第27話 苦戦

「どうするの?」


 やや不安そうな表情で僕に判断を促すリオンさん。トミーガンは油断なくオークの方を向いている。

 共に遠距離攻撃の手段を持っているせいか、今は互いに様子見だ。僕達は建物の陰に隠れているし、奴らは隊列を整えている。もうこの時点で今までのオークとは違うし、奴らにしてみれば左右に分かれた部隊が僕達を包囲するのを待っているんだろう。


「いいのを一発貰っちゃったんで、このまま撤収するのは癪なんですよね」

「あ、分かるぅ! とは言っても、結構キツい状況だよ?」


 うーむ。多分魔法使いは奥にいる。だけどその前には盾を持ったオークがずらりと並んでいるんだよな。アサルトライフルで仕留めるのも難しそうだ。あんな粗末な盾なんて紙切れ同然だけど、オークの肉壁は分厚い。魔法使いには届きそうにない。

 しかもまだ敵は150体以上残っている。乱戦になっても生き残れるか?


「取り敢えず正面の肉壁、減らします」


 トミーガンを時空間収納にしまい、M16に持ち替える。


「左から来ている奴ら、丁度僕らの背後を取る形になるので、そっちは任せました」

「了解。トウジくんの背中はあたしが守ろう」

「頼みました」


 僕は道路に飛び出し、正面の肉壁オークに向かってM16のトリガーを引く。


 ダダダッ! ダダダッ!


 すると、オークの隊列が仲間の屍を踏み越えながら前進して来た。


 ダダダッ! ダダダッ!


 トミーガンよりは命中精度が高いせいか、無駄弾丸ムダダマは少ない。しかし敵の数が多い。オークの肉壁はいくら倒しても歩みを止める事なく、ジワジワと近付いて来る。しかもいやらしいタイミングで水魔法も飛んで来るので厄介な事この上ない。


 そしてついにストックしていたM16を全て使い果たしてしまった。オークの肉壁はかなり減ったが、肉壁の向こうにいる魔法を使うオークにはまだ届きそうもない。やむを得ず、時空間収納からトミーガンを取り出して応戦する。しかしストックはM16をメインにしていたので、そう手持ちが多い訳じゃないんだよな。それに召喚したトミーガンはリオンさん用に回している。


「チッ!」


 迂回していたオーク達の片割れは、既にリオンさんと交戦に入っているようだ。少し離れたところからトミーガンを掃射している銃声が聞こえる。早く片付けないともう一方の迂回路を通ったオーク達が到着し、挟撃されてしまうな。


 やがて最後のトミーガンも手の中から消失した。


「ち、固そうなヤツだ」


 肉壁を全て倒した中に、三つの影が立っていた。前に立つ2体は金属鎧に身を包み、左腕には小型の丸盾を固定している。手にはハルバード。なるほど、長柄の武器を扱うにはあのくらいの盾がいいのか。

 そしてその2体の後方には、紫色のローブを纏い、右手にはワンドを持ったオークがいた。コイツがさっきから魔法を撃ってきているヤツか。先に倒したいところだけど、そう簡単にはいかなそうだ。


 僕は右手に悪鬼斬滅の太刀、左手に魔剣ディフェンダーを持ち、鎧のオークに肉薄していく。鎧のオークも僕を魔法使いのオークに近付けさせないという意図からか、僕に向かって駆けてきた。


「ラァッ!」


 僕が振るった太刀はハルバードの柄で受け止められる。それでも身体強化レベル4の僕の膂力の方がやや勝っているのか、このままなら押し込めそうだ。そのままオークの腹を蹴り飛ばし追撃に向かおうとする。しかしもう1体のオークのハルバードが僕を襲う。それを跳び退いて躱そうとするが、その着地のタイミングで水弾が僕を襲う。

 くっそ、イヤなタイミングで!


 その時、僕の左腕の魔剣ディフェンダーがオートで反応し、水弾を斬り裂いた。

 やはり先に倒すべきはあの魔法を使うヤツか。しかしそんな僕の意図をあざ笑うかのように鎧のオークが行く手を阻む。


 くそっ、くそっ!

 早く片付けないとリオンさんが危なくなるとの焦りが僕を支配する。しかし巧妙に連携を仕掛けてくるオークに決定打を見いだせず、かといってオークの方も自動で防御する僕の魔剣を抜けずに泥沼の展開になってきていた。


 ……明らかに僕の作戦ミスだ。僕とリオンさんが一緒になって、各個撃破すべきだった。せめて魔剣ディフェンダーがオークの持つハルバードよりランクが高ければ、武器破壊で優位に立てるのに。


 その時ついにリオンさんの銃声が止み、魔法による爆発音が炸裂した。サブマシンガンの弾幕が無ければ、容易に敵の接近を許してしまう。今の彼女なら片手間でも倒せるオークだが、何しろ数が多い。接近戦に持ち込まれたら分が悪いはずだ。

 くっ、少しだけ時間が稼げれば……!


「きゃあああっ!」


 リオンさんっ!?


「くっ! このぉ!!」


 オークの棍棒の一撃を、脇腹にまともに受けたリオンさんが吹っ飛ばされていた。そこへオークが棍棒を振りかぶりながら突っ込んで行く。


 ――パンパン!


 危機一髪かと思われたリオンさんが、腰のホルスターから引き抜いて放ったのは、いつかの殺されていた警官から回収した拳銃だった。リオンさんはそのまま敵の進路を炎の壁で塞ぎ、ぐったりしてしまう。

 今すぐリオンさんに駆け寄って治癒魔法を掛けなければ。しかし僕が相手をしている3体のオークがそれを許してくれない。


 しかしその時オークの包囲網が割れた。


「ここは僕達が時間を稼ぎます!」


 迂回路を攻めて来た一団を斬り裂いて来たのは、いつかのメガネ君とおさげちゃんに引き連れられた十数人の集団だった。

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