第3話
あれから俺は色々とこの世界について探り始めた。
まず最初に分かったのは俺の名前。
「ところで俺の名前ってなんだ?」
「兄さんの名前はハルトよ」
「ハルトか。いい名前だ」
次に分かったことは
「なんか金持ちそうな家だな」
「私達の家は貴族なんだから当然でしょ」
「へぇ」
俺が貴族であるということ。
それから
「魔王?そんなもの聞いたことないけど、確かラストダンジョンの一つには魔神殿という場所があるそうよ」
どうやらこの世界は俺が思ってたよりも楽しそうなもので溢れているということだ。
「私はこれから用事があるから、兄さんはもう少し休息を取ってね。……絶対よ!!」
念を押され、エリはどこかに行った。
「さて」
ジッとしていろと言われ、犬のように待機できる程出来た人間じゃないんでな。
「とりあえず探索だぜ!!」
もしかしたら秘密の部屋とかあるかもしれん!!
冒険魂が火を吹くぜ!!
「ヒャッホォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」
部屋の扉をぶち開け、色んな部屋を見て回る。
トイレ。
風呂。
リビングに物置き。
書棚に更衣室らしき部屋。
それから
「謎の部屋か」
適当に扉を開けて遊んでいると、鈍い音と共に壁だった場所から扉が現れた。
普通ゲーマーとしては秘密の部屋があるとワクワクしながら探索するものだが
「これ、多分攻略順番間違えたな」
そこには二つの指輪が置いてあった。
ガラスケースに包まれ、どこからどう見てもレアアイテムという匂いがプンプンする代物だ。
「よし、貰う(盗む)か」
ネタバレ嫌いのリーカーとして有名だった俺だが、流石に偶然の産物にまでケチはつけない。
噂では許可なしに物を貰うのは犯罪だが、どうやらここは俺の家っぽいし、その上落ちている物を拾うのは一般常識だろ?(ゲーム脳)
俺はガラスケースから指輪を頂き、宝箱がないか周辺を入念にチェックした後、その部屋を後にした。
俺が部屋を出ると同時に扉は静かに消え去る。
「何の指輪だろうか。指輪の使い道として最初に考えられるのは能力上昇としてだが」
まず最初に本来の使い道に気付かないバカである。
「何も起きないな」
指に嵌め込むが、体が軽くなる気配も頭が良くなる気配もない。
他の効果としては魔力を上げる、もしくは魔法の威力を上げるものかもだが
「今の俺では使い道がないな」
仕方がないので指輪を外す。
俺も早く魔法とか使いてぇな〜
「他には合成素材、もしくは指輪自体が何かの鍵か?」
何故か頑なに恋愛面と結びつけないバカ。
「どちらにせよ今はまだチュートリアルにすら入ってないんだ。考えるだけ無駄だな」
俺は指輪をポケットに突っ込み、部屋に戻ることにした。
どうにかしてチュートリアルを進めたいため、とりあえずエリの言う通り部屋に待機しよう。
そうすればイベントが発生するかもと考えていると
「ん?」
外の景色が見えた。
そこには少し太り気味の男と、その横に甲冑を被った騎士がいた。
男が剣を振り、それを騎士が褒めている。
だが、どこからどう見ても男の剣に心奪われる何かはなかった。
「ふ〜ん」
そして俺は
◇◆◇◆
「さすがでございます、トン様」
「やはり僕の剣が一番か?」
「まさしくその通りかと」
私は自分の意志と全く逆の言葉を吐く。
「ですが、より剣を振れば更に上を」
「何故その必要がある。一番の剣を振る僕が、それ以上を求めるのは傲慢だろう?」
「……おっしゃる通りで」
その発言こそ傲慢だとそろそろ気付いて欲しいものだ。
だがその怠慢が許されしまうのが、この男と私の格差を示しているかのようであった。
「それに僕は剣よりも魔法が好きなんだ。そうだ、僕の新しい魔法を見ろ」
その腹の贅肉とは裏腹に、洗練された手付きで魔法を詠唱する。
「やはり魔法の才能はピカイチですね」
「ん?……何か変な感じがしたがまぁいい。そうだ、僕は凄いんだ」
剣の腕は豚に真珠もいいところだが、魔法の分野に関しては本物だ。
恵まれた魔力と上流階級にのみ許された勉強の幅による知識。
それらが合わさることで、空気が研ぎ澄まされるほどの熱量が発生する。
そして
「……お見事」
「ふふん」
地面に大きなクレーターが出来た。
普通の人間など木端微塵となる威力。
おそらく同年代と比べても、こいつの力はかなり上位の方であろう。
だが、私は尊敬の念よりも恐怖を覚えた。
この馬鹿が常にこんな兵器を持つこと、それが果たして周りに与える影響はいかほどだろうか。
「やはり僕は天才だろ?」
「はい、まさしく」
「天より授かった才だな!!……お前と違ってな、ハルト」
足音で気付いていたが、まさか本当に来るとは思わなかった。
だが、今になって何をしに来たのだろうか。
「ハルト様、本日はどのようなご用件で?それに腕の方は大丈ーー」
「……ふむ、この装備めちゃくちゃ防御力が上がりそうだけど、俊敏性も結構下がりそうだな」
「ハ、ハルト様?」
突然現れたかと思えば、一気に距離を詰めジロジロと私の姿を見てくる。
「あの……ハルト様?」
「ん?少し待って。最終的には見た目重視の装備でいきたいから……」
……この人は本当に今までのハルト様なのだろうか?
