第29話 反省

「それだけが理由じゃないわよね、斎藤君?」


 僕とメガネ君の会話に割り込んで来たのは弓の女の子だ。メガネ君の苗字って斎藤だっけ? 覚えてないや。


「さっきはありがとう。おかげで時間が稼げたよ」

「どういたしまして。で、斎藤君はミユキちゃんの手助けをしたいのよ」

「ちょ、ちょっとイネちゃん!」

「イネちゃんって呼ぶな!」


 突然高校生たちのコントが始まってしまった。まあ、今の様子から大体の事を察せられた。おさげちゃんことミユキちゃんとイネちゃんは気の置けない親友で、メガネ君こと斎藤サトシ君はミユキちゃんの事が好き。そしてミユキちゃんは、避難所にいる人達で小さな自治体みたいなものを作ろうとしていて、サトシ君はその手助けをしたいと。

 ちなみにイネちゃんの名前は小松美稲こまつみいねだそうだ。なるほど、それでイネちゃんね。弓道部のエースで、県内屈指の実力者だそうだ。


 ところで、小さな自治体という事だけど、その事についてミユキちゃんに詳しく聞いてみた。

 すると、ちょっと思いもよらない答えが返ってきて驚いた。


 モンスターを倒して覚醒すると取得出来るスキルは多種多様で、非戦闘系のものも非常に多い。スキルを取ったとしても戦いたくないという人も多いだろう。だけど働かざる者食うべからずのルールはこの非常時になっても変わる事がない。

 例えば水魔法を取得したけど戦闘は最低限で、生活用水を作り出すために頑張っているだとか、鍛冶というスキルで武器や農具を作っている人もいる。土魔法で山林を農地に変えたり、耕作というスキルを取った人は農業をやろうとしている。

 とにかくこの状況で自給出来るように、避難所の人達だけでも生活が完結出来るようにしたいんだと言っていた。

 もちろんその中には、戦闘班とも言うべき人達もいる。主にモンスターと戦ったり、こういった大型商業施設から物資を輸送する際の護衛などを請け負う人達だ。

 今回僕達の戦闘に介入したのは、その戦闘班が夜のパトロールをしている際、僕達が使っていた武器の銃声が聞こえたからなんだそうだ。何にせよ助かった。


 そんな戦闘班の中で、すこし離れた所から僕をじっと睨んでいるヤツがいる。いつぞやの金髪君だ。僕はその金髪君に近付いていく。


「な、なんだよ」

「そんな警戒しなくてもいいよ。君達のおかげで助かった。ありがとう」

「べ、別にアンタら助けた訳じゃねーし? 俺らもオークブッ倒してレベル上げたかっただけだし」


 なんだコイツ、ツンデレか。

 しかし手にしているのは何故か釘バットだ。いや、バットではなくて、おそらくゴブリンが使っていた木製の棍棒なんだけど、それに適当に釘を打ち込んだだけのものだ。少しでも攻撃力を上げようというのだろうか?


「君は――」

「ノブオだ」

「そうか。ノブオ君は棍術を取ったのか?」

「あたりめーよ! 男の喧嘩はぶん殴るのが基本だぜ!」


 何故かドヤ顔でそんな事を言われた。でも素手で殴り合うのはともかく、喧嘩に釘バットを持ち出すのはどうかと思うよ? しかも君、それ似合いすぎてるから……


「そうか、なら……」

「おっ!?」


 僕は時空間収納から、死蔵していた金属製のメイスを取り出した。急に僕の手に現れた物騒な殴り武器に、ノブオ君が驚いている。スケルトン共との戦闘のあと、打撃武器も必要かなと思い武器召喚で出したはいいんだけど、棍術スキルを今更取るのもなぁって……


