第11話 エピソード その⑾


「現在の怨念ポイントは510、最大で250ネメシスまで「怨料」に換えることができます。何ポイント利用しますか?」


 僕が再び画面に目を落とした時、サイトの表示は今使える「力」の説明に変わっていた。


 僕は迷わず全ポイントを「怨料」に変換した。すると、「250ネメシスで行使できる力は『十人以内の該当者を全滅させる』です。行使しますか?」という文言が表示された。


 僕は現れた「全滅」と言う言葉に一瞬、たじろいだ。だが、もはや引き返すという選択肢は僕にはなかった。僕が震える指で画面に触れると、「契約を完了しました」という文字が血のように鮮やかな赤で浮かび上がった。


 ――契約をしてしまった……いったい、何が起こるのだろう、


 僕が人目につかないよう、建物と建物の間で息を殺していると突然、脳天に杭を打ち込まれたような衝撃が身体を貫き、凄まじい速度で肉体に変化が生じ始めた。

 

 ――いったい、何が起きてるんだ?


 僕がその場にうずくまると、手足が激痛と共にばきばきと音を立てて伸び始めた。


「うがああっ!」


 背骨が全身を突き破る勢いで伸び、百七十センチの身長が百九十センチになった。


 同時に頭部を黒いスモークガラスのようなプロテクターが覆い、気がつくと僕はあのVRで見た黒づくめの人物とそっくり同じ外見へ姿を変えていた。


 ――僕は、どうなったんだ……これから何が始まるんだ?


 黒づくめの怪人へと変貌を遂げた僕がよろめきながら立ちあがると、目の前の空間に目的地へと誘導するマップがカーナビのように出現した。


 僕は本来の「自分」がどんどん薄れてゆくのを意識しつつ、マーカーが示す目的地――おそらくは千早が誘きだされた場所だ――に向かって移動を始めた。


                ※


 古びたコンクリートの倉庫と共に視界に入ったのは入り口を塞ぐように停められた大型バイクと、幼さを残す顔に凶悪な笑みを浮かべた少年たちだった。


「おっと、この先は行けないよ」


「倉庫に用がある。道を開けよ」


 僕は低くしわがれた「僕ではない声」で言った。力を行使した時点で本来の「僕」は深い所に沈められ、「グラスクラッカー」となった僕にもはや行動の自由はないのだった。


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