第26話 統率されている?

 スケルトンの群れを倒した後も、モンスターの群れを探しながら討伐、移動、そして索敵を繰り返す。かなりの数を倒したけど、殆どがオークとゴブリンだった為、MPを消費するスキルは使用せず、接近戦で片付けていった。

 そうして移動するうちに、駅前エリアからは結構離れている事に気付く。


「僕らが日中休んでいる間に、モンスターに侵食されたエリアが広がってる感じですね」

「うーん、このままだと避難所になってる所が危ないかも?」

「そうなんですか?」


 この街に赴任してまだ一か月の僕は土地勘がない。でもリオンさんが言うにはこの先には市民体育館があり、避難所になっているそうだ。その近隣には大型スーパーがあるので、少しの間ならばそこの物資でどうにかなるらしいんだけど。

 索敵にあるモンスターがいる方向と、カーナビにあるマップを照らし合わせてみる。うーん、これ、マップデータと索敵データがリンク出来ればいいんだけどなぁ。


「あちゃあ、どうも、その大型スーパーに向かってるみたいですね。結構な数ですよ」

「どれくらい?」

「二百以上です」

「うわ……」


 敵は殆どがオークだ。ただ、UNKNOWNの反応もある。即ち、今まで接敵した事がない未知の敵も混じっているという事だ。


「リオンさん、MPはどれくらい回復しました?」

「さっき生体レベル上がったからマックスだよ」

「それじゃあまたトミーガンを召喚するので、ドバババッとやっちゃいましょうか」

「そだね。ヤバくなったらトンズラって事で行ってみよー」


 はは。そんな感じでいいのかもね。手の届く範囲で助けてあげられるのであれば助けてあげたい気持ちはあるけど、命の危険を冒してまで赤の他人を助けるようなヒーローじゃないんだし。

 ……僕が無理したら、リオンさんにも危険が及ぶからね。


「ここまで索敵に引っ掛からなかったって事は、僕達が昼間休んでいる間にこれだけの群れが移動してたって事ですか……」

「市の中心部はもう人がいないから、獲物を求めて移動してるんだろうね」


 リオンさんの言う通りなんだろうけど、なんなんだろうね。モンスターって人間を襲わないと死んでしまうのか?

 でも大型店舗を襲うのか避難所を襲うつもりなのか分からないけど、放置してもいい事は無さそうだし、僕達の経験値になってもらおうか。


 隠形を発動しながらオークの進行方向に先回りする。リオンさんには、トミーガンで掃射、炎の壁で時間を稼ぎつつ後退しながらまた掃射、の繰り返しで数を減らし、殲滅出来なかったら接近戦でという作戦で行く事を伝える。

 炎の壁にはそれ以外も使い道があって、横道を塞いで逃がさないようにも出来る。攻撃という面では微妙だけど、中々便利な魔法だよね。


「それからリオンさん、後ろにおかしな反応があるんですよ。敵性反応ではないんだけど、人間でもないっていう……」

「え? アンノウンって敵だけじゃないんだ?」

「そうみたいです。それに、凄く弱々しい反応なので気になります。後ろに敵を通さないようにしましょう」

「了解!」


 この謎の反応は恐らく大型スーパーの中だ。この得体の知れないヤツの正体を突き止めたいのもあるけど、ここは避難民の大事な食糧庫みたいなモンだからな。そう簡単には通してやれない。


 オークはこっちの想定通り、真っすぐに道路を進軍してくる。

 すでにこちらを捕捉しているオーク達が、何やら叫びながら手にした武器を振りかざして襲い掛かってきた。と言ってもブヒブヒブモブモ言っているようにしか聞こえないので、養豚場にいるみたいだ。


「今です!」


 丁度いい感じにトミーガンの射程に入ったので、僕とリオンさんで一斉射撃。あとは何も考えずに突っ込んで来るだけの連中に弾丸をぶち込むだけの簡単なお仕事……のはずだった。


「奴らが逃げ始めました! 炎の壁で逃げ道を塞いで下さい!」

「分かった!」


 ……逃げる?

 いや、一応想定はしていたけど、今まではただ愚直に人間を殺す為だけに、バンザイアタックと言ってもいいくらいに突っ込んで来るのが殆どだった気がする。それが逃亡と言っていいのか退却と言っていいのか……

 それでも僕は銃撃の手を休める事なくオークの屍を増やしていく。


「え……? 炎の壁が消されちゃった?」


 すると、逃げ道を塞ぐように立ち昇っていた炎の壁が突然消失した。今のリオンさんの反応を見る限り、全く想定外の事なのは分かる。

 炎の壁が消えた事で、オーク達は左右の路地へと逃げて行く。

 その時だ。


「ぐおっ!?」


 突然何か固いものが僕の腹にぶち当たった。そして服がずぶ濡れになる。

 ……水か?


「トウジくん!?」


 思ったよりダメージがある。腹を押さえて蹲っている僕を見たリオンさんが、心配そうな表情で駆け寄って来た。


「だ、大丈夫です」


 僕はすぐさま自分に治癒魔法を掛けた。ステータスを見れば、20ポイント程減っていたHPが全快する。同時に腹の痛みも引いた。HPを一気に20も削るって事は、生体レベル2くらいだと即死する威力って事だな。危ない危ない。


「また来ます!」


 どうにか立ち直ったタイミングで、再び水の塊が襲って来る。僕とリオンさんは左右に跳び退いてそれを躱す。

 間違いない。敵には魔法を使えるヤツがいる。それに魔法が着弾したアスファルトにヒビが入っている。あの威力はレベル2の水弾か?


「厄介だね……炎の壁を相殺するって事は、少なくともレベル3の水魔法を使える可能性が高いよ?」

「それに頭もいいみたいですね」


 索敵の反応を見ていて気付いたけど、横道に逃げて行ったオーク達は、逃げた訳じゃなかった。迂回して、僕達を挟み込もうとしている。


「このオーク共は、頭の切れる指揮官に率いられています」


 どうやら、思った以上に苦戦しそうだ。

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