第10話
「学園って凄いな!!中にダンジョンがあるって何だよそれ!!ゲームかよ!!ってゲームだったな。アッハッハ」
「「……」」
「てか俺の予想だが、学園のイベントで新たな仲間との出会いがあると思うんだ。友情、努力、勝利。これこそ王道にしてロマンなんだよなぁ」
「「……」」
馬車に揺られて半日。
何故かトンもエリも一言も喋らない。
もしかして学園が嫌なのか?
いやでもエリは結構楽しそうにしてたはずだけど……まぁ緊張してるだけか。
それなら緊張をほぐすためにも愉快な話でも続けるか!!
「それにさ!!」
「「……」」
それからも暫く一方的な会話が続き、程なくして学園へと到着した。
◇◆◇◆
「へぇ〜、ここが学園か」
後ろでトンとエリが従者の手を取り馬車を降りる中、真っ先に外に飛び出した俺。
するとそこには、俗に言うお城みたいな建物がそびえ立っていた。
例えで言えばホ◯ワーツ?
とりあえずなんかすげぇって感じの学園がそこにはあったのだ。
「無能らしく子供みたいに喚いてるな」
「……兄さん。大声を出すと周りに迷惑だから」
「エリ。お前は無能ではなく僕の元に寄れ」
すると二人もテンションが上がったのか、馬車にいた時とは違って騒ぎ出す。
仲が悪そうに見えたけど、案外仲良しなのかもな。
「兄さん、何その優しげな目は……」
「いんや。エリって案外ツンデレなんだなって」
「ツン?よく分からないけど、絶対に兄さんは勘違いしてると思う」
「勘違い?ないない。俺は勘違いしないことで有名なんだぜ?」
そう、俺は決して勘違いしない為の人生を送ってきた。
前世でもこんなことがあった。
幼馴染ってわけじゃないが、結構腐れ縁と呼べるくらい仲が良い女の子がいた。
やけにボディータッチが多いし、好きな人がいるか聞かれるし、休み時間の度にこっちに来るし、よく頭を撫でてくれと頼まれた。
だから俺はつい気になり、聞いてしまったんだ。
『お前って俺のこと好きなのか?』
『……さすがにバレちゃうか』
『ああ、バレバレだったぜ』
『そっか……。うん、じゃあ言わせてもらうね。私はあなたのこと』
『最高の親友と思ってる……だろ?』
『??????????』
あの時のあいつの顔を見て確信した(何を?)
やっぱりあいつに恋心なんてなかったと(本当?)
『え、いや、違』
『へへ、それ以上言わなくていいって。小っ恥ずかしいだろ』
『え?あ……え?』
『でも気を付けろ。そうやってるといつか本気になっちまうやつがいるからな』
『いや、なってもらいたくて……』
『変な勘違いしちまうところだったぜ』
『いや勘違いでもなんでも』
『じゃ、またな親友!!』
『え、待って。色々待って。あぁもう!!聞いて!!私はあなたのこと』
『俺も大好きだぜ!!親友!!んじゃまた明日なー』
『……』
うん、あの時も完璧に勘違いを避けた。
何故か次の日から泣きながら親友って連呼してたけど、きっと嬉し涙だろう。
現実世界であんなラブコメみたいなこと起きるはずないしな。
そんなわけで、俺が勘違いをすることは万に一つもないってことが証明されたな。
「兄さん、色々言いたいことはあるけど、とりあえずそうやって道の上でボーッと立ってると邪魔に……」
「ごめん、道を開けてもらっていいかな?」
「ほら。すみません、今退かし……って、え!!」
突然エリが大きな声を上げる。
俺はフクロウのように首を180度回転して振り返る。
「アルカード様!?」
「静かに、あまり騒ぎを起こしたくないんだ」
「も、申し訳ございません」
突如現れた金髪の美少年。
そいつが登場した瞬間、まるで世界が本当の姿を取り戻したかのように輝き始めた。
おいおい、まるで主人公が登場したかのようだぜ(正解)。
「ん?君、どこかで俺と会ったことがあるか?」
「え?い、いえ、アルカード様とは初対面ですが……」
「そっか、ごめん。勘違いだったかも」
男の放った笑顔。
たったそれだけで最早暴力と言っても差し支えない程の破壊力を放つ。
道端を歩いていた人は皆が歩みを止め、少し離れた場所にいた俺でさえダメージを受けてしまうその美貌。
あのエリでさえその姿には見惚れて
「兄さん、とりあえず向こうに行きましょ」
あれ?
もう興味関心態度がこちらに移動してやがる。
こりゃ学業の評定1だな。
お兄ちゃん残念だよ。
まぁ冗談はさて置き、問題はこの男だ。
この意味ありげな台詞、更にこの耳心地の良すぎる声。
紳士的な態度やこのイケメン具合。
間違いない、こいつ
(裏ボスだな)
絶対にそうだ。
だってこの声、どう考えてもCV石◯彰とかだもん。
黒幕以外の何者でもないな!!(断定)
よし、そうと分かれば
「今のうちに倒すか」
「兄さん!!」
「こんな場所で剣を抜くとは穏やかじゃないね。俺に何か用事?」
「ああ。お前を倒すっていう用事があるんだ」
「へぇ。君、名前は?」
「ハルト。ただのハルトよ」
「そうか。僕の名前はアルカード。ただのアルカードだよ」
アルカードか、良い名前だ。
世界線が違ければ主人公になってた器なのだろう。
だが悪いな。
「この世界での主人公はこの俺だ!!」
「決闘ってことで大丈夫?」
「おう!!」
すると、以前トンと戦った時のように結界に包まれる。
最後の方、エリが『バカ!!』と叫んでいた気がするが、気のせいだろう。
それよりも、俺は常々思ってたことがあるんだ。
「ストーリーを無視して巨悪を倒す。それもまた、乙なもんだってな」
「よく分からないけど、君が面白そうってことは分かったよ」
「んじゃ、やりますか」
結界の色が透明なものから赤へと変わる。
さすがに俺も勉強した。
これは
「闘いの合図だ!!」
即、突、斬!!
