第11話

「……」


 目を開ける前に、俺はいくつかの情報を読み取った。


 体に感じる柔らかさは、俺のよく知るベットの感覚だ。


 どうやら俺はまた倒れたらしい。


 エリのお説教コースが確定した瞬間だ。


 次に手に感じる柔らかさもまた、俺のよく知るところにある。


 十中八九、エリのものだろう。


 俺が倒れると、エリはこうしてよく手を握ってくれている。


 心配かけてごめんって罪悪感でいっぱいになるけど、1時間くらいすると忘れるんだよな。


 マジごめん。


 そして最後に頭に感じる柔らかさ。


 これは知らない。


 何だこれ。


 枕とは違う……でもどこか安心する感じ。


 よく分からないので答え合わせといくか。


 開・眼!!


「お目覚めですか?」

「おう」


 正解はレイラの膝枕でした〜。


 おいおい、何だこの状況。


 美少女に手を握られながら美女に膝枕って、おいおいまるでギャルゲーだな笑(何わろてんねん)


 いやでも冷静に考えると何で膝枕だ?


 一応病人だぜ?


 そんな相手に膝枕ってどうなんですか?


「私が治療しました」

「失礼、いつも感謝しております」


 そう、膝枕にも意味はある。


 回復魔法は近ければ近いほど効果が強いらしい。


 なるほど、ダメージを受けた頭に下と上、同時に治療を施したわけか。


 さすがっすレイラさん。


「まぁ上と下からする場合、魔力が分散するので逆に効率が悪くなるのですが」

「それ言わないようにしてたのに何で言った?あとじゃあ何で膝枕?」

「特に理由はありません」


 そっか、ならいいや。


 俺は細かいことは気にしない男なのである。


「エリは……寝てるのか?」

「はい。可愛らしいですね」

「そうだな」


 俺は眠ってるエリの頬を突くと、猫かのように鳴き声をあげる。


 普通に少しときめいてしまった。


 俺の恋人が戦場じゃなければ、危うく恋に落ちるとこだったな。


「ところで、学園ってどうなったんだ?」

「一応今も授業中ではありますが、既に早退の手続きは済ませてあります」

「そっか。でも、エリは転校初日だろ?こんな場所にいたら」

「それなのですが」


 話を聞くと、どうやらエリとアルカードが同じクラスだったらしい。


 それで心ここに在らずのエリを見たアルカードが


『心配なら行っていいよ。俺が事情は説明しておくから』


 と言い、エリを送り出したらしい。


 何あいつ?


