第24話 助けた甲斐

 深夜になって、僕らは狩りに出かけた。理由は単純で、昼間よりモンスターの数が多い事と、上位種が混じっている確率が高いからだ。


「へえ、M16なんだ? ファンタジー小説なんかはよくAKを登場させてるけどね」


 スキルレベルが4になった事で、アサルトライフルが召喚出来るようになった。僕が召喚したのはM16というモデルなんだけど、それを見てリオンさんが珍しいものでも見るような顔だ。それにしても詳しいな、リオンさん。


「僕は銃火器に詳しい訳じゃないですけど、ほら、漫画で馴染みがあるというか」

「ああ、ゴル〇13ね」

「そうです」


 あの作品の主人公が使っていたのがこのM16だ。いくつか派生モデルがあるようなので、厳密には違うかも知れないけど。


「なるほど、マンガかあ。だからピストルはワルサーP38なのね」

「ですです」


 つまり僕の銃に関する知識なんてそんなものだ。テレビやマンガで見たからっていう程度の理由で召喚しただけなんだよね。性能とかそういうのは分からないもん。

 ちなみに武器召喚レベル4では、乗り物も召喚出来るようになっていたし、手榴弾なんてものもあった。ただ乗り物は軍用車両に限られているし、レベル4ではバイクだけ。今の所使い道がない。もっとレベルが上がれば戦車やら戦闘機やらも召喚出来るようになるかも知れないけど、そんなもの、操縦出来る気がしないなあ。

 実際はスキルのアシストがあるので操縦も問題なく出来るんだろうけど。


「でもさ、さすがにアサルトライフルはオーバーキルじゃない? オークやゴブリンならトミーガンでも十分すぎるし」

「それはそうなんですけど、単純に射程の問題ですね。今日はお試しです。ああ、スケルトン系が来たら手榴弾使いますね。あいつら経験値の割にめんどくさいんで」

「そうだね。じゃああたしも魔法メインで」


 という訳で、モンスターの反応を探す。深夜は昼にも増して反応が多い。そこで僕は、おかしな反応を見つけた。索敵もレベルが上がってかなり広範囲まで網羅できるようになっているが、その反応は2㎞程先。


「おかしな反応があるので行ってみましょう。2㎞先です」

「うん、分かった」


 それは人間と思しき反応がふたつとモンスターの反応が5匹くらいだが、徐々にモンスターの数が減っている。恐らく戦闘をしているんだろう。


***


「サトシ君! そっちに回り込んだよ!」

「分かった! ミユキちゃん、ここはお願い!」

「うん、任せて!」


 僕は二日前の夜、知らない人に助けられた。

不良のノブオ君に無理矢理連れて来られて、モンスターと戦わされそうになった。それはミユキちゃんも同じで。

 同じクラスだった僕達は、二人共大人しい性格だったのが悪かったのか、よくノブオ君や彼の友達に虐められる事があった。そんなある日、化け物が街に現れて人間を襲い始めた。それで沢山の人が学校に避難したんだけど、同じ避難所にノブオ君もいたんだ。


「おう、おめえら、夜中になったらモンスターを狩って覚醒すんぞ。おめえらはモンスターの体力減らせ。俺がトドメ刺してレベルアップしてやんぜ」


 モンスターを殺すと覚醒してレベルアップできるらしいという噂を聞きつけたノブオ君がそう持ち掛けてきた。断れる訳なんかない。もし断ったらきっと酷い目に遭わされる。

 それにきっとノブオ君は、モンスターの経験値を独り占めするつもりだ。僕らは踏み台にされて終わりだ。それが分かっていても、僕には断る勇気がなかった。


 目の前に迫る化け物の群れに、僕らは足が竦んで動けない。それでもノブオ君は後ろから早く戦えと命令してくる。

 そんな時助けてくれたのが二十代前半くらいのお兄さんとお姉さんの二人組だった。

 ゴブリン2匹を無力化した状態で僕とミユキちゃんにトドメを譲ってくれただけでなく、ノブオ君を脅した上で追い払ってくれた。おかげで僕とミユキちゃんは覚醒して力を手に入れる事が出来た。

 強くなって、いつかあの二人に恩返しをしたい。だからたくさんモンスターを倒そう。僕とミユキちゃんはそう約束してモンスター狩りに来ている。昼間じゃなくて深夜なのは、心配する家族にバレないように、こっそり抜け出て来ているから。


「ふう、ここはこれで全部だね」

「あ、僕のSPが10ポイントになったよ。これで時空間収納を取れる!」

「あたしも10ポイント溜まったから、治癒魔法を取るよ」


 今まで剣術と身体強化を取っている。これでもゴブリン相手ならなんとかなるんだけど、ドロップアイテムを拾えないのが悩みの種だったんだよね。拾ったゴブリンの小剣はすぐ壊れちゃうんだ。だからいくらでも収納の中にストックしておきたい。

 それにミユキちゃんが治癒魔法を覚えたから、今度はもう少し強い敵にも挑戦できるかも知れない。あ、でもその前にもっとスキルレベルも上げなくちゃ!


***


「あら、あの時の眼鏡君とおさげちゃんじゃない」

「ちゃんとレベル上げに勤しんでるみたいですね」


 僕達は隠形のまま、建物の上から奇妙な反応の元凶を観察していた。ゴブリンの群れと戦っていたのは、金髪君に無理矢理戦わされそうになっていたメガネ君とおさげちゃんの二人。解析で見てみると、二人は剣術スキルの他にも身体強化も取得しており、あれからも戦闘を熟してきた事が分かる。生体レベルも3になっており、積極的に戦ってきたんだろう。


「ゴブリン相手なら、多少の数の不利はどうにかなるみたいね」


 リオンさんが言う通り、二人は拙いなりにも連携を取って、被害が出ないように立ち回っているように見える。ただ、気になるのはたまにドロップした剣と持ち替えている事だ。


「下手に打ち合ってるから、刃毀れしたり曲がったりしちゃうのかもね」

「Fランクの武器じゃしょうがないかー」

「ね、Eランクに上げた剣、プレゼントしてあげたら?」

「あ、そうですね。頑張った子にはご褒美です」


 僕はストックしていたオークの剣を二振り、メガネ君とおさげちゃんの近くに放り投げた。くるくると回転しながら飛んでいった剣は、サクッと地面に突き刺さる。ゴブリンの小剣よりも刃渡りが長めの両手剣だ。勿論合成でEランクに上げてあるし、身体強化があるなら片手でも扱えるだろう。


 いきなり目の前に剣が降って来てびっくりしている二人を見届けたあと、僕達は獲物を探して立ち去った。

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