いつもならどこかオドオドし、戦いよりも花や読書を好む人だったはず。
なのに今はどこか自信があるというか、自分の行動に真っ直ぐな姿はまるであの時の……
「おいハルト。お前何しに来たんだ」
「なんでって、あんなすげぇ魔法見たら飛んでくるしかないだろ!!やっぱり遠距離からの高火力技はどの時代も腐りにくいからな」
やはり勉学の差か、私の知らない言葉を多用している。
自身の知識をひけらかす人物でないことは知っているが、どこかいつもより遠い存在に見える。
「なぁ!!俺にも教えてくれよ魔法!!」
「……」
キラキラとした目を向ける。
その向上心が何故、今になって芽生えたのかが不思議だった。
その情熱を何故……いや、最早それは私達には関係ないこと。
それに、どちらにせよ気持ちだけでは解決出来な問題なのだ。
だってハルト様は
「おいおいハルト。レイラは僕の騎士だ。そう簡単に指導してもらえると思うなよ。そうだな……キヒッ」
気持ちの悪い顔を浮かべ、吐き気が喉の方まででかかる。
「土下座し、一生僕の奴隷になるって言うなら聞いてやってもーー」
「お願いします名無しの権兵衛様!!この奴隷の身に魔法のご教示を!!なんなら靴も舐めます!!」
この男は何をしているのだろうか?
プライドという言葉の意味を疑う現象が目の前で起きた。
「ク、クハハハハ、こんなに笑ったのは久しぶりだ。まさか本当にするなんてな。レイラ、この光景をよーく覚えておけ」
そう言ってクズはハルト様の頭を踏んだ。
「僕はお前がずっと嫌いだったんだよ。僕より勉強出来るからって、上から目線で貴族の在り方を語る姿がイライラして仕方なかった」
見ていられなかった。
ハルト様の腕は、医者でもない私でもかなり酷い状態だと分かる程深刻な物だ。
おそらく既に処置はされているだろうが、痛みで今でも苦しんでいるだろう。
そんな怪我人に対してこいつは……
「ん?レイラなんだその顔は」
「いえ、なんでも」
「そうか……ん?どうだ?レイラもこいつ踏んでみるか?」
「いえ……」
「じゃあ僕はもう少し楽しむか」
そうしてまた楽しそうに頭を踏みつける。
ハルト様は未だに抵抗せず、甘んじてそれを受け入れている。
どうしてそこまで魔法の教えを乞うのか。
何故そのような無意味な行動に出るのか。
真実をもう一度、直視させるべきなのだろうか。
「ハルト様、知っての通りあなたは魔法がーー」
「よし、いいぞ。教えてやろう」
豚が私の言葉を遮る。
明らかにわざとだろう。
「マジ!!ヤッホー!!で、どうすんの?魔力グルグル?それとも魔法陣を作るとか?あ、その前に何の属性かーー」
「ハルト、教えてやるのは魔法のことじゃない。お前は魔法が使えないということをだ」
先ほどまで飛んで喜んでいたハルト様が、動きを止める。
「……おい、嘘はやめろよ。主人公が魔法を使えないなんて聞いたことない」
「現実を見ろハルト。お前が必死こいて下げた頭には何の意味もないことなんて、お前が一番知ってるだろ?無能のハルトさんよぉ」
自分のことではないのに、何故か私の心が締め付けられる。
本当に、どうしてここに来てしまったのか。
自分が惨めな気持ちになると知っているのに
「……なるほど」
だが彼は落ち着いていた。
「覚醒イベント……もしくは後付けパーツか?いや、もしくはレベル解放か?無い……ってパターンも今時ならありな設定かもな」
ブツブツと何か独り言を呟く。
そして
「でも、ここが戦闘チュートリアルなのは間違いないはずなんだが……」
「フヒッ」
まずい!!
チュートリアルという言葉の意味は分からないが、今確実に
「なぁハルト。ここが戦闘訓練の場所なのは知ってるよな?」
「ん?ああそうなんだ。やっぱここでダンジョン内での戦闘シュミレーションを行うわけか」
「そんでお前今、戦闘って言ったな」
「ハルト様!!絶対に許可を出さないで下さい!!」
「????」
トンは下卑た笑みを浮かべ
「勝負だハルト。僕と戦え!!」
「ん?いいよ」
そして、無情にも魔法は発動した。
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