第31話・9つの悦楽三昧〔とりあえず完結〕

  ◇◇◇◇◇◇


 鉄馬がトウロウを寸断したのと同時刻──風月洞近くの村では、狂ノ牙の紫色のイカが連れてきた、カイジューとオカドー&バコシヤの群れに竜剣、牛鬼、魔呪の三罪人が苦戦していた。


 現れたカイジューは、巨大なクラゲのようなカイジューだった。

 そして、クラゲの内部には得体が知れない機械が埋め込まれ点滅しているのが見えた。

 長い毒触手を伸ばした、陸クラゲのカイジューに竜剣たちも迂闊うかつに近づけなかった。


 何度でも再生する触手を、剣で切断している竜剣がボヤく。

「こりゃ、キリがねぇな。オカドーだけでも面倒だと言うのにバコシヤとかいうへんなのまで現れたやがった。バコシヤを連れてきた。あの『痛覚三昧』って男のはなんなんだ? 魔呪、ちょっとあの『痛覚三昧』って、ヤツに攻撃をしてみてくれ」


 等身の呪い人形を出現させて、木製の杭を打ち込んでカイジューとオカドー&バコシヤに同時爆裂攻撃をしている魔呪が、竜剣の言葉に嫌そうな顔をする。

「イヤですよ、なんかあの痛覚三昧ってヤツを傷つけたら……本能がダメだと告げていたり、いなかったり……竜剣が攻撃したらいいじゃないですか?」

「オレもイヤだ、なにかアイツからは、得体が知れないオーラを感じる」


 超高速移動で、オカドーとバコシヤの首を、ねじ切って殺している牛鬼が言った。

「ここでクイズだ……あのカイジューの内部にある点滅している機械のようなモノを一番・攻撃をする。二番・様子を見る。三番・その他の選択……どれがいいと思う?」

「三番のその他の選択だ……あの平らな岩の上に座っているだけの、痛覚三昧の出方がわからないからな」


 痛覚三昧は小柄な体型の男ので、丈が短いゴスロリ調のフリルスカートを穿いていた。

 額にはユニコーンのような角が生えていて、体中に生傷が残っている。

 痛覚三昧が言った。

「いいねぇ、いいねぇ……オカドーやバコシヤに与えている、痛みはいいねぇ……次はボクにも傷みが欲しいねぇ」

 痛覚三昧が、カイジューの上に乗っている狂ノ牙を見上げて訊ね。

「そろそろ、機械のエネルギー溜まってきた? もう時間稼ぎはいいかな」

「キュキュ……〝きかい〟のエネルギーは十分だ、〝かどう〟時間は約三分間が〝げんかい〟だ……キュキュ」


「いいね、いいね、君の発明した機械の効果を、直接で確認できないのが残念だ」

 狂ノ牙は、クラゲの頭にムニュと穴を開けると、点滅している機械のところまで降りてレバーを引いた。

 世界が揺らぐ感覚が広がり──時間が停止した。

「キュキュ、〝せいこう〟だ三分間だけ〝じかん〟が止まった」

 クラゲのカイジューから外に出た、狂ノ牙のイカの体に無数の目が現れる。

 狂ノ牙は時間が止まっている、痛覚三昧に近づくとピラッとスカートをめくって内部を確認する。

「キュキュ……〝ぱんつ〟は女モノか……キュキュ、おっと、こんなコトをしている〝ばあい〟じゃない……じゃまな罪人を〝しまつ〟しないと」


 狂ノ牙は三人の罪人を一人づつ、触手で「だれにしようかな」と選択する。

 触手は牛鬼で止まる。

「死ぬのはおまえだぁ……キュキュ」

 足をプロペラのように回転させて飛んできた狂ノ牙が、牛鬼の首を寸断する。

 時間を停止させる機械が爆発して、時が動き出す。

 同時に牛鬼の首の切断面から、鮮血が噴き出した。

 驚く竜剣と魔呪。

「いったい何が起こった?」

「牛鬼……ウソだろう」


 嫌な笑みを浮かべる痛覚三昧。

「いいね、いいね、悪食、溺愛、寄生に千手、分解、そしてボク痛覚……えーと、あと三人だれだっけ? あははは、忘れた」

 機械の爆発でカイジューが死亡して、目的を果たした狂ノ牙と、痛覚三昧は笑いながら去って行った。


  ◇◇◇◇◇◇


 鉄馬たちが、もどった月桂城では沈んだ空気が流れていた。

 朔夜姫が罪人たちを前に呟く。

「そうですか……擬態と舞姫と牛鬼は亡くなりましたか」

 誰もが沈黙する中、少し離れた場所にいた魔槍が冷たい口調で言った。

「罪人の補充は行われる……数人減っても、新たな罪人が宝珠の力で現れて十四人になる」

 鉄馬が魔槍に詰め寄る。

「そんな言い方ないだろう、仲間が死んだんだぞ!」

「罪人として宝珠に選ばれた時から、死は覚悟していただろう……これが罪人の宿命だ」

 ランス・ロッドは魔槍の先端を鉄馬に向けて言い放った。

「鉄馬お兄ちゃんも、妖星ディストーション帝国と戦って灯花どのを守るからには、それなりの覚悟を持ったはずだ……違うか」

 鉄馬はそれ以上何も言えなかった。


 竜剣が言った。

「魚拓は、ショックで。部屋に閉じこもったままだ……宝珠も消滅してしまったから、もう罪人の力は使えない」

 朔夜姫が竜剣に訊ねる。

「機人ジャンヌの姿が見えませんが?」

「行方不明です、それにしても新たに王ノ牙という者まで出現してしまって、その配下らしき9つの悦楽三昧の正体もわからないままでは……現在、こちらが直接姿を見て把握しているのは。寄生、溺愛、千手、痛覚の四名のみ……せめて、全員の名前がわかれば」


 朔夜姫が手紙のようなモノを取り出して言った。

「9つの悦楽三昧の名前だけは全員わかります……この手紙に書いてあります」

「その手紙はどこから?」

「先ほど、9つの悦楽三昧の一人『改ざん三昧』という方が城の門番に、直接届けてくださいました」

 驚きの声を発する鉄馬。

「なにぃぃ、直接城まで来た?」

「とても礼儀正しい方だったそうです……手紙を門番に渡したら、すぐに帰られてしまったそうですが」


 朔夜姫の手にした手紙には、簡単な時候の挨拶が添えられ。

 9つの悦楽三昧の名前が、書き連ねられていた。

『悪食三昧』

『溺愛三昧』

『寄生三昧』

『千手三昧』

『痛覚三昧』

『分解三昧』

『監視三昧』

『良夢三昧』

『改ざん三昧』

 罪人たちは、妖星ディストーション帝国の新たな脅威に沈黙した。


  ◇◇◇◇◇◇


 その頃、魚拓こと九十九つくも神 唯の部屋では──唯は恐怖に見開いた目で、自分の片腕の肘に生えた小さな腕を眺めていた。

 赤ん坊のようなミニチュアの腕が動くと、腕が生えた方の腕が意思に関係なく、唯の首を絞めはじめた。

「うぐぐっ……ぐぅ、ウケるぅ……あががっ」

 唯の頭の中に千手三昧の「おぽぽぽぽっ」という笑い声が響き渡り、九十九神 唯は容赦なく絞めつけてくる自分の腕に絞殺された。


 罪人現状──擬態、舞姫、牛鬼、魚拓の四名死亡。

 行方不明──機人ジャンヌ。



 とりあえず【完結】

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