第16話 厄介な魔剣
バキッという破壊音と共に、骨が砕け地面にバラけて散っていく。頭蓋骨を踏み潰し、目に付いたヤツに太刀を振るう。周囲は敵だらけ、何に気を使うでもなく、振るえば敵に当たる状態だ。
弱い。単純な戦闘力で言えばゴブリン以下だ。スピードも無いしパワーも無い。ただし、こいつの厄介さは戦闘力じゃなかった。
「くっ! この、面倒だな!」
僕はいちいち頭蓋骨を踏み砕きながら戦っていた。丈夫な安全靴で良かったよ。大事なスニーカーでこんなもの踏み潰すの嫌だもん。
そう、こいつらは骨格をバラバラにしても、頭蓋骨が無事だと勝手に組み上がって復活してくる。だから面倒でも必ず頭蓋骨を破壊しなくちゃいけない。
「リオンさんナイス!」
「任されて!」
少し離れた場所にいたスケルトンソルジャーが燃え上がり、炭化したあと灰になった。
リオンさんはバラバラになった骨のうち、僕が潰し損ねた頭蓋骨を燃やしている。こういう判断力、凄いなって思う。
そして残る1匹は例のユニーク個体だ。
「なっ!?」
スケルトンソルジャーは僕の斬撃を左手の剣で受けた。刃が黒い両刃の直剣だけど、形は至って普通で魔剣らしい禍々しさは無い。だけど、その魔剣は僕の無銘の太刀をまるで大根でも切るように切断してしまった。
それに、今の一撃には違和感がある。僕の踏み込みのスピードに、明らかに反応出来ていなかったんだ。正直、『もらった!』って内心叫んだくらいだ。
だけどこのスケルトンは不自然に反応し、僕の太刀を斬り裂いたんだ。
スケルトンソルジャーの追撃が来る。右手に持った、ごく普通の直剣だ。僕は斬られた太刀が消失してしまったので、後方に下がりながら収納の中の剣を取り出した。ゴブリンの小剣とゴブリンリーダーの長剣。向こうが二刀流なら僕も対抗しよう。
両手に剣を構えると、スケルトンソルジャーの足下に火の玉が着弾した。リオンさんは直撃を狙ったっぽいが、スケルトンが一歩引いて躱したようだ。
続いて火の玉がスケルトンソルジャーを襲う。しかしなんと、ヤツは左手の魔剣で火の玉さえも斬り裂いてしまった。斬られた火の玉は酸素でも無くなってしまったかのように消えてしまう。
「ちょっと何それ! 魔法を斬るとか反則!」
憤慨したリオンさんが叫ぶ。本当にそれには同意しかない。だけど今のも不自然だった。タイミング的に回避は間に合わないと思ったし、体勢も左手の魔剣で受けるにはかなり無理があるものだった。しかし、人間の関節ではちょっと無理そうな可動域の広さで受け切ってしまったのだ。
もしかしたらあの魔剣……
「リオンさん、ちょっと時間を稼いで下さい!」
「わ、分かった! でもあんまりMP残ってないからね!?」
「急ぎます!」
そう言って僕は、収納の中に収めたFランクの剣を合成していく。そしてさっき入手したゴブリンリーダーのSPを使って合成スキルをレベル2へ。SPを6ポイント消費して残りSPは9ポイントだ。
ランクFからランクEに上げるのは、同じランクのものが合成元と素材、それぞれ1本ずつあればいい。合成を繰り返してランクEの剣を10本用意できた。これでMPを30消費した。
そして今合成したランクEの剣10本を、ゴブリンリーダーが持っていた【ゴブリンリーダーの長剣E】に合成する。これで更にMPを消費して残り15ポイント。ランクEのアイテムをランクDに上げるには、同じランクの素材が10個必要になる。
ともあれ、これでヤツが持つ魔剣と、ランクだけは同等のランクDの剣が出来た訳だ。
「トウジくん! これで撃ち止めだよ!」
僕に近付こうとするスケルトンソルジャーの足を止める為、リオンさんが最後の火魔法を放った。
「十分です。有難うございました!」
ランクDの長剣を右手に持ち、左手にはランクEの小剣を持った。まずは左手の小剣で斬り掛かる。するとヤツは、左手の魔剣でそれを受け、右手の剣で斬り掛かってきた。僕はそれを作ったばかりのランクDの剣で受け止める。
すると、僕の左手の小剣はヤツの魔剣に破壊されたが、ヤツの右手の剣は何事もなかった。
恐らくだけど、ヤツの魔剣は武器破壊の特殊能力を持っているのではないか? 例えば自分のランク未満のものは問答無用で破壊する、みたいな。
残念ながら相手の持ち物に解析を掛けてもそこまで詳しくは見る事が出来なかった。いずれスキルレベルが上がれば見れるようになるかも知れないけど。
魔法に関しても同じだろう。ランクFをスキルレベル1の魔法と同等と仮定すれば、それも頷ける。だからレベル3以上の魔法なら、ヤツの魔剣の特殊能力を無効化出来る可能性はあるかもだね。
とにかく、手持ちの武器で渡り合えそうなのはこの出来立てホヤホヤの長剣のみ。これでやるしかない。MPの残りが15あるけど、これは最後の手段だ。
僕は幾度もスケルトンソルジャーと切り結ぶ。身体強化レベル3、剣術レベル3。恐らくスペックでは圧倒しているはずだ。奴の攻撃は余裕で捌けるし、僕から見ても隙が結構ある。だからその隙を攻めているんだけど……
あの魔剣に阻まれる。大した事のない相手なのに、防御を抜けない。このモヤモヤとした違和感。徐々に思考がイラついてくる。
「おらぁっ!」
力任せに剣を横薙ぎに振るった。例え上手く受け止めたとしても、力を逃がしていなすなり何なりしないと、その場に留まっている事など不可能な程のパワーが込められていたはず。しかしスケルトンソルジャーは魔剣でその一撃を受け止め、微動だにしていない。
反撃を喰らう前にすぐに剣を戻し、今度はパワーよりスピード重視の連撃を喰らわす。奴は防戦一方だ。全くスピードに対応出来ていない。右手の剣で受けた時は体勢を崩す。しかしそこを狙って斬り込んでも、左手の魔剣が僕の攻撃を防いでしまう。しかも魔剣で防御した時は、体勢を崩す事すらない。
まるで魔剣が意思を持ってスケルトンソルジャーを守っているみたいだ。
そこまで考えが及んだところで、僕にアイディアが降って来た。虎の子のMPを使い果たす事になるし、下手をしたら文字通りの肉を切らせて骨を断つ事になるかも知れない。でも今の僕に出来るのはこれしかない気がする。
もしこれがダメだったら……
「リオンさん、これから奥の手を使います! もしダメだったら撤退して出直しましょう!」
「うん、分かった!」
僕に答えたリオンさんは、決死の覚悟で短槍を握っていた。
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