サイドストーリー【罪人】

機人ジャンヌ

 肉体改造医療技術が発達した惑星の、北欧風世界の田舎──その世界に突如『妖星ディストーション帝国』の侵略が開始された。


 平凡ないつもと変わらない日常の朝……その日は早朝から、スクランブル発進した戦闘機のジェット雲が網目のように交差している。


 空には赤い空間から半分だけ下部が出ている、ウィルス型をしたディストーション帝国の母艦が浮かんでいた。

 避難した木造校舎の窓から、不安そうな顔で空を眺める女学生たちに混じって、村娘のジャンヌがいた。


 ジャンヌの傍らには恋人の男性が立ち、ジャンヌの手を握っている。

 ジャンヌが呟く。

「いったい、何が起ころうとしているの?」


 戦闘機の一斉攻撃が、ディストーション帝国の母船に向けて開始された。

 爆発音が響き渡り、白煙が母船を包み込む。衝撃はジャンヌが避難している校舎まで届きガラスが揺れる。

 避難している村人たちの悲鳴がジャンヌの耳に届く。

「きゃあぁぁ」

「お母さん、怖いよぅ」


 数十分間の攻撃が止んで、白煙が晴れたディストーション帝国の母船は無傷だった。

 驚くジャンヌ。

「そんな、あれだけの攻撃で無傷なんて……」


 母船から発射された光線が一周すると、戦闘機が溶解して溶けた機体と操縦者が母船に吸引される。

 そして、母船の底に円形の穴が開いたかと思うと、中からクモかダニを連想させる飛行物体が、次々と放出された。

 飛行物体は、牧場にいたジャンヌの世界のウシやブタやウマやヒツジやヤギやニワトリに似た家畜類を次々と、吸引光線で捕獲して母船内へと連れ去って行った。

 母船は、家畜を連れ去ると沈黙した。


 数日間をかけて、二次攻撃と三次攻撃の陸と空からの攻撃が母船に与えられたが、結果は同じだった。

 母船が次にクモかダニに似た捕獲用の小型宇宙艇を放出して家畜の次に捕獲をはじめたのは、隣町の人間たちだった。

 捕獲小型艇は、安全区域に集まっていた、大量の人間たちを狙って捕獲して連れ去っていった。


 夜──避難している木造校舎の体育館で、揺らぐランプの明かりを眺めながら、ジャンヌが横に並び座った恋人に言った。


「怒らないで聞いてほしいの……あたし、軍が民間から募集していた『機体改造志願兵』の適正検査を受けて、適合S級肉体と判定されたから。その場で改造志願兵の自己登録をしたの……明日、手術を受けるの」


 恋人が驚き声を荒げる。

「どうして、そんな勝手なコトをしたんだ! 

改造志願兵になるってことは、記憶もほとんど失って自分が自分じゃ無くなって、戦うだけの兵器になるんだぞ! 相談も無しに」


「ごめんなさい……相談したら反対されると、わかっていたから……あたし、みんなを守りたい、この星を守りたい、あなたを守りたい!」


「ジャンヌはバカだよ……いつも、他人のために自己犠牲になろうとする、反対しても改造志願兵になる意志は変わらないだろう」

「ごめんなさい、ごめんなさい……あなたのコトは忘れないから、人を愛する気持ちは忘れないから……んッんッ」

 ジャンヌは人間最後のキスを、恋人とした。


 ジャンヌが集団改装手術を受けている間に、妖星ディストーション帝国の母船は着陸して捕獲した家畜と、人間を融合させた、さまざまなカイジンを放ってきた。

 頭がウシで体が人間、人間の上半身にウマの胴体のカイジン、家畜の背に人間の上半身がくっついたカイシンもいた。


 そして、数日後──ジャンヌは戦うだけの兵器『機人』となった。

 ジャンヌたち機人は、次々とディストーション帝国のカイジンを駆逐していった。


「ピピピ……わたしは機人ジャンヌ……カイジンの駆逐と排除を開始する」

 軍の空爆攻撃で、半崩壊した建物の中で機人軍のリーダーとなってカ。

 カイジンの排除を連日行っていたジャンヌの前に、一体のケンタウルス型のカイジンが出現した。


 家畜のメス馬の首から上に、成人男性の裸身上半身を融合させられたカイジンを見た瞬間──ジャンヌの動きが止まる。

 カイジンの人間部分は、ジャンヌの恋人の上半身だった。


 困惑するジャンヌ。

「ピピピ……バグ発生、わたしの生身の部分と機械の部分が、相反する対処をしようとしている? カイジン? 愛? 排除と駆逐? 守りたい?」

 その時、軍の空爆が半壊した建物に直撃して。

 爆風で飛んできた物体がジャンヌの片目を直撃して、機能を一時停止したジャンヌの機体は壁際に吹っ飛んで倒れた。

 数分後──再起動リブートしたジャンヌが立ち上がる。

 周囲を見回すと、ジャンヌ以外の、女性型改造志願兵隊は爆発で全滅していて。

 生き残っているのはジャンヌ一人だった。


 恋人の上半身を移植されたメス馬のケンタウルスカイジンは、落下してきた天井の下敷きになって、死亡していた。

 困惑が続いているジャンヌは、異物が飛んできて衝突した片目に触れる。

 鉱石のようなモノが、片目にハマっていた。

 鉱石からの情報が、ジャンヌの電子脳に流れ込む。

「これは、罪人の宝珠というのか……そうか、ピピピ……わたしは、これからどうしたらいい……わたしが守るべき世界、わたしの居場所を示してくれ」


 ジャンヌの問いに答えるように、宝珠が異世界の月魂国に通じる光りの通路を開く。

 飛行ホバーボードに飛び乗ったジャンヌは、しばらく天井の下敷きになって死んだカイジンを悲しそうな目で眺めてから──新たな世界へと旅立って行った。


 機人ジャンヌ~おわり~

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