第11話 食事のスパイス

 今回の戦闘で、僕もリオンさんも生体レベルが一気に5まで上がった。生体レベルが上がるという事は、単純に死ににくくなるのと継戦能力が上がるという事。ステータスの中に攻撃力や防御力といった数値が無いだけに、HPは上げておきたいところだ。何しろダメージ計算が全く出来ないからね。

 まあ、今の所はHPが減るような事態になっていないので、レベルが上がりにくくなるまでは今まで通りオークやゴブリンを狩っていてもいいのかも知れない。


 それからスキルの方だけど、僕は万夫不当のレベルを上げると共に、索敵と隠形もレベル3まで上げた。これでよりモンスターに対する奇襲を掛けやすくなるはずだ。

 そして新たに取得したのが合成というスキル。これは同じカテゴリ、且つ同じレアリティのアイテムを掛け合わせる事によって、1ランク上のアイテムへとグレードアップさせるスキルだ。今の僕の合成スキルレベルは1なので、FランクをEランクにグレードアップ出来る。

 目的はドロップする武器を合成してグレードアップさせる事、そしてオーク肉をグレードアップさせたら更に美味しくなるのかどうかの検証をしたい事。更に言えば、武器召喚スキルで出した武器がグレードアップできるかどうかも試したいな。


 リオンさんの方は、スキルのレベルアップは火魔法と身体強化だけにとどめ、新規にスキルを取得した。それは隠形と取得経験値上昇と取得SP上昇だ。

 これは目的がもうはっきりしている。僕に寄生しないで強くなる為だと言っていい。取得ポイント上昇系のスキルは二つで100ポイントも消費する高コストなスキルだけど、早めに取っておくに越した事はない。しかも称号効果で消費SPが半分で済むなら尚更だ。

 それから隠形を取得したのは、敵に囲まれた時に脱出しやすい事や、逆に僕と二人でゲリラ戦を仕掛け易いなどのメリットだらけの選択だね。魔法による遠距離攻撃の強さと相まって、敵に悟られずに一方的に屠る事も可能かも知れない。


 時間帯はもうそろそろ夕方と言っていい頃合いだ。まだまだ索敵に反応はあるけど、このアーケード街の敵は一掃した。それにしても。


「そろそろ夕方ですけど、まだ誰一人として覚醒者を見かけませんね」

「うーん、何人かは腕自慢がゴブリンとか倒してそうなんだけどねえ」


 確かに、武道の経験者とか喧嘩自慢なら、ゴブリン1匹くらいなら倒せると思う。武器を持っているから危険はあるけど。


「モンスターの密度が高いエリアだから、ここには誰も近付かないのかもですね」

「ああ、レベル1程度じゃ囲まれたら危ないもんね。ところでトウジくん」

「はい?」

「スキルのレベル上げて、時空間収納のキャパ、上がってるよね?」


 リオンさんが言う通り、時空間収納の容量はスキルレベルに依存しているらしい事は説明に書いてあった。ただ、具体的な数値は書いてない為どれくらいのモノを入れられるのかは分からない。

 ただ、感覚的にまだまだ余裕はありそうなのは分かる。


「何か必要なものがあれば」

「うん、じゃあこのアーケード街のもの、頂いていこう」


 なんて悪い笑顔なんだリオンさん……


「いや、冗談抜きで、医薬品とか女の子のデリケートな問題とか消耗品とか」

「ああ、なるほど」


 確かにそうかも知れない。

 僕達はアーケード街を巡り、物資を調達した。中にはこんなものを僕が持つの? っていうものもあったけど、『あたしもその内に時空間収納スキル取るから、それまでお願い』と言われてしまった。もっとも、彼女の方もかなり恥ずかしかったようなので、手打ちにしとこう。


「一度戻って情報収集しませんか?」


 食品や医薬品、衣類や消耗品などを調達したところで、もう太陽は沈みかけている。一旦撤収してからの情報収集を提案する。


「そうだね。あとお腹も空いたし」

「それじゃあ一度撤収しましょう」


 こうしてそれなりの成果を挙げた僕達は、愛車に乗り込み帰路へついた。


***


「めっちゃ美味しい!」

「ホントですね。もしかしたらA5ブランド牛より美味しいんじゃ? いや、食べた事ないですけど」

「あたしもない……」


 帰宅後すぐ、返り血を浴びた服は洗濯機に突っ込み、部屋着に着替えた僕達は夕食の支度に取り掛かった。洗濯機の中ではリオンさんの訳ありの洗濯物も一緒に回っているが、ゴブリンやオークの返り血と比べると大した事ではない気がしてくるのだから不思議だ。


 食卓に出したのはオーク肉のブロックをスライスして、塩胡椒でソテーしただけのものだ。これが非常に美味。締まった肉質なのに箸で切れる程に柔らかく、脂の甘みが絶品。味付けなんか適当でも美味いだろうなコレ。

 生姜焼きにしたり挽肉にしてハンバーグにしたり、豚しゃぶもいいなとか、いやいやカレーでしょとか、色んなバリエーションを考えながらの夕食は楽しかった。

 そして僕はある事に気付いた。同様に、リオンさんも何かに気付いたらしい。

 ちょっとした沈黙が、二人の視線を交錯させる切っ掛けを作った。


「……」

「……」

「これ、お肉の美味しさだけじゃないですよね」

「うん……あたしもそう思った」


 思えば、誰かと談笑しながらの夕食なんて、何年振りだろう。両親は高校生の時に他界したし、それからはずっと一人暮らしの苦学生だったもんな。両親の保険金を切り崩しながら学費払って、バイトに明け暮れた生活だったから、家では質素な一人飯だった。

 リオンさんは言うに及ばずって感じだろう。コミュ障な彼女が誰かと食事なんて考えられない。家族とかはどうか分からないけど、部屋に籠ってゲームやって、片手間に食事を摂るような光景が容易に想像できる。


「誰かと食べるご飯って、美味しいんだね」

「誰でもいいって訳じゃないですけどね」

「えっ……?」

「一緒に食べて、楽しい人だからご飯もより美味しく感じるんですよ」


 しばらくの間、リオンさんがきょとんとして僕を見つめていた。


「そっか、そうだね。えへへへへ……トウジくんと食べるご飯、美味しいよ」


 そう言ってニコリと笑うリオンさんは、ここに赴任してから初めて、心から可愛いと思える笑顔を見せてくれた。


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