ギャルゲーをダンジョン系RPGと勘違いした男の冒険譚

@NEET0Tk

第1話

「よっしゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 深夜であるにも関わらず、男は奇声を上げる。


「アイテム、キャラ、レベル。まさか全て揃えるのに100時間かかるとはな」


 男は自身のやり遂げた偉業に涙する。


「三徹した甲斐があったぜ。最後の怒涛のボスラッシュなんか歴史に残る傑作だったな」


 男は上がり続けるテンションとは反し、自然と閉じようとする瞼を無理矢理開ける。


 そしてパソコンを開き


「おお、やっぱりみんなも面白そうにしてるな」


 男はゲームのレビューを見、ゲームへの賞賛をまるで自身が褒められたかのように楽しく眺める。


 恩には恩をという形ではないが、ユーザーを楽しませる努力をするゲームに対し、彼は同じだけの愛情を与えることをモットーにしている。


 その為、こうしてゲームを完全攻略した後はいつもゲームの感想を打ち込むことにしているのだが


「ん?」


 そんな中


「このゲームの作者、もう一作出してるのか」


 とあるレビューから、男は新たなワクワク情報を見つけた。


「こんな神ゲー作った人の新作か……買わないなんて選択肢はないな」


 男は早速とばかりにゲームを調べる。


「これか」


『ダンジョンRPG〜世界を飛び越え〜』


 ダンジョンとは珍しいなと男は考える。


 男にとってダンジョン系のゲームといえば、歩くとお腹が減り、自分が歩くと敵も同時に歩くという冷静に見るとツッコミ満載なものが多い。


 だが詳しく調べて見ると、どうやらダンジョンと同じくらいストーリーも重視した作品のようだ。


「面白そうじゃねーか」


 ネタバレをとことん嫌う男は、それ以上は何も確認せずに問答無用でゲームを購入する。


 それと同時に、一気に眠気が襲いかかる。


「おっとっと」


 倒れそうな体を無理矢理起こす。


 せめて布団の上で眠らないと。


 男は布団に倒れ込むように飛び込む。


「あー、ゲームだけして生きていたい」


 男はまだ学生の身のため、こうした生活が出来るが、いつかは働くことになる。


 そうなれば大好きなゲームをする時間は一気に無くなるだろう。


 そんな当たり前が、どこか悲しくて仕方なかった。


「夢が叶うなら、どうか一生ゲームが出来ますように」


 剣と魔法の世界に行き、沢山の仲間と共に悪しき敵を倒す。


 その途中で多くの技やアイテムを手に入れ、強くなり続ける。


「そんな世界に行けたらなぁ」


 ピンポーン


 夢の世界に向かおうとした男の耳に、チャイムの音がノックする。


「こんな時間に誰だ?全く、教育がなってないな」


 先程深夜に大声を出した者とは思えない発言と共に、男はフラフラと玄関に向かう。


「あれ?誰もいない」


 覗き穴越しに外を見るが、誰もいない。


「酔っ払いか?もしくは癖の悪い悪戯か?どちらにしても……ふわぁ……眠」


 男は大きな欠伸と共に、今日はもう寝ようと部屋に戻ろうとするが


「ん?なんか入ってるな」


 ポストに何かが入っていることに気付く。


 なんとなく惹かれ、開けてみると


「これってまさか、さっき買ったゲーム?」


 少し奇妙に思った。


 こんな直ぐに届くなどどう考えてもあり得ない。


 だが男は


「ラッキー」


 バカであった。


「ヤッフー!!早速全クリしてやるぜ!!」


 ゲーム好きと寝不足による判断不足により、男は遂に四徹という前代未聞の挑戦へと挑む。


 だがここで、事件は起きた。


「さてさて、一体どんなゲームなのか……あれ?」


 画面がノイズが入ったようにボヤけ始める。


「バ、バクったか?」


 なにが原因かと解明しようとするが、何故か腕も体も動かない。


 画面がドンドンとボヤける。


 かと思ったら、ゲーム画面以外も次第におかしくなっていく。


 視界が揺れ、体が痙攣し、いつの間にか地面に倒れる。


「あ、これ」


 ここで男は気付く


「やばいやつだ」


 そして男は命を落とした。


 その死因は不健康によるものか、はたまた偶然の一致か、それとも届いたゲームによりものかは定かではない。


 ただ一つだけ答えがあるとするのなら、男が倒れる瞬間に何かがゲーム画面へと引きずり込まれた。


 その魂が向かった先は、幸運にも彼が望んだ世界。


 ただ一つだけ、問題があるとするのなら


『剣と魔法の異世界恋愛』


 画面に映る文字は、彼の予想する世界とはほんの少し違ったことだろうか。


 ◇◆◇◆


 目を覚ます。


「……」


 青い空、心地の良い風。


 触れる地面には豊かな草花が広がっている。


 そして俺は


「寝るか」


 二度寝に入る。


 健全なる精神は健全なる身体に宿ると言う言葉がある通り、清く正しく生きるためには二度寝をして体を休めることこそ大事なのではないだろうか。


そう言い訳し、徹夜でヘトヘトの体を……


「いや、待てよ」


 おかしい。


 俺は先程まで自分の部屋にいたではないか。


 何故こんな場所にいるんだ?


