第14話 レベリング……?

 僕達は再び、車で市の中心部へと向かう。


「うーん、やっぱり覚醒者が徒党を組んでトラブルを起こす事件が発生してるみたいだね」


 助手席でスマホを見ながらリオンさんが嫌そうな顔をしていた。


「事件と言うと?」

「ほら、トウジくんが懸念してたような事だよ。暴徒化してお店を襲って強奪したり、縄張り争いをしたり」

「やっぱりですか」

「あ、トウジくんの投稿記事、凄くいいねが付いてる!」


 ああ、寝る前に捨て垢で投稿した覚醒の内容か。


「まあ正直どうでも良かったんですけど、それを見た人が他人に頼り切りにならないで、せめて自分と自分の大切なものくらいは守れるようになってもらいたいですね」

「そうだね」


 それからは暫く無言で車を走らせた。信号や街頭がまだ稼働しているところを見ると、中心部のライフラインはまだ無事みたいだ。


「ここから隠形で行きましょう。あとこれ」


 駅から少し離れた場所に車を停め、リオンさんに合成したゴブリンの短槍と、ストックしていたワルサーを手渡した。


「わあ! なんか槍は軽くて扱いやすくなってるし、これ、いいの?」


 ブンブンと槍を振り回したり、キラキラした目でワルサーを眺めたり、リオンさん、上機嫌。


「あ、出てきましたね。駅からです」


 駅前ロータリーのあたりから急に索敵に反応が出た。もしかして、駅の中は索敵が効かないのか? まあ、それは後で。今は敵に集中しよう。

 僕達は無人となったビルの三階から様子を窺う。ゴブリンだ。数が多いな。20匹くらいいる。


「あ、あれ、大きいね」


 リオンさんが言う通り、他のゴブリンより頭二つくらい大きな個体がいる。持っている剣も小剣ではなく、両手剣だ。

 解析スキルで見たところ、ゴブリンリーダーというらしい。


「多分ゴブリンの上位種だと思うんで気を付けて。まずは取り巻きから片付けますか」

「うん!」

「――!? ちょっと待って下さい。なんか、人間が三人近付いてきます」

「へ?」


 こんな深夜に物盗りか? と思ってしまう。でも様子がおかしい。

 金髪を逆立たせ、派手なスタジャンにニッカボッカという、ガラの悪そうな少年が木刀らしきものを持っている。そしてその少年の前には気弱そうな眼鏡の少年。こちらはバットだ。そして同じく気弱そうな少女が一人。こっちはおさげ髪で文学少女っていう感じだ。包丁を持っている。


「う~ん、何となくお察しな感じですね」

「いじめっこがいじめられっこを強制的にバトルに参加させてパワーレベリングだね」

「まあ、この場合はパワレベの意味合いが違う気がしますけど」


 パワーレベリングとは、レベルの高いプレイヤーがモンスターのHPを削り、低レベルのプレイヤーにトドメを刺させてレベルを上げさせるプレイの事だ。

 だけど見た感じ、気弱そうな少年少女にゴブリンのHPを削らせ、ガラの悪い少年がトドメを刺して経験値とSPを独り占め。そんな図式に見える。


「どう思う?」

「無理でしょうね。三人とも覚醒してないみたいですし」


 こっちの三人も解析スキルで見たけど、生体レベルが[―]という表示だった。つまりまだ覚醒していない。そんな人間がゴブリンとは言え20匹を相手に勝てるとすれば、それはかなりの武術の達人か何かだろう。


「オラッ! グズグズしてねえでとっとと行けよ!」


 金髪少年に背中を蹴られて気弱な少年が前に押し出される。


「テメエも行かねえと蹴るぞゴラァ!」

「ひっ」


 ゴブリンより金髪君の方が怖いのだろうか。文学少女の方もトボトボとゴブリンに向かって歩いて行く。


「いいか!まずは1匹押さえつけとけ!」


 金髪少年がそう叫ぶが、そんな事、出来る訳がない。ゴブリンは単独で襲ってくる訳じゃないからね。特にあの上位種のゴブリンリーダー。アレに率いられたゴブリンの群れは、強さに補正が掛かる。


「どうするの? あの子達死んじゃうよ?」

「はぁ、まあ、元々僕らが狩るつもりのゴブリンでしたしね」


 リオンさんはあくまでも僕の判断に任せるようだ。


「ちょっと手荒になりますけど、あの金髪君には社会の厳しさってヤツを教えてあげましょう」


 僕はリオンさんに作戦を耳打ちしてから、外に出た。


「はーい、そこの君達、こんな夜中に何をしてるのかな?」


 隠形のまま、金髪君の背後から声を掛ける。


「なっ!? なんだぁテメエは!」

「ダメじゃないか。嫌がる子を無理矢理戦わせるなんて。彼と彼女、死んじゃうよ?」

「うっるせえんだよ。てめえにゃカンケーねえんだよ。すっこんでろおっさんよぉ!」


 おっさん?

 このガキ、やっぱりちょっと痛い目を見ないと分からないらしいね。


「――ッ!?」


 僕は金髪君の眉間にワルサーの銃口を突き当てて言った。


「あんまり生意気だと指が滑るかも知れないよ?」

「へっ、へへへ、そんなモデルガンなんかに騙されねえぞ」

「モデルガン?」


 ガクブルしながらも結構頑張る金髪君。


 ――パァン!


ゴブリンの群れに向けて一発撃ち込んだ。硝煙の臭いが辺りに立ち込める。


「ああ、そこの眼鏡の君、そのゴブリンにトドメ刺してね」

「は、はい!」


 ――パァン!


 続いてもう一発。


「そこの彼女も、ソイツにトドメさしてね? 大丈夫、相手はモンスターだから。殺さないと君が死んじゃうよ?」

「は、はい……」


 さて、と。次は金髪君に銃口を向けた。


「モデルガンじゃないのは分かってくれたかな? さあ、もう君は帰ってくれる? あ、そうそう、ここは僕達の狩場だから。次、同じように他力本願でレベルを上げようとしたら――」


 ――パァン!


 三発目は金髪君の足下へ。


「殺すぞ」


 低い声でドスを効かせながら耳元で囁く。


「ひ、ひいぃぃぃ!」


 金髪君は木刀を投げ出して走り去って行く。さて、逃げた先にモンスターがいなければいいけどね。ま、僕の知った事じゃないか。


 こうしている間にも、リオンさんが住宅の屋根の上から魔法を放ってゴブリンを倒している。僕も積極的に参戦しないと経験値もSPも入って来ないな。



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