第7話

「念の為、もう一度ダンジョンについておさらいしておきましょう」

「おう」


 ダンジョンまでは普通なら交通の便を使うそうだが、これからダンジョンへは定期的に行く為、ついでに歩いて場所を覚えようといった魂胆である。


「ダンジョンの歴史は人類の生まれるよりも前から存在しているとされています」


 少し授業っぽくなってしまうため、分かりやすくまとめよう。


 ダンジョンはむっちゃ昔からあって、そこから魔物と呼ばれるモンスターやお宝が生まれるらしい。


 未だに原因は謎らしいが、俺は説明出来るぜ。


 だってこれゲームだから!!


「魔物は人類に対して問答無用で敵対行動をとります。躊躇えば死、あるのみです」

「肝に銘じておく」


 そうだ、躊躇えば死ぬんだ。


 アチーブメント達成の為に舐めプしようとか考えるもんじゃないぞ、俺。


 いやでも……


「もしかしたら特定の条件で現れるレアモンスターとか、アイテムとかあるかも……」


 いや、考えることをやめろ!!


 死んだら本当に終わりかもなんだぞ!!


「よし、大丈夫だ」

「ハルト様……」


(花や動物を愛する方だった。きっと、魔物相手への慈悲の気持ちすらも湧いてしまっているのだろう)


 ん?


 何故かレイラが生暖かい目で俺を見ている。


 社会の窓でも開いてるのかな?


