第10話 食材に見える

 索敵に反応がある。アーケード街の方だ。

 周囲を警戒しながら近付いていく。


「オークですね」

「うわあ……」


 身長2m前後、力士のような太った身体。豚に似た顔で牙がはみ出している。腰布だけの、辛うじて局部が隠れているだけの粗末な恰好。

 棍棒、剣、斧を武器にしているのが3体だ。そして近くには多くの人間の死骸が転がっている。


「駅前交番のお巡りさんですかね」

「多分そうだと思う……」


 ブルーのシャツに紺色っぽいベストにズボン。死骸の中に、そんな特徴的な恰好をした男も混じっていた。


「クロスボウで先制します」


 まだこちらに気付いていないオークに向かって、召喚したばかりのクロスボウを構える。


「撃ったらすぐ場所を移動して! 攻撃に気付いた奴らは、あたしが注意を引くから!」


 なるほど、狙撃ポイントを把握されないように、あくまでも有利な状況で攻撃しろって事か。クロスボウは発砲音もしないし、確かにそれは有効な作戦だね。


「撃ちます」


 1体の頭を目掛けてトリガーを引く。僕はすぐさまその場を離れ、次の狙撃ポイントを探して動き出した。


「こっちだよ!」

「ブモォォォォォ!」


 リオンさんが通りの真ん中に立ち、オークを挑発する。それにしても彼女、男前だな。モンスターに襲われて、さぞ怖かっただろうに。それよりもパソコンを壊された恨みの方が強かったのかな?


 僕が撃った1体は、頭に深くボルトが突き刺さっていた。あれはもうダメだろう。僕はアーケードの屋根の上に立っている。試しに助走してジャンプしたら、どうにかよじ登れた。凄いな身体強化スキル。

 隠形が効いている僕の目下を、2体のオークがリオンさんに向かって駆けていく。巨体の割には結構速い。それじゃあ今度は僕がリオンさんを援護しようか。

 クロスボウを、オークの後方から敢えて急所を狙わずに放つ。


 まずは一発。ボルトはオークの足に命中し、ヤツらの動きを止めた。足をやられた仲間に気を取られ、動きを止めて僕を探すオーク共。


「ナイスアシストだよトウジくん! 喰らえ! 焼き豚にしてやる!」


 その2体に、リオンさんが火魔法を続けざまに放った。一発、二発、三発、四発。オークは炎に包まれ苦しみもがくだけ。ひとまずリオンさんに危険はなさそうだ。ただ、オーク1体に火魔法二発必要か。結構耐久力が高いな。

 

 僕が初撃でクロスボウを放ったヤツも、どうやら死んだようだ。

 アーケードの屋根から飛び降り、リオンさんに向かって近付いていくと、彼女は満面の笑みで右手を上げて待っていてくれた。


「イエーイ!」

「いえーい?」


 釣られて手を挙げた僕の手のひらに、パーンと心地よい音を響かせてハイタッチをしてくるリオンさん。心なしか、頬を染めて照れているように見える。


「な、ななな、ナイスコンビネーションだったね!」


 リオンさん、どもりすぎ。


「頑張って陽キャになろうとしたけど、慣れなくて恥ずかしいや」

「無理しなくていいんじゃないですか? 素のままでいいですよ?」

「あ、うん……ありがと。あたしに経験値を譲ってくれたんだよね」

「まあ、最初の内は」


 僕には経験値とSPが割り増しされて入るスキルがある。だからリオンさんに優先的にトドメを刺させていく方針で行こうと思っている。


「あ! 見て見てトウジくん。ブロック肉が落ちてる。あと、剣だね」

「ホントだ。ラッキーですね。今夜はステーキにしましょうか」

「元がアレかと思うとアレだけど、こうしてブロック肉になってると美味しそうだから不思議だよね」

「ホントそうですよね」


 牛や豚や泳いでいる魚を見ても美味しそうとは思えないけど、加工されてしまえば美味そうに見える不思議。まあ、中には泳いでいる魚が美味そうに見える人もいるみたいだけど、そこは個人差だね。


【オークのブロック肉 D】

【オークの長剣 F】


 なんとオーク肉は驚きのDランクだ!

 同じくドロップした長剣がFランクだから、モンスターの格的な意味ではオークもゴブリンもそう変わらないと思われる。それがDランクをドロップするのだから、もうオークは高級肉という認識でいいのではないか?


 僕はオークのドロップ品を回収しながら、倒れている警官の所へ行った。もしかしての期待を込めて行ったが、やはり事切れていた。

 そして手には拳銃が握られている。戦ったんだな。市民を守るために。そして彼の近くには剣が一振り。恐らく1体は倒したんだ。剣はそのドロップ品。

 僕はその警官が持っていた拳銃、ホルスター、警棒、ロープなどを回収した。犠牲者に対してする事じゃないと思うし、もし遺族がいたら渡すべきなのかも知れない。でも、それより今は有効活用させてもらおうと思う。何より、モンスターに奪われでもしたら目も当てられない。


 その後も僕達はモンスターを狩った。それこそMPが空になるまで。生体レベルが上がればHPもMPも全快する。それを見越して、本当に嫌になるまで狩った。

 それに今回は新たに遭遇したモンスターとも戦った。

 額にも目がある巨大な狼のモンスターであるトライアイズウルフ。牛と同じくらいデカいんじゃねえかって思う程の大きさと、凶悪な牙を持つので見た目はかなり威圧感がある。ただし、動きが直線的で読みやすいので、直撃を喰らわなければ大した事はない敵だった。

 それともう一つ、ゴブリンライダー。こいつはトライアイズウルフにゴブリンが騎乗したものだ。どういう訳か、セットでひとつのユニット扱いらしく、トライアイズウルフとゴブリン、どちらも倒さないと経験値もSPも入らない。その癖、経験値もSPも、それぞれバラで倒した方が効率がいいという迷惑なモンスターだ。

 もうコイツとはやりたくない。


 これが今日の結果。


◎討伐数

 小早川冬至

 ゴブリン×12、オーク×11、トライアイズウルフ×4、ゴブリンライダー×2

 立花莉音

 ゴブリン×18、オーク×9、トライアイズウルフ×3、ゴブリンライダー×3


◎取得経験値

 小早川冬至 107ポイント

 立花莉音 78ポイント


◎取得SP

 小早川冬至 123ポイント

 立花莉音 87ポイント


◎ステータス

小早川冬至

称号:ファステストキラー 

生体レベル:1→5(UP)

HP:10→51

MP:10→51

SP: 5→5

経験値:3→7

所持スキル:万夫不当レベル1→3(武器召喚、治癒魔法、時空間収納、剣術、身体強化、取得経験値増加、取得SP増加、解析、解析阻害、セーブエナジー)索敵レベル1→3、隠形レベル1→3、合成レベル1(NEW)

装備品:数打ちの太刀


立花莉音

称号:ジェノサイダー

生体レベル:1→5

HP:10→51

MP:10→51

SP: 4→16

経験値:4→0

所持スキル:火魔法レベル1→2、水魔法レベル1、槍術レベル1、身体強化レベル1→2、取得経験値増加レベル1(NEW)、取得SP増加レベル1(NEW)、隠形レベル1(NEW)

装備品:ゴブリンの短槍F

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