第8話 心を救う一言

 称号の事でしばらくむくれていたリオンさんだけど、彼女を助ける為に取った行動の結果であって、決して狙ってた訳じゃない事を説明する。それで少しは機嫌が回復した。まあ、逆に言えばあそこでリオンさんが襲われていたからこそゲットできた称号でもあるんだけど、それはまあ黙っておこう。


「どうせなら10匹くらい纏めて燃やしちゃえば良かったよ」


 どうやら初回特典は同時に討伐した数×10SPらしい。


「うわあ……でもいきなり凄いアドバンテージですよね」

「( ´艸`)ムププ」


 いい笑顔で物騒な事を口走るリオンさんに若干引く。でもゴブリン2匹でスキル四つはやっぱり凄い。それに魔法が2種類とMP消費のない近接攻撃スキルを取ったのも流石だ。ゴブリンを相手にしている間はかなりやれるだろうね。


「さて、それじゃあ僕はお店に戻って、何か追加で購入してきますよ」

「あ、あたしも行く~」

「あ! しまった!」

「え? え?」


 今のリオンさんのリザルトが衝撃的だったおかげですっかり失念していた。3匹のゴブリンが店に近付いている事を。このままじゃ店員さんが危ない。

 突然走り出した僕のあとを、訳が分からないと言った表情をしながらリオンさんが付いて来る。


「ぎゃああああ!」

「た、助けて! 誰か!」


 間に合うか?

 ゴブリンは既に店内に入り込んでいた。奴らは人間の存在を嗅ぎつけ、見つけたらすぐに殺し、時には女を犯しに掛かる。猶予はない。

 収納から太刀を取り出し右手に持ちながら店内に駆け込むと、3匹のゴブリンが既にこと切れた店員二人の遺体を弄んでいた。


「このっ!」


 僕より早く反応したのは後ろから店内に飛び込んできたリオンさんの方だった。両手にそれぞれバスケットボール大の水球を浮かべ、ゴブリン目掛けて放つ。

 二つの水球はゴブリンの頭部を包み込み、そのまま形を維持している。なるほど、ああやって溺死させる訳か!


 遅ればせながら僕も残り1匹に向けて太刀を振るった。ゴブリンは首を撥ねられ、もんどりうって倒れる。そして水球に頭を包まれた2匹のゴブリンも、ガボガボと溺れて死んでいった。


「間に合いませんでした……」

「トウジくん……見敵必殺。視界に入ったらすぐ殺す、だよ」

「そう、でしたね」


 完全に僕の不注意だ。この3匹のゴブリンが接近していたのは知っていたのに。

 さらに言うなら、今の僕にはこの人達を助ける力があったのに。

 役に立たない力なんか無いのと同じじゃないか。


「トウジくん」


 立ちすくむ僕にリオンさんが優しい声色で話しかけてくる。


「トウジくんはあたしを助けてくれた。でも、トウジくんが全ての人を助けられる訳じゃないよ」

「……はい」

「厳しい事を言うようだけど、あたしは運が良かった。近くにトウジくんがいたから。でもこの人達は運が悪かった」

「……はぃ」

「トウジくんはこの3匹の接近を知っていた。でもあたしの方を優先した。それはあたしとトウジ君にえにしがあったからで、この人達にはなかった」

「……」

「トウジくんは当たり前の事をしただけだよ」


 自己を正当化してくれるリオンさんの言葉は心地良い。このままじゃ、依存してしまいそうになるじゃないか。


「えへへ。お姉さんに依存しちゃいそうなんだね? 依存しちゃう? いいんだよ?」


 くっ……

 確かにそうなんだけど、ドヤ顔で、鼻の穴をぴくぴくさせてそう言われると、なんかイラッと来る。


「可愛いしましまぱんつでおもらししたクセに生意気です。それに、そういう事はもうちょっとおっきくなってから言って下さい」

「なっ! ちょ! 今は違いますー! ちゃんと履き替えてきたもん! もっと大人っぽいセクシーなやつなんですー!」

「へー(棒)」

「あー! もう、見せるぞコラ!」

「あー、はいはい(棒)」


 妙に子供っぽいリオンさんの反応に、何だか心が軽くなった。この人、コミュ障さえ治ればいいキャラだし、みんなに慕われるんだろうけどなぁ。

 でも、そんな彼女の本当の姿を知っているのが僕だけっていうのは、少しだけ優越感があった。


「そう言えば」

「ん? なに?」


 僕はリオンさんがアパートから戻って来た時の様子がずっと気になっていたんだ。あの、大切なナニカを失ったような、喪失感に包まれた様子が。そしてそれから、あからさまにリオンさんの態度が変わった。


「アパートから戻って来た時の、その……」

「ああ、モンスターのヤツ、部屋の中を荒らして行ったみたいで。すごいぐちゃぐちゃだったんだ」

「はい」

「中でも、あたしの命の次に大事なゲーミングパソコンとゲーミングチェア、完全に破壊されてて」

「はい……え?」

「高かったんだよあれ! あれのおかげであたしのアイデンティティは保たれてたのに! 絶許だわ!」


 思わず笑いそうになるところだったけど、必死に堪えた。僕にはネタ発言に聞こえるけど、彼女が彼女でいられる場所はネトゲやウェブの中だけだった。リオンさんにとって大切で、なくてはならないものだったのは本当なんだろう。


「……そうですね。じゃあ、一緒にモンスターをたくさん狩って、復讐しましょう」

「うん! あとね、ネットでのあたしはいつもこんな感じだから。慣れてね?」


 リオンさんは嬉しそうにそう言った。なるほど、今のが本来の……?

その時、パトカーがスピーカーで何かを話しながら通り過ぎて行く。


『この近辺で、モンスターの目撃情報がありました。住民の皆さんは、落ち着いて所定の場所へ避難して下さい。繰り返します…………』


 よし、リオンさんもした事だし、積極的に狩ってやろう。いつまでも人間が襲われる側じゃないって事を、思い知らせてやる。


***


小早川冬至

称号:ファステストキラー 

生体レベル:1

HP:10

MP:10

SP: 5 

経験値:3

所持スキル:万夫不当レベル1(武器召喚、治癒魔法、時空間収納、剣術、身体強化、取得経験値増加、取得SP増加、解析、解析阻害、セーブエナジー)索敵レベル1、隠形レベル1

装備品:数打ちの太刀


立花莉音

称号:ジェノサイダー

生体レベル:1

HP:10

MP:10

SP: 4

経験値:4

所持スキル:火魔法レベル1、水魔法レベル1、槍術レベル1、身体強化レベル1

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る