第18話 あなたと食べる食事

「洗浄ですか?」

「てへっ☆」

「結構コストが重いスキルじゃないですかそれ」


 別にリオンさんを責めてる訳じゃないんだけど、新たに取得したスキルの中に洗浄があると聞いてちょっと驚いた。

 通常ならSPを20も消費、ジェノサイダーの称号効果があっても10ポイントを消費して取得する割には、モノをキレイにする効果しかないスキルだ。

 正直、優先度が高いとは思えないんだよね。


「あたし、これからもトウジくんと一緒にいるし?」

「そうなんですか?」

「そうだよ!? そうしたらさ、やっぱり乙女的な部分で必須のスキルだと思わない!?」


 よく分からないけど、お風呂とか洗濯とかの話なら、まだライフラインが途切れている訳じゃないのでそんなに急ぐ必要もないと思うんだけど……


「下着とかお洗濯して、トウジくんのお部屋に干すとか恥ずかしいでしょ! それとも見たいの?」

「あー、縞々のやつ」

「今はセクシーなやつだってば!」

「へー(棒)」

「ぬくくく……Tバックだぞ! 小さいんだぞ!」

「へー(棒)」

「くっ、今日一日で随分手強くなったわね、トウジくん……」

「あっはっはっは」


 リオンさんも随分と柔らかくなったので、僕も思い切ってからかってみた。会社と違って素顔(ノーメイクという意味ではない)を見せる彼女は、小柄な事もあってあんまり年上という感じがしなくなった。どちらかと言えばお姉さんぶってる同級生みたいな感じが近い。

 でも言われて初めて気が付いた。確かに年頃の女性としてはデリケートな問題だよね。何なら、いくらライフラインが生きてるからと言って、恋人でもない男の部屋のお風呂を借りるとかラブコメ小説じゃあるまいし。


 でもまあ、リオンさんも今回得たSPの使い道はポイントを押さえていたと思う。戦闘時にメインで使う火魔法をレベル3に上げ、身体強化もレベル3にした。これは魔法戦闘に特化にしようという狙いが見える。その上で、敵に接近された時に対処できるように身体強化をレベル3にした、そんな感じだろう。

 僕みたいな器用貧乏になりそうなタイプとは真逆だけど、うまく噛み合えばいいなあ。

 それから時空間収納も取得している。まだレベル1だけど、これで僕もリオンさんのデリケートな私物とか女性特有のアレとかソレとかを持たなくていいのは気が楽になった。


「さて、今日はもう休もうか。流石に疲れたし」

「そうですね。僕は武器召喚でストックを貯めてから寝ます。あ、ベッドどうぞ。僕は隣の部屋で」

「……う、ん。ありがと」


 最後のリオンさんの間が少し気になるけど、僕は隣の部屋に移動した。毛布だけ出して、ゴロリと横になりながら、サブマシンガンを六挺召喚して時空間収納に保管する。これで明日からの戦闘も楽になるだろう。

 照明を消して目を閉じると、すぐに睡魔に飲み込まれた。


***


「おはようございます……?」

「あ、おはよ! よく眠れた? 台所と冷蔵庫にあった食材、適当に使わせてもらってるよ」

「……はあ」


 目覚めてトイレに行こうとしたら、小柄な女の子が台所でバターが熱せられるいい匂いを漂わせていた。

 そうか、昨日は突然モンスターが現れて、リオンさんを助けて、一緒にレベリングして……

 普通ならドキドキの一夜なんだろうけど、疲れすぎて爆睡しちゃったなあ。


 トイレを済ませて顔を洗い、リオンさんに声を掛ける。


「手伝いますよ?」

「あ、だいじょぶだいじょぶ。もう出来るから。お部屋で待ってて?」

「あ、はい。済みません」


 僕のアパートは二部屋あるけど、昨夜僕が寝た部屋はほぼ物置みたいなもので、普段の生活はほとんどこちらのリビングで済ませている。テレビにデスクにパソコン、ベッドにちゃぶ台。男の一人暮らしなんてこれで間に合う。


 ちゃぶ台に向かって座り、テレビを点ける。


『――このように全国各地の主要な駅に出現したモンスターにより、多くの犠牲者が出ております。政府はこの事態を受けて緊急事態宣言を発令――』


 毎朝惰性で見ていた情報番組も昨日の事件で持ち切りだ。


「出来たよ」


 そこへリオンさんが朝食を運んで来た。

 白いご飯にオムレツ、ボイルしたウインナー、千切りキャベツに豆腐の味噌汁。ほかほかと湯気を立てているそれらのラインナップに、僕は感動してしまった。


「ごめんね、簡単なものしか出来ないんだ」

「いえ、そんな事……」


 昨日の食事は楽しかった。でもオーク肉を焼いてご飯と一緒に掻き込むだけの大雑把な夕食だった。それでもリオンさんと談笑しながらの食事はとても楽しくて。この先、一人きりの生活に戻れるんだろうか。そんな事すら心配するレベルで。

 だけど、この朝食は『誰かが』僕の為に作ってくれたものだ。あり合わせの簡単なものだと彼女は言うが、交際経験のない僕の為に、朝ごはんを作ってくれる女性がいた。これがどれだけ心を震わせる大事件だったのか分かって欲しい。


「とても美味しかったです。御馳走様でした」

「おそまつさまでした」

「いいお嫁さんになれますね」


 朝食は本当に美味しかったし、心を開きさえすれば気さくないい人だし、見た目だって可愛らしい。僕の言葉は本心だ。

 でもリオンさんはそれを笑い飛ばした。


「あははは、無理無理。あたしコミュ障だし、赤の他人と結婚して一緒に暮らすとかどんな拷問よ――んん?」

「は?」

「一緒に暮らしていけそうな人、発見!」


 急にリオンさんが真顔になった。

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