 てか


「えっと……こんにちは?」

「……おはよう」


 俺の横には謎の少女がいた。


 しかもどこか怒った様子は、何とも言えない空気をまとっていた。


「はぁ」


 そしてため息を吐き


「帰るよ」

「あ、帰してもらえるんだ」

「その為にわざわざ迎えに来てあげたんだから、さっさと起き上がって」


 兄さん


「…………?????」


 兄さんって……俺のことか?


 俺はわけも分からず、不機嫌そうに歩いていく黒い髪をした少女の後ろをついていく。


 道なき原っぱの上を歩いていて、俺は一つの仮説を立てた。


 立てたというか


「もしかして俺、転生したのか?」


 突然目を覚ますと知らない場所、知らない人間がいた。


 その上俺のことを兄と形容するなんて状況、ドッキリか転生の二択しか存在しない(そうでもない)。


 それにこの体の重さ。


 ゲームで連打速度を速める為に鍛えた腕が、白く細いものになっている。


 更にその証拠とばかりに


「あれって鳥か何かか?」

「鳥?鳥がこんな場所で生きられる筈ないでしょ。国で管理されてる鳥がこんな場所にいるわけもないし」

「そっか。じゃあ、あれってやっぱり」


 空を飛ぶ巨大な影。


 あれはまさしく


「ドラゴン」


 そう、間違いない。


 疑う余地もなく俺は


「異世界転生きちゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

「きゅ、急に大声を出さないでよ!!」


 まさか!!


 まさか本当に存在したなんて!!


 嘘だろ夢か!!


 いや……この感触、この匂い、この心地良さ。


 何より、この圧倒的迫力は夢なんかじゃ到底説明できない!!


 うわぁ……すげぇ……


「ドラゴンだドラゴン!!なぁ本当にドラゴンなんだよな!!」

「ほ、ホントにどうしたの?道端で寝てるだけと思ってたけど、もしかして頭ぶつけたとか?」

「だってお前ドラゴンだぜ!!どんなゲームでも必ず強キャラとして描かれる最強生物だ!!」

「確かに竜種は人類の歴史がもう一つ分あってようやく倒せると言われてるけど、そんな常識を今頃になって急に……兄さん。一度頭に回復魔法でもかけてみたら?」

「きゃ、きゃいふく魔法!!」


 そ、そんな……


 魔法まで存在しているなんて……


「はわわわ」


 膝が震える。


 生まれたての子鹿なんか目じゃないくらい膝を震わす。


 しかも口調がドジっ子系になってしまった。


「な、なぁお前」

「さっきからお前お前って、いつもは名前で呼んでくれるのに……」


 どこか拗ねた表情を浮かべる美少女がいるが、どうでもいい!!


 今はそれよりも


「なぁ!!」

「きゃ!!きゅ、急に触らないで!!」


 俺は少女の肩を掴む。


 俺は転生した。


 ならばもしかして、もしかしてだが


「ダンジョンって……あったりするのか?」


 心臓が高鳴る。


 俺の中の最後の答え合わせだ。


 もし、ここであの解答が出れば


「ダンジョン?兄さん本当にどうしたの?」


 少女はさも当然かのように


「そんなの赤子でも知ってる常識でしょ?あそこに見えるモンスターだってダンジョンから出てきたものだし」


 遠くに見えるのは


「ゴブ……リン……」


 点と点がビックバンを起こした。


「あぁ、まさか本当に夢が叶うなんて」


 俺の最後はゲームを開いて死んだ。


 ならば、俺の転生した世界っていうのは


「ゲームの世界ってことか」


 最後に買ったゲーム、ダンジョンRPG。


 あれをプレイしたと同時に俺は死んだ。


 となれば、必然的に導き出されるのは俺のいる世界はあのゲームの中だと言うこと。


 つまりそれは


「一生、ゲームで遊べるってことじゃないか」


 男は涙を流した。


 実は男の妄想は限りなく正解に近いものであった。


 だが、ただ一つだけ間違いがあるとするならば、この世界はバトルをメインとした世界ではなく


「兄さんがおかしくなっちゃった……」


 恋愛ゲームであることを男が知るのは


「まずはモンスター狩りじゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 まだまだ先のお話である。






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