第23話 甘いパンケーキ

 翌日、朝食を終えた僕達は今日の予定について話し合っていた。


 オークが相手なら得られる経験値やSPはそこそこだけど、実際のところ出くわすモンスターはゴブリンが多い。ゴブリンやトライアイズウルフが相手だと、それこそ数百匹を倒さないとレベルアップは厳しい状況になってきている。

 駅前近辺での狩りでは、間もなく頭打ちになるのではと思っているのだけど、それはリオンさんも同じだったみたいだ。


「じゃあ、狩りは夜にして、昼間は各自準備って事にしますか?」


 この二日間、モンスターとの戦闘や物資漁りばかりだった。生体レベルが上がったせいなのか、身体の疲労はそれほど感じないけど、心の方はどうだろう?


「うーん、そうだね。スキルの検証とかしたいよね。今後あると便利そうなスキルとか」

「ふむふむ」

「あとは……」


 途中まで言いかけたリオンさんが立ち上がり、僕の隣に寄りそうように座り直した。

 え? ええ?


「多分、スキル構成のせいもあるけど、この先どんどんレベル差が開いていくと思うのよね」

「ああ……」

「でもあたし、トウジくん以外の人となんてやっていけないし……」

「……」


 もしかして、そのうち僕に捨てられるんじゃないかと心配になった?

 僕達以外の覚醒者って、早い人でもまだレベル2か3くらいだと思う。打算的に考えれば、僕の方こそリオンさんが必要だ。理由は単純明快で、彼女以外の人間が戦場で僕の足を引っ張らずに動けるとは思えない。

 僕達は群れを見つけて纏めて経験値を稼ぐスタイルだ。低レベルの人が付いてこられる戦闘じゃないんだよね。

 もしかしたら、自衛隊員とかが最新の武器でモンスターを大量に倒していれば、僕以上にレベルが高い人もいるかも知れないけど、少なくともこの近隣の自治体では自衛隊が出動したなんて話は聞かない。

 だから、もしプレイヤーランキングみたいなものがあったとしたら、間違いなく僕とリオンさんでワンツーだと思っている。

 そういう意味では、僕もリオンさん以外の人とやっていくなんていう選択肢はないんだけどな。


 ただ、彼女が僕に固執するのは理由が違う。僕だけが、彼女のコミュ障を突破出来ているからだ。だから、根本的に必要としている理由がお互いに違う。でもお互いに必要なのは間違いないっていうかな。

 僕は戦闘面でリオンさんが必要だし、リオンさんはそれ以外の面でも僕を必要としている。それならいいじゃないかと思う。


 僕は、寝る前にストックしておいたトミーガンをいくつか時空間収納から取り出し、リオンさんに渡した。あと、警官の遺体から回収した拳銃とホルスター。それに合成してランクを上げた、ゴブリンの短槍D。

 リオンさんはきょとんとした顔でそれを受け取り、自分の時空間収納に保管していく。


「この先、もっと強いモンスターと戦っていきます。僕にとってもリオンさんは必要ですよ」

「う、うん?」

「僕の背中を任せられるのはリオンさんだけって事です」

「うん」


 リオンさんが、僕の肩にコテンと頭を乗せてきた。

 なんだこれ、ドキドキする。まさかのラブコメ展開だろうか? 本当に、戦闘面だけなのか? 彼女を必要としているのって。

 そして頭を上げて僕に向き直った彼女が言った。


「いつか、戦力としてだけじゃなく、それ以外のところでも頼ってもらえるように頑張るね! えへへ」


 うわあ……

 ヤバいこれかわいい。会社の彼女とは全く別人だから感じるギャップのせい? それとも僕に女性に対する免疫が無さ過ぎるの? 


***


 甘くなった雰囲気に耐えかねたリオンさんがお茶を準備している間に、僕は所持品の合成を行っていた。大量にドロップしていたゴブリンやオークの武器を整理するためだけど、手持ちの武器も強化したい。

 それから、数打ちの太刀を合成してランクを上げようと思ったんだけど、ゴブリンやオークの剣を合成素材にする事が出来た。


【悪鬼斬滅の太刀D】


 銘は悪鬼斬滅だって。ゴブリンは小鬼だし、オークは豚鬼とか言われる事があるもんね。そいつらがドロップした剣を素材にしたからだろうか?

 尚、名前だけでオークやゴブリンに特効はない模様。これからはDランクの剣を量産して、悪鬼斬滅と魔剣ディフェンダーのランクを上げていく事を目標にしよう。

 補足。合成スキルをレベル5まで上げたんだけど、レベル5はBランクをAランクに上げる事が可能だ。早速オークのブロック肉Dを合成してCランクにしたんだけど、それは今晩の夕食になる予定。楽しみだね。ちなみにDランクをCランクに上げるには、Dランクの素材が20個必要だ。高級肉だね。


「おまたせ!」


 お茶の準備の割には長いなって思ってたんだけど、リオンさんが甘い香りを漂わせながらようやく戻ってきた。


「えへへ。パンケーキ作ったんだ。一緒に食べよ?」


 ウチにそんなものを作る材料なんかなかった筈なんだけど、きっとリオンさんが回収してきた物資の中にあったんだな。

 小麦色にこんがりと焼けたパンケーキにちょこんとホイップクリームが乗っているやつと、定番のバターとシロップが掛かっているやつの二種類。


「あんまり時間を掛けると悪いから、簡単にしちゃったんだけど」

「いや、美味しそうですね」


 美味しそうなのは本当だ。アツアツのパンケーキの上でバターが溶けていく。視覚的にももう美味い。


「はい、どーぞ」


 フォークだけで器用に切り分けたパンケーキを、僕の口に運んでくるリオンさん。


「え? え?」

「あーん」

「あ、あーん?」 


 これが伝説の『あーん』か……

 よし、受けて立とうじゃないか。


「リオンさん、あーん」

「ひょええ?」

「あーん」

「あ、あーん……」


 このあとめちゃくちゃイチャイチャしたかって? 

 寄り添っていた事をそう言うなら、そうかも知れない。

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