全身に纏った身体強化、しかも不意打ちに近しい一撃。
これに反応出来るやつがこの世界にいるはず
「
瞬間
「????」
俺は白い光に包まれると同時に、地面へとキスしていた。
何が起きたか分からなかった。
アルカードが俺に向かって手を向けた。
そして何かを呟くと同時に、俺は倒れていた。
超能力……いや、この世界にあるのは魔法だ。
眩い光、目にも止まらぬ速さ、そして頭に感じる痛み。
なるほど
「雷魔法か」
「まだ意識があるなんてね」
「今まで何度気絶したと思ってる。さすがに慣れた」
俺はなんとか体を起こす。
未だに体がプルプル震えている。
脳の何かがダメージを負ったな。
「凄いな。雷魔法をこれだけの精度で操るなんて中々出来ないって聞いたぜ」
「必死に頑張ったよ。その痛みを何度も自分で受け、それでも諦めず手にした力だ。悪いことは言わない、降参したら?」
「はは、まさか」
俺は剣を杖にし、立ち上がる。
「ダンジョンに行けばきっと、お前みたいな初見殺しがわんさか湧いて出る。そんな奴らに、ごめんなさい、許して下さいって言ったら見逃してもらえるのか?」
「……ハハ、耳が痛いね。すまない、先ほどの発言は取り消させてもらいたい」
アルカードは剣を抜いた。
うわ、あれ結構ヤバいな。
「そういえば勝ち負けを決めてなかったね」
「そうだな」
「ならばこうしよう。この一撃の後、立っていたものが勝者だ」
「いいね!!乗った!!」
それと同時に体を弾かせた。
さっきまで無理だと騒いでいた体も、まるで俺の気持ちに呼応するかのように踊り出す。
だがそれは相手も同じこと。
剣の切っ先が俺へと向き、先程よりも大きな光が放たれる。
思考する時間など与えない、必中の一撃が命中した。
でも今回は
「ぷはぁ」
耐えた。
「うっそでしょ」
アルカードが冷や汗を流す。
だがそう驚くことじゃない。
来ると分かってりゃ案外いけるものなのだ。
「って顔してるけど、普通無理だから」
「まるで焦ってるような言葉だが、お前、今自分がどんな顔してるか分かるか?」
「え?」
アルカードは自分の顔に触れる。
そして気付いたのだろう。
「笑ってる?」
「はは!!いいね!!それでこそ裏ボスだ!!」
俺とアルカードの剣が初めて衝突した。
「さっきの問答、一見俺の体を回復させる時間をくれたのかと思ったが、どうやらその魔法インターバルみたいなのがあるな」
「魔力を貯めて、集中して撃つ。でないと暴発して自分にダメージが来るからね」
力は拮抗していた。
本来であれば、ゼロ距離射程ならば身体強化を鍛えた俺が有利だ。
だが、雷魔法のダメージによって俺の体は上手く力を出せないでいた。
結果、互いに取った選択肢は
「アルカード!!お前最高だぜ!!」
「お褒めに預かり光栄だ」
魔力を貯め、撃つ。
一つの作業を省略した先に待つのは暴発。
自爆、と呼ばれるそれを取ったアルカード。
そして俺もまた、同じ答えに辿り着いていた。
ゴブリンを倒した時のように、剣を腕で受けようとしたのだ。
だが、そんな刹那の戦いの隙間にすら割り込む雷魔法が一手先を奪う。
俺とアルカードの間で電撃が暴れた。
(これは……さすがに無理だ)
俺の頭によぎったのは、またエリに怒られるんだろうなってことだった。
バトル世界に住んでるのに、妹のことを考えるってのもおかしな話だが、きっとあれだな。
(それもそれで、面白いかもな)
◇◆◇◆
「危な……かった……」
アルカードは膝をつく。
(何度も雷魔法に撃たれたからこそ耐えられた。それを彼は、おそらく初めての機会に二度も耐えた)
その精神力に恐れを、そして尊敬を抱く。
「でも、今回は俺の勝ちだ。そこだけは譲れないよ」
そんな男に勝った。
その事実を再度確認し
「……よし」
アルカードは小さくガッツポーズを決めた。
それと同時に結界が無くなり
「兄さん!!」
エリが駆け出した。
「バカ!!何でまたこんな無茶を……」
隣に立つ王子などいなかったかのように、エリは慌てた様子でハルトの容体をみる。
「安心して。外傷もないし、一日もあれば自由に動けられるはず。一応、回復魔法はかけてあげてね」
「ご忠告……ありがとう……ございます……」
エリは何とも言えない表情でお礼を言う。
別にアルカードは何一つ悪くはないと分かっていても、感情はどうしても納得してくれないのだ。
(よく見ると彼女、あの時の……。確かあの時は今にも死んでしまいそうだったが……これなら)
アルカードはエリの顔を一瞥した後
「目覚めたらハルトに伝えてくれ。決闘の勝者は俺だ。だからこれはお願いじゃない。命令だ」
アルカードは優しく笑い
「彼女を大事にしろってね。それじゃあ」
そう言って、アルカードは少しふらつきながら学園へと歩いて行くのだった。
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