第12話 世間の状況

 食事を終えて一息つく。


「コーヒーでも飲みますか? インスタントですけど」

「うん、ありがとう! 濃いめ、ミルク多め、お砂糖なしで!」


 そんなどこぞのチェーン店で注文するみたいに言われてもね……

 取り敢えず注文通りのものを作ったつもりで、マグカップをちゃぶ台にコトリと置いた。男の一人暮らしで、ダイニングテーブルみたいな気の利いたものはないんだよ。

 僕はデスクに向かってノートパソコンを起動した。情報収集だね。


「うん、ちょうどいい感じ! ね、テレビ見てもいい?」

「あ、どうぞ」


 リオンさんがコーヒーに合格点をくれたあと、リモコンを手に取った。

 僕はパソコンの画面とにらめっこで、あまりテレビを気にしていなかったけど、リオンさんはスマホとテレビを交互に見ながら、チャンネルを変えたりスマホを操作したり。


「あんまり良くない状況みたいですね」


 ネットで調べた限りでは、日本各地の主要な駅で、同じようにモンスターが発生しているらしい。折しも通勤通学時間だった事もあって、甚大な被害が出ているみたいだ。反対に、電車やバスも通らないような田舎では、通常と変わらずに過ごしている人も多いらしい。

 取り敢えず、基幹となる駅の近辺がヤバいのは、どこも同じみたいだ。

 ただ、出現しているモンスターの種類は何処も同じではないらしい。植物系のモンスターが多い場所、動物系のモンスターが多い場所、動物系の中でも哺乳類系や爬虫類系、両生類系、虫系など、様々だ。

 そしてどこでも、出現するモンスターの種類は偏っている印象を受ける。僕達が住んでいる場所だと人型モンスターが多いけど、植物系や虫系などは見た事がない。


「交番みたいな数人のお巡りさんしか常駐していない所は襲撃に耐え切れなかったみたいだし、ある程度まとまった人数で組織的に動かないとまともな防衛は無理みたい」


 リオンさんもテレビとスマホで情報収集していたみたいだ。

 自衛隊や米軍基地、それに各自治体の警察署は流石に無事みたいだけど、避難所があまりにもバラけすぎているので、救助も中々捗らないだろうな。何しろ物理的に戦力が足りなすぎる状況みたいだし。


「でも覚醒者がポツポツと現れているっぽいよ。ほら」


 リオンさんがそう言ってスマホの画面を見せてくれた。それはSNSに動画をアップしたもので、コメントには化け物を倒したら魔法が使えるようになった! と書いてある。その人は、飛び出してきたゴブリンを偶然車で轢き殺してしまったらしい。

 肝心の動画の方は、手のひらに炎を浮かべて、それを投げつけるというものだった。うん、火魔法レベル1のやつだね、これ。

 ただ、その投稿のコメント欄を見ると、信じていない者も半数以上はいた印象だ。まあ、それはそうだよね。いきなり魔法とかナニ言ってんのコイツって感じだろう。


「でもコレを見て信じた人が立ち上がれば、モンスターに対する民間人の反攻の狼煙が上がるかもですね」

「あはは、そうだね。じゃあさ、あたし達の戦闘動画を撮ってアップする?」

「いやそれはちょっと、っていうかかなり嫌ですね……」


 それやったら絶対に頼ってくる奴や依存する奴、利用しようとする奴が出てくるはずだ。僕はリオンさんを助けたけど、これは例外。余程大切な人が襲われでもしない限り、他人の事を背負いこもうとは思わないね。


「あはは。トウジくんはあたしを助けてくれた時、正義のヒーローみたいに見えたけど、その実、そんな事ないよね」

「まあ、知らない人のために積極的に命を掛けようとは思わないですね」


 そういう意味で、自衛隊の人なんかはすごく尊敬出来るかな。反対に、自分は何もしていない癖に『自衛隊や警察は何をやってんだ!』みたいな事を叫ぶヤツは大嫌いだけど。

 ちなみにリオンさんを助けたのは同じオフィスビルの人間だろうっていう思い込みがあったのと、醜悪なゴブリンが女性を組み伏せている光景を見て、カッとしちゃったのかも知れない。

 ゴブリンやオークと戦っているのは、決して人助けではないし、命を懸けているという感覚も非常に薄い。あいつら、ただの経験値とSPだなってくらいの認識だ。あとは肉。


「この近辺は学校や病院、体育館……避難所はこんな感じだねー。警察署にも避難民が押しかけてるみたいだけど、さすがに建物の中に沢山の人は入れないみたい」


 リオンさんはこの辺りの事も調べてくれていた。災害時の緊急避難先に集まっているみたいだけど、そこは防御力的にどうなんだろうという疑問は残る。


「食料や医薬品とかはどうなんでしょうね?」

「一応、自衛隊に救援要請は出してるみたいだけど、日本全国こんな感じじゃあ、来るかどうかも分かんないよ」

「ですよねえ」


 交通機関の大型バス等を動かして、避難する人を集めたり、大型トラックで物資を運んだりはしているらしい。あんなデカい乗り物に突撃を掛けるモンスターもそうはいないだろうから、そう言った輸送はまだ大丈夫みたいだ。


「ねえ、この先も積極的に市民を助けたりとか、しないんだよね?」

「まあ、そうですね。自分の事で精一杯ですし、リオンさんも不特定多数に頼られるのイヤでしょ?」

「うん! あたしはトウジくんだけいれば十分かな」


 ははは。今日一日でだいぶ打ち解けて普通に話せるようにはなっていても、この人は基本コミュ障だ。しかも、他人と関わりたくても関われないんじゃなくて、関わりたくないタイプの人だからなぁ。

 それなら、僕達が他人の為に働かなくても済むように、ちょっとだけ手を打っておくか。


 僕はSNSの捨て垢を作り、投稿した。


 『#化け物 #モンスター #覚醒 #異能 #戦う力 #生き残る』


 こんなハッシュタグを付けた上で、モンスターを狩る事によって得られる『力』を説明した。

 誰かの目に留まればよし、誰も見向きもしないならその時はその時だ。僕達はとっととレベルを上げ、次のレベル帯の敵を狩るだけさ。

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