「これをやるよ。それから、モンスターと戦う時は迷わず急所を狙え」

「お、おう……サンキューな」

「みんなを守るために有効に使ってくれ。さもないと……」


 僕は手を拳銃の形にしてこめかみに突き当てて見せる」


「わ、分かってるっつーの!」


 ははは。ノブオ君ガクブルだ。少し虐め過ぎたか。

 さて、リオンさんの所に戻ろうか。


***


 あのあと暫く話して、彼等は避難所に戻って行った。大きな借りが出来てしまったな。

 僕は彼等にドロップしたオーク肉などや武器をプレゼントしたんだけど、あれだけじゃ借りを返した事にはならないだろうなあ。

 ちなみに、自分達の避難所に来ないかと熱心に誘われた。というか懇願された。だけどそれは丁重に断らさせていただいた。理由は色々あるけど、一番の要因は彼女だね。


「う、う~ん……? あれ?」

「目覚めました? 心配しましたよ」 


 そう、極度のコミュ障の彼女を、プライベートも無いような集団生活の場に放り出せる訳がない。そんな彼女と僕は、大型スーパーの中にあるフードコートで休んでいる。今回は彼等に助けられた事もあり、この店の物資に手を付ける事は止めておいた。


「そう言えば、あたし、オークに殴られて……」

「ええ、かなりピンチだったんですけど、いつかのメガネ君とおさげちゃんが仲間と一緒に助けてくれまして。リオンさんに治癒魔法を掛けたのもおさげちゃんなんですよ」

「そっか……あたし、足引っ張っちゃったね」

「そんな事は……」


 いや、僕の判断ミスがリオンさんを危機に陥れてしまったんだ。相手の数は多くて、アンノウンも居た。戦闘に入る前にもっと確認すべきだったんだ。


「済みませんでした。僕の判断ミスです」

「あははは、いやあ、あれは相手も中々だったよ! 上位種に率いられた軍団って、手強いね」


 リオンさんは、僕の謝罪を軽く笑い飛ばしてくれた。でも彼女の言う通り、指揮官の下で統制の取れた軍団は手強い。これからは舐めて掛かれないな。

 ちなみに、鎧のオークはオークナイト、魔法を使うヤツはオークウィザードというらしい。知能が高そうなウィザードの方が部隊指揮官だったみたいだけど。


「ありがとうございます、リオンさん。これからはリオンさんが怪我をしないように頑張ります」

「うむ、精進したまえよ。ハハハ」

「さ、結構モンスターを倒したし、ビルドの整理でもしますか」


 偉そうなリオンさんを華麗にスルーしてここで今夜のリザルト。


◎撃破数

 小早川冬至

 ゴブリンリーダー×1、ゴブリン×41、トライアイズファング×1、トライアイズウルフ×12、スケルトンソルジャー×19、オークウィザード×1、オークナイト×2、オーク×69


 立花莉音

 ゴブリンリーダー×1、ゴブリン62、トライアイズウルフ×9、スケルトンソルジャー(ユニーク)×1、スケルトンソルジャー×12、オーク×93


◎取得経験値

 小早川冬至 1158ポイント

 立花莉音  1108ポイント


◎取得SP

 小早川冬至 1371ポイント

 立花莉音  1330ポイント


◎ステータス

小早川冬至

称号:ファステストキラー

  :断罪者 

生体レベル:9→10

HP:256→384

MP:256→384

SP:745→796

経験値:275→353

所持スキル:万夫不当4→5(武器召喚、治癒魔法、時空間収納、剣術、身体強化、取得経験値増加、取得SP増加、解析、解析阻害、セーブエナジー)索敵レベル3→4、隠形レベル3→4、合成レベル5

装備品:悪鬼漸滅の太刀C 魔剣ディフェンダー(SR)C

パーティメンバー:立花莉音


立花莉音

称号:ジェノサイダー

生体レベル:8→9

HP:171→256

MP:171→256

SP: 47→57

経験値:266→834

所持スキル:火魔法レベル4→5、水魔法レベル3、槍術レベル3、身体強化レベル4→5、取得経験値上昇レベル3→4、取得SP上昇レベル3→4、隠形レベル3、洗浄、時空間収納レベル3、セーブエナジーレベル2

装備品:ナイトのハルバードD ナイトバックラーD マジックワンド(R)D

パーティリーダー:小早川冬至

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