第二章

第33話 異世界人が覚醒した場合

 異世界からこっちの世界に迷い込んだ――と言うか、ダンジョンの転移に巻き込まれたと言う方が正しいのかも知れないけど――エルフ族の女性、アンジェリーナさん。通称ジェリーさんを仲間に加えた僕達は、ジェリーさんを覚醒させるべくモンスターを狩りに来ている。

 聞けば、彼女がいた世界ではモンスターとの戦闘は一般的だったらしく、素材や肉なども有効利用していたらしい。なので彼女も相応の戦闘力は持っているとの事だ。

 尚、ダンジョンのモンスターは死ねばドロップアイテムを残して消えてしまうが、ダンジョン外で生まれて生息している者は死体がそのまま残るらしい。


「オークが来ます。3体ですね」

「ん。察知してる。問題ない」


 どうやらジェリーさんも索敵系の魔法を使っているらしい。特に焦った風でもなく、表情すら変えずに背中にかけていた弓を取った。うん、エルフと言えば弓だよね。


「「は……?」」


 だけどそこで僕とリオンさんは不思議な光景を目にした。

 弓は何やら古めかしい木材で造られているようだが、そこに弓弦はない。それどころか、矢筒の中は空っぽだ。しかしジェリーさんはキリリと弓弦を引き搾り、しかも三本の矢を番えている。

 不思議な弓弦と矢だった。実体があるようには見えず、薄く光った糸のような弓弦と、やはり実体のない光の矢。それがさも実在しているかのように弓矢の体を成している。


「フッ」


 短く息を吐いたジェリーさんが光の矢を三本同時に放つ。まだオークは視界には入っていない。矢は横方向に弧を描き、まだ建物の陰にいるオークに向かって飛翔した。

 なんだアレ。

 矢ってあんな風に飛ぶの?

てか、もうそれ弓じゃなくて別のナニカだよね? 誘導ミサイルみたいな。


「あ、頭の中にピンポーン♩って鳴った」


 ……という事は、今の攻撃でオークを倒して覚醒したって事だ。凄いな。


「生体レベル? がたくさん上がった。わわわ」


 は? たくさん上がったってどういう事だろう? 

 ジェリーさんはメニュー画面やら何やら、色んな情報が流れ込んで来て戸惑っているみたいなので、落ち着くまで少し待ってみるか。


「ふう……」


 かなり長い間中空に視線を彷徨わせていたジェリーさんが、大きな吐息を一つ。どうやらウインドウの中身を納得いくまで熟読していたらしい。

 このゲーム的なシステムは、僕達日本人にとっては比較的馴染み深いものだ。だけど異世界で暮らしていたジェリーさんにとってはそうではないだろう。理解するのに時間が掛かるのは無理もない。


「どうですか? 分かりました?」

「ん、だいぶ理解した」


 生体レベルというのは自分という存在の熟練度。HPは身体の頑強さ。MPは魔力の保持量。経験値やSPというのは今まで鍛錬して来た事を数値化したものだとジェリーさんは語る。うん、ほぼ正確に理解しているんじゃないかな?


「だけどスキルというのが理解できない。いや、理解はしているつもりなのだけど、トウジやリオンはこんな形で技を使えるようになっているの?」

「こんな形ってどゆこと?」


 ジェリーさんの問いかけにリオンさんは首を傾げる。恐らく、モンスターを倒す事によって得られるSPを消費してスキルを取得する事について言っているんだろうけど、異世界では違うのかな?


「んー……魔法にしても剣にしても、いや、職人の仕事や料理だってそうだけど、モンスターを倒したからと言って、ある日突然上手くなるような事はない」

「「あ……」」

「日々鍛錬を重ねる事によって腕を磨き、奥義を会得するもの」


 つまり、モンスターが現れる前の僕達と同じだったって事だね。何事も練習しなくちゃ上手くならないし、身に付かない。

 勿論、次のレベルに至るまでにはモンスターを狩らなきゃSPは入らない訳で、そう言う意味では経験は重ねている。

 だけど、例えば居合の達人が剣術スキルを取ったレベル1と、僕達のようなド素人のレベル1が一緒かと言われれば全然違う気がする。


 ……もしかしたら、ジェリーさんから見た僕達のスキルは、とても歪でハリボテのように見えてしまうのかも知れない。努力という裏打ち無しで手に入れた力なのだから。


「ところで、ジェリーってスキルは何を取ったの? まだレベル1だと大したものは取れないと思うけど」

「ん? レベル1?」


 リオンさんは軽い気持ちで聞いてみたんだろう。だけどジェリーさんは不思議そうな顔をする。


「生体レベルの事なら20。あと、スキルは特に取得しなくても、今まで使えていたものがそのまま反映されているみたい」

「「はぁ!?」」

「ひっ!?」


 あまりの衝撃に思わず大きな声をだしたもんだから、ジェリーさんが仰け反りながら驚いている。いや、びっくりなのはこっちだよ。なんですかレベル20って。もしかしてこのヒト、めちゃくちゃ強いんじゃないのか?


「あの、ジェリーさんが差支えなければ、お互いにステータスを開示しませんか? この先パーティとして活動していく上でも、お互いに何が出来るかは把握しておいた方がいいと思うんですけど」


 僕がそう提案すると、ジェリーさんも頷いてくれた。


「ん。ダンジョンがある以上、トウジとリオンがどの程度戦えるのか私も知っておきたいな。で、どうすればいいの?」

「じゃあ、僕からパーティに勧誘するんで受諾してください」

「ん。了承」



アンジェリーナ

称号:異世界種族の友

生体レベル:20

HP:22168

MP:22168

SP:30

経験値:9

所持スキル:風魔法レベル8、植物魔法レベル7、水魔法レベル2、土魔法レベル4、認識阻害レベル5、気配察知レベル5、弓術レベル9、剣術レベル2、身体強化レベル6、木工細工レベル6

装備品:世界樹の若枝の弓(SR)SS、ミスリルナイフS、マジックバッグ(R)

パーティリーダー:小早川冬至

パーティメンバー:立花莉音


 ……なんだこのひと。ステータスもスキルもアレだけど、持ってる装備も意味分からん。凄い。

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