 まるでゲームの中から飛び出したかのようなイケメンだな。


 あ、ここゲームの世界だったわ。


「それと、ハルト様の記憶喪失に関する件なのですが」


 レイラは複雑な表情を浮かべる。


「どうしたんだ?」

「いえ、自分の不甲斐なさを呪っていたまでです」

「?」

「……すみません、説明を続けます。記憶喪失に関して、学園は学年を下げることを決定しました」

「へぇ、じゃあ俺は一年から?」

「はい」


 エリが言ってた通りになったな。


 俺自身問題はないというか、むしろありがたいことだが、心配事もある。


 もしかしたら上級生特有のイベントがあったかもしれない。


 それに、パーティーメンバーも本来とは違った形で決まる可能性も大いにあり得る。


 ゲームの流れを壊すこと自体に問題はないが、これでレアアイテムとか撮り逃したら嫌だなぁ。


 あと、上級生の俺がこんなことになって


「エリは大丈夫だろうか」

「ふふ」

「なんだよ」

「いえ、お互い様だなと思っただけです」


 レイラの微笑みに、何故だか恥ずかしくなった俺は体を起こす。


「……あれ?兄さん?」

「悪い、起こしたか」

「……よかった」


 エリは未だに目がしっかりと開いていないながらも、その目にはしっかりと俺の顔が映っていた。


「どこか体に異常は?」


 俺は手をにぎにぎする。


 うん、調子は戻ったみたいだ。


無問題モーマンタイ。今度こそアルカードに勝てるくらいには元気だ」

「……」


 凄いジト目を向けられた。


「じょ、冗談だって」

「……はぁ。もういいけど。とりあえず、私は先生に報告に行ってくるから」

「色々ありがとな」

「なら、せめて心配させないでよ」

「それは多分無理!!」

「もう!!」


 怒りながら部屋を出て行ったエリ。


「あれが反抗期ってやつだな」

「違うと思います」

「よし、とりあえず反省会といきますか」


 俺は先程の戦いを思い出す。


「ハッキリ言うと完敗だったな。雷魔法、話に聞いてはいたが、確かにあれは別格の強さだ」


 速い、ただその一点のみに特化した魔法。


 俺の体に傷がない時点で破壊力という点では効果が薄いが、そんなデメリットが霞む程の存在感を放たれた。


「一応、俺ってミノタウロスの攻撃にも反応できたんだぜ?それなのに攻撃が全く見えなかった」

「雷魔法の使い手は少なく、私も実際に見た経験は僅かですが、あれは対人類に関しては圧倒的と評価せざるを得ないですね」

「しかも頭に直接攻撃されちゃ、どれだけ鍛えても意味がない。しかも、アルカードは学園に入る前であの強さだ」


 本場の雷魔法使いともなれば、おそらく俺は一撃で沈む。


 その上、回避は不可能とまできた。


「こりゃ……面白くなってきたな」

「さすがです、ハルト様」

「本当だったらこのまま訓練でも始めたいが、さすがにエリに怒られそうだしやめるか」

「そうですね。私としても止めさせていただく所存です」

「ま、なら学園を少し見て回るか。悪いけどレイラはエリが来るまで待っててくれ」

「はい、ですがあまり遅くならないよう」

「はいよ」


 そうして俺は部屋を出た。


 部屋の前には医務室という文字が書かれている。


 そりゃそうかって感じだ。


「あ、回復アイテム探すの忘れてたな。後で帰ってきた時にもう一回漁るか」


 少し失敗しつつ、俺は誰もいない学園を歩いた。


 レイラが言っていたようにまだ授業中らしく、廊下には誰の姿もなかった。


 と言っても部屋の向こうから声がするあたり、皆何かしらの作業を行なっているのだろう。


 雰囲気は完全に前世の学校と同じ感じだ。


「落ち着くってわけじゃないが、久しぶりに現実に戻ってきた感覚になるな」


 俺は口笛を吹きながら色々見て回る。


 訓練所だとか魔工房だとか、バトル系らしい設備に内心ほくそ笑む。


 そうやって当てもなく歩いていると、いつの間にか変な空間に来ていた。


「あれ?さっきまで廊下を歩いていた気がするが」


 未知の空間。


 周囲が陽炎のように揺れ、世界が白と黒だけで描かれたような錯覚を覚える。


 これは一体……


「驚いたか」


 背後から声がした。


「何、そう驚くことはない。妾は最初からずっと貴様と一緒にいたのじゃから」


 振り向くと、そこには一人の少女がいた。


 地面につくほどに長く白い髪、対して衣服は黒いゴシック系。


 明らかに人間ではない雰囲気。


 まさかこいつ


「察したようじゃな。そう、妾は悪」

「即!!」

「魔ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

「斬!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 俺は少女を切り捨てる。


「悪は滅びた」


 カッコいい台詞と共に空間から出て行くのであ


「バカか!!」

「え?なんで生きてるの?」

「死んだわ!!何いきなり殺しとるんじゃ貴様!!」


 おいおい嘘だろこいつ、胴体切り離したのに生きてやがるよ。


「こわぁ」

「貴様の方が怖いわ!!普通こんないたいけな少女をいきなり切るか!!」

「いや、自分のこと可愛いとかいう人はちょっと……」

「妾!!悪魔!!」

「ふーん」

「おい、なんだその反の」

「えい」


 少女の首を切り落とす。


「また、つまらぬものを切って」

「じゃから!!」


 体が頭を拾い上げ、首にはめ込む。


 するとまるで最初から何もなかったかのように、首が繋がった。


「いきなり殺すな!!」

「死んでないじゃん」

「だぁあああああああああああもう!!」


 次の瞬間、俺の腕が吹き飛んだ。


「ハァ、ハァ、これで状況が分かったか」

「あ、うん」


 さすがにピンチってことぐらい俺でも分かった。


「それで?俺になんか用?あと腕ってくっ付く?」

「貴様にはずっと喋りかけとった。だが、なんじゃ貴様。全然妾の話を聞かないではないか」

「そうなの?」

「そうじゃ。昔はあんなに妾と喋りたがっていたくせに、急になんなんじゃ全く」


 なんだか不機嫌そうである。


 エリもよくこうやって不機嫌になるな。


 やはり、女心は難しい。


「まぁいい、本題じゃ。妾の要求は主に二つ」

「聞いてやらんでもない」

「貴様の胆力はなんなんじゃ本当に……」


 少女は諦めた様子で話を続ける。


「まず一つ。妾を復活させる贄を用意しろ」

「贄って?」

「血と肉じゃ。ものは何でもいい。動物じゃろうと、モンスターじゃろうと、人じゃろうと」

「もし断ったら?」

「貴様が最初の贄になるじゃろうな」

「ふーん」


 そんな力があるなら最初から自分の手でやってるだろうに。


 人間使わなきゃいけないって自分で言ってるようなもんじゃん。


「それで二つ目は?」

「妾の存在を感知している者がいる。そいつを殺せ」

「それって誰?」

「目を覚ませば目の前にいる。さっき妾にしたように、起きたら直ぐに殺せ」

「オッケー」

「……やけに積極的じゃな」

「どうせ俺じゃ敵わないんだし、従うしかないでしょ。それとも抵抗を見せた方が良かった?」

「……いや、いい。それじゃあ頼んだ」

「お任せあれ」


 そして、俺の意識が飛んだ。



 ◇◆◇◆



 予想通り、俺は先程歩いていた廊下で目を覚ました。


「やっぱりあれは夢の類いだったか」


 だが、現実でないと言い張るには少しばかり奇妙過ぎる出来事だった。


 それに、このゲーム世界に置いてあり得ないなんて話こそが一番あり得ないものである。


 となると


「あの……大丈夫ですか?」


 倒れていた俺を見つめる蒼い瞳。


 シスター服に身を包んだ彼女こそが、あれの言っていた相手か。


「回復魔法は施しましたが、念のために医務室に」

「よし、いいこと思いついた」

「ふぇ?」


 俺は目の前にいた女の子を捕獲する。


「ちょ!!え!?」

「さぁ行こう!!悪魔狩りの開始だ!!」

「えええええええええええええええええええええええええええええ!!!!」


 俺は女の子を担ぎ上げ、夕日に向かって走り出した。

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