第5話

「では、記憶の方は殆ど残っていないと」

「面目ない」

「いえ、それを責めるのはお門違いというものです。ならば一から説明しましょう」


 レイラの魔法講座が始まる。


「魔法は全部で五つの属性からなります。火、水、雷、風、土ですね」

「ほうほう」


 かなりテンプレだな。


「他の属性はないのか?」

「そうですね。あくまで噂ですが、時より未知の力を発現する例は存在します。ですが、私達が今後出会う可能性は限りなくゼロに近いと思われます」


 ふ〜ん。


 でも多分だけど、俺その魔法に出会える気がするんだよな。


 だって主人公だから!!(違います)


「続けても?」

「あ、はい」

「では」


 レイラはコホンと咳払いをし


「まず火の魔法からです。最も高威力かつ広範囲の技で、殲滅力でこの魔法の右に出るものはいません」


 カ、カッケェ〜


 やっぱり憧れる魔法ってのはそういう派手で強いのが一番なんだよな。


「もし先程の豚が出した火球が直撃していれば、ハルト様は一瞬で灰になっていたでしょう」

「怖」


 結構危なかったんだなあれ。


 チュートリアルの雑魚キャラと思っていたが、もしかしてライバルキャラだったりするのか?


「次に水は応用力が高く、その上唯一の回復魔法を扱える属性でもあります」

「へぇ、じゃあかなり重宝されるんじゃないか?」

「その通りです。巷では水の女神と称される癒し手の実力は神の領域にまで至ると言われています」

「ほう?」


 重要キーワードだ。


 こういう一つ一つの言葉は後の伏線となることが多い。


 しっかりと覚えておかないとな。


「そして雷は魔法の中で最強と呼ばれています」

「最強か」


 胸が躍る言葉だ。


「自身が纏えば目にも止まらぬ速さに、撃てば回避不可能な攻撃に、その力は正に他を圧倒する絶対的な力です」


 それ勝ち目なくね?


 てかどう考えても身体強化の上位互換だよね?


「勿論弱点も存在します。扱いが難しく制御を誤り怪我をしたという事例や、消費する魔力が多いことからも、ある意味で諸刃の剣と呼ぶべき魔法ですね」


 ゲームだと自傷ダメージ系だったりするのだろうか?


 この世界だと強いけど使い勝手が悪い認識みたいな感じか。


「そして風は水以上に応用の効く、サポートに優れた性能をしています」

「なんかパッとしないな」

「確かにあまり人気ではないですね。ですが、最上級の使い手は空を自由に飛び回り、空間を支配すると言われています。ある意味で自由さで言えば風はどの魔法にも劣らないでしょう」


 そう言われるとなんかカッコよく感じてきたな。


 レイラってお堅い騎士って雰囲気だけど、実は意外とノリがいい人だったり?


