第2話
早速レベリングをしようと近場のモンスターを狩ろうとしたが、少女に呼び止められた。
何だよ邪魔すんなよ。
「素手でモンスターに勝てるわけないでしょ!!」
ど正論だった。
言われてみれば確かにそうだ。
全く、テンションの上がり過ぎで冷静な思考が出来てなかったぜ。
「兄さん、何してるの?」
「え?何って」
俺は落ちていた木の棒を拾い
「武器は揃った」
「……兄さん」
「モンスター狩りじゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「兄さん!!!!」
俺は近くにいたゴブリンに向かって突進する。
ゴブリンがこちらに気付き、まるで化け物でも見るかのような目線を向ける。
「食らえぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ」
「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
逃げるゴブリンに俺は渾身の一撃をぶつける。
俺の攻撃力は知らないが、通常攻撃+ひのきの棒を装備している今なら、かなりいいダメージが期待でき
ボキ
「……」
「……」
木の枝が折れる。
「グ、グギャア?」
完全に不意を突かれたゴブリンが頭を傾げる。
「すまない。どうやらあれは武器ではなくただのゴミだったようだ」
「グギャ」
ゴブリンが優しげな目で俺を見つめる。
「ありがとう。それじゃあ今日は痛み分けということで、またな」
俺はゴブリンに別れを告げ、意気揚々と回れ右をする。
短い付き合いだったが、どうやらあのゴブリンとは確かな友情を
「あ、ですよね」
「グギャアアアアアアアアアアア!!」
「誰か助けてぇええええええええええええええええええええええええええええ」
ゴブリンが大きな棍棒を持って追いかけて来た。
「クソ!!まさか雑魚モンスター如きに手こずるなんて」
どうやら俊敏性は同じくらいらしい。
追いつかれることはないが、逆に言えば逃げ切ることも出来ない。
走りながら俺は考えを巡らせる。
「よくよく考えれば俺のレベルはまだ1だ。チュートリアルすらしていない俺が、ここでモンスターと戦うのは無謀だったのでは?」
ふむ、そうなると
「もしかしてゲームオーバーか?」
さて大変だ。
最初は興奮して忘れていたが、この世界がゲームだとしても、俺の残機は果たしていくつも存在するのだろうか?
仮に俺の命が一つの場合、俺の異世界生活がここで終わってしまう。
「それはいかんな」
俺は足を止め、ゴブリンに向き合う。
奴の武器は棍棒。
強力であることには間違いないが、打撃を求めた形状のあれでは、急所に当てなければ即死は狙えない。
つまり会心さえ出なければ
[殺せ]
勝機はある。
「来い」
ゴブリンが突進してくる。
案の定、芸も無く棍棒を全力で振り下ろす。
今の俺では回避不可能。
ましてや防御魔法やパリィをする武器も存在しない。
ならば
「グギャ!!」
俺は右手で攻撃を受け流す。
反動で腕が曲がってはいけない方向に曲がってしまったが
「問題ない」
後々回復すれば治るだろ。
だってゲームなんだから。
「チェックメイトだ」
俺は無防備になったゴブリンの首元を
「gyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyy!!!!」
「ペッ、まっず」
噛み切った。
生き物を噛み殺す経験は初めてだったが、案外いけるもんだな。
「へぇ、ゴブリンの血って赤いんだな」
基本こういう時は青い血のイメージがあったが、こいつも酸素大好き生物というわけか。
「に、兄さん、どこまで走……え?」
突然走り出した俺に追いついた少女は、俺の折れ曲がった腕を見て顔を真っ青にする。
「腕……が……」
「ああ、これは」
ポタポタと腕と口から垂れる血と共に
「あれ……また意識が……」
「兄さん!!!!」
俺はそのまま暗い景色の中に落ちるのであった。
◇◆◇◆
「回復魔法で神経は繋がりました。これ以上は自然治癒で少しずつ戻していく必要がありますね」
結果的に言えば、俺は重症だった。
腕は相当イカれてたらしく、界隈でも有名な人を呼び寄せる事態にまで発展した。
そして俺の腕にはいくつかの処置が施され、しばらくは右腕が使えない生活が続くそうだ。
医師はそのまま帰って行き、部屋には俺と少女だけが残った。
「まさかこのゲーム回復縛りでもあるのか?」
「兄さん!!ちゃんと反省しているの!!」
柔らかなベットの横で、涙目になった少女が顔を真っ赤に怒っていた。
「どうしてあんな危険なことをしたの!!」
「悪い、俺も反省してる。
「本当にね!!全く、なんであんなことを急に」
ブツブツと小言を唱え続ける少女。
兄さんという口ぶりから、おそらく俺の妹であることが察せられる。
だが
「なぁ」
「何?まだお説教は」
「お前、名前なんて言うんだ?」
「え……」
ゲームならテキストで名前が出てくるんだが、そう言ったメタ設定がないと分かりづらいな。
まぁ俺は秘密の暗号を解くために記憶力を鍛えたこともある。
名前を覚えることくらい雑作もないな。
「名前……どうして……」
ポロポロと泣き出す少女。
「まずいな」
ゲーム一筋17年
数多のゲームをクリアした俺だが、現実の女性を攻略した経験は完全に0。
もしこれがギャルゲーなら、抱きしめて頭ポンポンでもすれば完璧だろうが、残念なことにここはバトル系世界だ。
語るは愛の言葉でなく拳。
それ以外に俺の用いる術はないのだ(あります)。
てかそんなことしたら普通に逮捕だしね。
「そういえば……兄さんは会ってからずっと様子が変だった。呼び方も変だし……常識すらも危うい状態……もしかして」
よっし、勝手に誤解が進んでるっぽいが、そのままゴリ押しちゃえ。
「記憶喪失……なの……?」
「exactly(ドヤ顔)」
あぁ、女の子が絶望した顔しちゃったよ。
これをスチルで売ったら人気出そうだな。
「じゃあ……あの時の約束も?」
約束?
なんだ約束って?
「は!!」
ここで俺の脳内コンピューターがフル稼働する。
美少女の妹と昔に交わした約束。
そこから導き出される答えなんて
「レアアイテムか!!(違います)」
これはおそらく謎解き要素だ。
おそらく、この女の子と昔遊んだ場所とかにゲーム上一度しか手に入らない系のアイテムがある筈。
ここはおそらく分岐点。
おそらくな!!
ならば
「すまない、確かに忘れてしまった」
「……ううん、もういいの。どうせ忘れるべきものだったから」
「だけど、このままなんて嫌だ」
「え……」
ここでフラグを折るわけにはいかない!!
「絶対に思い出して見せる。例え記憶を失っても、この思いだけは覚えているんだ」
「兄さん……」
また涙を流す少女だが、今度は先程と違うものなのだろう。
この涙の意味を知るには、俺はまだまだ情報不足なのだ。
だけど今は
「改めて、もう一度名前を聞かせてくれ」
少女は涙を拭く。
そして目を向き合わせ
「私の名前は……エリ。次は忘れないでね、兄さん」
「ああ、絶対に忘れないさ。この命尽きようとも」
フワリと微笑んだエリと共に
ピコン
何かが上昇したことに、男が気付くことはなかった。
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