ああ……」」


 ジェリーさんに言われて僕達は顔を見合わせた。まるで新郎新婦の挨拶のようだね、確かに。


「こっちも知らない世界で生きていく為には二人の協力が必要。それに私と同じくダンジョン転移に巻き込まれた同族がいるかも知れない」

「……」

「だから二人には全面的に協力する。その代わり……」

「?」

「たまにでいいからまた美味しいものを食べさせて?」


 この食いしん坊エルフめ。しっかりオチを付けやがった。今度は激辛カレー10倍とか御馳走してあげよう。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る