第9話 モンスターだけが敵じゃなくなる未来
申し訳ないという気持ちと後ろめたさが無かった訳じゃない。だけど僕は店内の品物で必要なものは時空間収納に詰め込んだ。防寒、防水用の衣服。丈夫な安全靴やグローブなんかは戦闘にも使えそうだし。壊れたからといって、いつでも入手出来るかと言われたらそうじゃない可能性もある。
何より、覚醒した人間の略奪。これはあると予想している。まだ警察という組織と機能が生きている内はいい。モンスターを倒してレベルを上げた人間が、警察も太刀打ちできない強さを持ってしまったら……
これは冗談抜きで力が正義の時代がやって来る。敵はモンスターだけじゃなく、資源や物資を奪い合う人間同士の争いだってあり得ると思う。
車の中で、こんな会話を交わした。
「これからは積極的にモンスターを狩っていきましょう。何なら、他の誰にも経験値を渡さないくらいの勢いで」
「ほうほう、この街で世紀末〇王にでもなっちゃう?」
「逆ですね。そういう力を持ったヤツが現れないように、です」
「あたしはどっちでもいいよ。トウジくんに助けられた命だし」
***
かなり市街地中心部に近い所まで来た。索敵には敵だらけ、選り取り見取りといった感じだ。人間らしい反応はない。殺されたのか、避難して生き延びたのか。死体を見た感じでは、近隣住民というよりも電車から降り、駅から逃げて来る途中で殺された。そんな感じを受ける。
「取り敢えず槍がドロップするまではコレを」
時空間収納からゴブリンの小剣を取り出し、リオンさんに手渡した。なぜ槍術にしたのか聞いたところ、『アウトレンジからチクチクしたい』との事だった。まあ、怖いのは分かる。ましてや小柄な女の子だしね。
「取り敢えず、MPが尽きるまでは魔法で行くね!」
「了解です。あ、右の角にゴブリン4です」
「うん、姿が見えたら先制するね」
相手がゴブリンなら、剣術レベル1と身体強化レベル1で圧倒出来る。恐らく1対3くらいでも余裕があるんじゃないかな。
そんな訳で、ゴブリンを視認した瞬間に僕は走り出した。もちろん隠形も発動させている。やや遅れてリオンさんが火魔法を放つ。流石に僕が走るより火魔法の着弾の方が早いので、1匹はリオンさんに譲る。
火だるまになったゴブリンに気を取られた仲間の3匹はパニック状態に陥った。僕の事も気付いていないみたいだな。あっと言う間に2匹のゴブリンを斬り捨てた。
もう1匹いけるかと思ったけど、リオンさんの2発目の魔法が飛んで来たので後方に跳び退いた。ほぼ同時に火魔法が着弾し、ゴブリンを焼き尽くす。
ドロップはゴブリンの小剣Fが一本とゴブリンの短槍Fが一本。短槍と言っても2m近くある。ちなみにFというのはそのアイテムのレアリティだ。格と言ったら分かりやすいか。最低のランクだね。ちなみに僕の数打ちの太刀もFランクだ。レベル1武器召喚レベル1だと、どのカテゴリでもFランクしか出せないらしい。
ただ、同じFでも質にはバラツキがあるようで、ゴブリンの小剣の中でも良し悪しはあるし、僕の太刀はゴブリンの小剣より遥かに高品質だったりする。僕のMPに余裕がある時に、リオンさん用に槍を召喚しておこうかな。
そう言えば、武器召喚にも色々なルールというか条件があって、例えば刀や剣といった近接用の武器は壊れるまで使い放題だ。しかし、弓のように矢筒と一緒に召喚される場合は矢を使い切った時点で弓が消えてしまうらしい。つまり残弾ゼロになったらMPを消費して再度召喚しろという事だ。射撃系の武器を召喚した場合は、かなり燃費が悪いスキルになってしまうね。
「あと魔法を8発は撃てるよ。もっと狩ろうよ」
「そうですね。まだレベルも上がらないし、行きましょうか」
物足りなそうなリオンさんがそう言ってくるので、僕もゴブリンの短槍を彼女に手渡しながら了承する。
僕達はその後も索敵で手頃な数で群れているモンスターを探して討伐を続ける事にした。
***
アパートに戻った時、部屋の中はぐちゃぐちゃだった。泥棒が入ったとか、そんなレベルじゃなくて。色んなものが壊され、荒らされていていた。そして最も見たくない光景を見てしまった。
モンスターに復讐したいのは本当。自分で組んで、オンラインゲームで無双して、唯一自分が自分でいられた時間を提供してくれたパソコンが大切だったのも本当。復讐の理由にそれを言った時のトウジくん、一瞬だけ驚いてたけど、すぐにあたしを思いやるような視線に変わってた。正直、引かれると思ってたんだけどなあ。
ああいう目は、あたしの本質を理解してなきゃ出来ないと思う。ゲーミングパソコンなんて、ただの高価なオモチャかも知れない。でも、あたしの『居場所』だったんだ。彼はそれを分かってる。そんなトウジくんは、あたしから拒絶しない限り、きっとあたしを見捨てない。
それから、彼には言ってないけど、あたしの妹が殺されてた。両親と離れてから支え合って生きて来た、たった一人の家族。衣服は破られ、あちこち傷だらけで。絶望した表情のまま。
まだ高校生だった。彼女が独り立ち出来るまではと、コミュ障なのに無理をして社会に出て頑張ってきた。彼女もまた、そんなあたしを思いやってくれて。
たくさんの『大切』を失っちゃったな。
だからあたしは復讐する。コミュ障も、今日限り捨てる。あざとい行為も、色仕掛けも、使えるものは何だって使う。あたしの復讐に、トウジくんは必要。
だからこそ、彼の庇護下にいるんじゃなくて、彼にも頼られる存在にならなきゃいけないと思ってた。でも、あんなチートな称号とスキル、反則だわよ……
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