「そして最後に土。イメージ通りで硬さに置いてはピカイチです」

「防御寄りか」

「他にも土地を利用した敵の分断やトラップなど、かなり多彩な力でもあります。逆に真正面からの攻撃は少し難しい傾向にありますね」


 レイラの授業はかなり分かりやすくて助かるが


「なんか戦闘向きだな」

「申し訳ありません。私は学がなく、魔法のイメージは戦場で見聞きした話しか持ち合わせていないので」

「物騒だなぁ」


 だが、実戦で使われる魔法というのは机上の空論ではなく本物だ。


 そこいらの頭デッカチよりも、彼女の話の方が俺の体に馴染むかもしれない。


 何故なら


「俺が求めるのは闘争だからなぁ!!(この世界は恋愛ゲームです)」

「そして、ハルト様はこれら属性を持たない所謂無属性。最近では侮辱の意味も込め、無能と呼ばれることが多いですね……」


 突然言葉尻が弱くなるレイラ。


 多分俺のことを心配しているのだろうが


「だけど俺は強くなりたいんだ。教えてくれ、俺の唯一の魔法を」

「……本当に、別人のようですね」


 レイラは少し笑った。


 ……ごめん、嘘です。


 甲冑着けてるから分かんない。


 雰囲気で言っただけである。


「身体強化の魔法。その名の通り身体能力を大幅に上げる他、五感を鋭くすることも可能です」

「達人みたいなことが出来るってことか」

「かなりの魔法の使い手となれば、光すらも視認出来るそうですが、このレベルの域に達した人は歴史の中でしかいませんね」

「でもいたんだな、そんな人外が」


 なんか希望の兆しが見えてきたな。


 もしや、俺のゴールはゴリゴリマッチョマンの姿なのかもしれない。


「ですが、身体強化は扱いは簡単ですが、伸び代が他に比べあまりにも遅過ぎます。身体強化を10年続けた人間と、属性魔法を半年した者が同じと言われるくらいです」

「何それ詰んでるじゃん俺」

「はい、詰んでます」


 言い切られちゃった。


「おそらくハルト様が今後どれだけ魔法を鍛えても、先程の豚の魔法すら弾くことは出来ません」


 レイラは少し低い声で


「それでも、魔法を習いますか」


 これは脅しなのだろう。


 お前は今、人生を無駄な時間に割こうとしている。


 それでも続ける覚悟があるのか……と。


 そんな問いをされたら


「じゃあ習わないな」

「え?」


 キョトンとした顔(予想)をするレイラ。


「習わないよ」

「そ、そうですか……」


 自分からやめるなら今みたいなことを言って、本当にやめると困るんだな。


 まぁいいや。


「そんな志の低い奴に教わる気は到底起きないな」

「……え?」

「俺は強くなる。どんな苦労でも、どんな逆境でも立ち向かってみせる。だから俺に必要なのは」


 ビシッと指を差し


「さっきの魔法なんか簡単に弾く力だ。それ以外に興味はないな」


 ドヤ顔で言ってやった。


「……」


 レイラは喋らない。


 甲冑で動かないと置き物みたいだな。


「その道は、荊の道ですよ?」


 念を押される。


 ならば言ってやろう。


「望む所だ!!」

「本当に……」


 涙ぐむ声。


「分かりました。稚拙ながら、私の用いる全てを叩き込みます。覚悟はよろしいですね」

「どんと来いや!!」


 こうして、俺の魔法レッスンの日々が幕を開けたのだった。


 ◇◆◇◆


「兄さん?」


 エリが部屋に戻ると、ハルトの姿はなかった。


「まさか!!また無茶を!!」


 いくつかの部屋を見て回る。


 すると


「あ、兄さんこんなところで何を」

「お静かに」

「レ、レイラ!!」


 エリは驚きのあまり足を滑らせるが、レイラがそれを支える。


「あ、ありがとう」

「当然のことです」

「……トンはどうしたの?」

「それは後程、報告致します。今はそれよりも」


 レイラが目を向けた先には、部屋の真ん中でただ座り続けるハルトの姿。


「何を……しているの?」

「魔力の在処を探っています」

「魔力?どうして兄さんがそんなことを……まさか!!」


 エリはとある結論を導き出す。


「兄さんは、あの日の約束を果たす為に……」


 記憶が無くとも、その思いが体を突き動かす。


「もし、それが本当だとするのなら」


 レイラはその兜を脱ぐ。


 赤く長い髪がふわりと現れる。


「もう一度私は……願ってもいいのでしょうか」

「レイラ……」

「あの日の景色をまた、三人でもう一度見ることを願ってもよろしいのでしょうか……」

「きっと……きっと兄さんならもう一度……」


 ポロポロと涙を零す。


 いつしか三人で結んだ約束。


 ついぞ叶わないと思われた淡い夢が今、奇跡を起こそうとしていた。


 ちなみにだが


(魔法魔法魔法魔法魔法魔法魔法魔法魔法魔法魔法魔法魔法魔法魔法魔法魔法魔法魔法魔法魔法魔法魔法魔法魔法魔法魔法魔法魔法魔法魔法魔法魔法)



 当の本人はそんなこと一ミリも考えてなどいなかった。



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