 一応確認したが、問題ないため結局答えは分からずじまいとなった。


 そして


「意外と早く着いたな」

「軽く走りましたので」

「ジョギングだろ?あれくらい」

「頼もしい限りです」


 俺らは遂にダンジョンへと到着した。


 一見その光景は森の中にある不思議な洞窟にしか見えないが、漂う空気はあきらかに普通ではないことを証明している。


 周りを確認すると、ちょくちょくと人が見えるが、皆俺のような軽装である。


「普通ダンジョンって身軽に行くようなものなのか?」

「いえ、それなりの難易度となるとかなり大きな荷物になります。ですが、この縁力殿は三階層しかありませんので半日もかけずに攻略が可能とされていますので」

「なーるほど」


 そうなってくると、むしろレイラの装備はかなり多めだと分かる。


 心配性なんだろうな。


「それでは参りましょう」

「楽しみだぜ」


 俺とレイラは早速ダンジョンへと入っていくのであった。


 ◇◆◇◆


「警戒は怠らず。いつ魔物が現れるか分かりませんから」

「了解」


 ダンジョンの中は縁力殿というだけあって、緑あふれる景色が広がる。


 もしここがダンジョンと知らずに入れば、その自然につい目を奪われていたかもしれない。


 そう


「知らなかったらな」

「グギャ」


 俺の目の前には、まるであの日を再現するかのようなゴブリンがいた。


 身長はおよそ1メートル程の小さな体。


 体にはその不潔さを表すようなブツブツが生えており、ハッキリと気持ち悪いという言葉が似合う造形をしている。


 俺よくコイツに噛み付けたな。


「さて、リベンジマッチだ」


 あの時は悔しくも引き分けだった相手。


 だが今の俺には剣が、そしてなにより


「死ぬ気で頑張ったんだ。努力に見合った結果くらい、求めてもいいだろ!!」


 俺は真っ直ぐゴブリンへと突進する。


 相変わらず俺の行動に驚くゴブリンだが、その棍棒で俺を迎え撃とうとする。


 どうやら知能は低いようだな。


 腕と武器のリーチを考えれば、俺の方が先にお前の脳天を貫く。


「死ねや経験値!!」


 大きく振りかぶり、上から下へと


「ズド……ン?」


 そして俺は、信じられない光景を目にする。


 確かに俺はゴブリンを真っ二つにする勢いで切り掛かった。


 だがいくらゴブリンといえど、その中身は筋肉や骨が詰まっている。


 だから俺の予想だとせいぜい頭をかち割るくらいかと思っていたのだが……


「地面、割れちゃってるけど……」


 俺の見る先には、左右に綺麗に分かれたゴブリンと、地面の亀裂があった。


「ハルト様は既に、魔法を使っているのです」


 レイラは答え合わせを始める。


「魔力を感じ続け運動しろという訓練内容をハルト様にはお教えしていました」

「あ、ああ。運動しながら全身に魔力を張っていたが、俺がしたのはただそれだけだぞ?」

「それが強化魔法です」


 まさか俺は魔法を既に使っていたとは。


「普通はそのようなことは不可能なのですが、ハルト様は四六時中それを怠らずに繰り返し、自然と身体強化を可能にしています」

「凄い……のか?」

「凄いどころではありません。私ですら仕事中に何度も途切れるそれを、動き回りながら常に行うというのは人間業ではありません」

「そ、そうか」


 褒めらてる筈だが、何故か人外みたいな言い方をされている気がする。


「ハルト様の強みはその持久力ですね。ダンジョン攻略に置いては、他の魔法よりも頼りになる存在かもしれません」

「本当か!!」


 よかった、やっと主人公っぽい雰囲気が出てきたぞ。


 俺の武器は持久力か。


 確かに粘り強さは主人公の特権だしな。


「問題は無さそうですので、このまま先に進みましょう」


 そして俺は次々と現れるゴブリンを片っ端から薙ぎ倒す。


「魔法があるとこんなにも違うんだな」

「それもですが、ハルト様の素の身体能力の高さも相まっての力でもあります」

「そうか。あの地獄の日々は役に立ってるんだな」


 この世界はどうやらレベル以外の要素も大事のようだな。


 中々に奥深い。


「でも、なんか物足りないよな」


 強くなることは素晴らしいことだ。


 無双することも楽しい。


 だけどもっとこう……イベント的な何かが発生しないとさ。


 盛り上がりがさ……ね?


「うーん」

「ハルト様……」


(やはり、まだ殺しに躊躇いがあるのですね)


 相変わらず綺麗なすれ違いをしながら、二人は階段へとたどり着く。


「階段か」

「次の階層に続いています。行きましょう」


 俺達は先に進む。


 二階層ならもっと敵が強くなると思っていたが、変わらずゴブリンばかり。


 時々スライムみたいなのが出るが、蹴ったら殺せる。


 誰だよスライムには物理無効とか言ってる奴は。


「こんな順調でいいのだろうか?」

「むしろ喜ばしいことです。本来ならゴブリンに攻撃されるだけでも体が身構えるものですから」

「そういうもんか」


 俺はゴブリンを切り捨て、最後の層へと続く階段を見つけた。


「これでラストか」

「そうですね」

「なんだか……この先、嫌な予感がしないか?(フラグ立て)」

「そうでしょうか?私には分かりませんが、念の為今日は終わりにしましょう(過保護)」

「え!?い、いややっぱり進もう。ここで戻るのもなんか違うしさ!!(必死)」

「いえ、勘というのは大事にするべきものです。今日は戻りましょう」

「いやいや戻らないから!!絶対行くから!!」

「そこまで言うのでしたら」


 こうして何故か説得をすることになり、俺達は最終層へと向かった。


 そこにいたのは


「……ちょっと大きいゴブリン?」

「ホブゴブリンですね」

「……ゴブリンとの違いは?」

「肌の色が違います。あと何故か服を着ています」

「強さは?」

「多少ゴブリンより強いくらいです」

「そ、そっか」


 悲報、ボス戦が速攻で終わりそう。


「はぁ……終わらせるか」


 残念ながらイベントは無かった


 悲しいが、これもまたチュートリアルの定め。


 本格的なストーリーが始まるまでは大人しく待って


「ハルト様!!お下がりに!!」

「え?」


 何が起きたのか分からなかった。


 突然体が宙に浮いた。


 直ぐにレイラが俺を投げ飛ばしたのだと分かった。


 何故急にレイラがそんなことをするのか。


 その理由もまた直ぐに


「お逃げ下さい!!」

「これは……まさか……」


 ホブゴブリンだったものを潰し、現れた巨体。


 大きな戦斧を振り回すそれは


「ミノタウロス」


 叫ぶ牛頭を見つめ俺は


「イベント……きちゃあ〜」


 静かに涙を流したのだった。

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