第28話・【王ノ牙】と悦楽三昧と幻月鉄馬〔後編〕
鉄馬たちが、銀の王から離れた席に座り料理を注文していると、王ノ牙と店主との会話が自然と聞こえてきた。
「この料理を作ったのは、店の主人であるお主か?」
「左様でございます」
「うむっ、なかなかの味であった……
「ありがとうございます」
「褒美をやろう……余の前で立派に死んでみせよ」
「へっ? 今なんと」
「聞こえなかったのか、華やかに死んでみよと言ったのだ……首を回してジョイントを外して首を引き抜くだけでよい……早く自決せぬか、死なねば余が手伝ってやろう、礼には及ばん」
顔面蒼白で後退りする店主。
「ひいぃぃぃぃ⁉」
王ノ牙の傍らに立つ無表情なイケメンが、王ノ牙になにやら小声で耳打ち進言する。
「ふむっ『溺愛三昧』の言う通りじゃな……ここで死なすよりは、余の専属奴隷料理人にして生涯、余のためにだけに料理を作らせた方が得策じゃな」
安堵している主人に王ノ牙が言った。
「いつの日か、余の専属奴隷料理人にするために迎えに来る。その時を楽しみに待っておるがよいぞ」
王ノ牙と店主とのメチャクチャな会話が進行している間に、鉄馬たちのテーブルに料理が運ばれてきた。
大皿に盛られた骨付き肉が擬態のメイド姫の前に置かれ。
鉄馬の前には、味噌汁つきの異世界マンモスの肉盛り丼が運ばれてきた。
機人ジャンヌは、食事を必要としないので何も注文していない。
「お腹空いたニャ……たっぷりタンパク質を摂取するニャ。くっ、殺せ」
鉄馬がマンモスの肉を頬張っていると、王ノ牙が近づいてきて言った。
「おまえたちが十四人の罪人か……苦しゅうない近うよれ、王の前であるが頭を上げよ」
「いや、最初から近づいていないし。頭下げていないけれど」
「王に口ごたえするとは、よい度胸の面白いヤツじゃ気に入ったぞよ、よいよい……今日はお主らと争う気は毛頭ない。ある人物を探さないとならないのでな……お主、奇ノ骨というものを知っておるか?」
「会ったことはあるが、どこにいるかは知らない」
「どのような姿をしておるのだ?」
鉄馬は王ノ牙に、影魔 ルリカの容姿を伝えた。
奇の骨の容姿を聞いた王ノ牙は、満足そうに銀色の顔を輝かせる。
「ますます、奇ノ骨とやらに会ってみたくなった……お主、名をなんと申す」
「幻月 鉄馬だけれど」
「鉄馬か……教えてもらった礼に褒美をとらす、ヘソの穴に指を突っ込んで内側から体を裏返にしてみせよ」
怪訝な表情をする鉄馬。
「…………はぁ?」
「遠慮するでない、余に裏返った鉄馬を見せてみせよ……グイッとヘソの穴の奥に指を突っ込めば造作もないコトであろう……苦しゅうない」
鉄馬がどう反応していいのか困惑していると、また溺愛三昧が王に耳打ちをした。
溺愛の言葉を聞いて驚く王。
「なんと、この世界の住人はヘソの穴から体を裏返すコトはできぬのか……つまらぬのぅ、溺愛三昧。奇ノ骨を探しに店を出るぞよ……鉄馬、お主らが戦うであろう。ジンジュー、異ノ牙、影ノ牙は町の外れにおる。お主らが来なければジンジューを進撃させて、町を壊滅させるつもりだぞよ……はははっ」
そう言うと、王ノ牙は店内に向かって銀色の光りを全身から放ち、店内にいた鉄馬たちを除く者たちの目を一時的に眩ませて、笑いながら去って行った。
メイド姫姿の擬態が咄嗟に、鉄馬の前に立って閃光を背中で遮光してくれたので、鉄馬の目は眩まないで済んだ。
ジャンヌは遮光のサンバイザーで、閃光から目を守った。
店内で両目を押さえて苦しんでいる、者たちの姿を見ながら鉄馬が言った。
「王ノ牙……得体が知らない王サマだ、ヘソの穴に指を突っ込んで体を裏返すなんて、できるワケないだろう」
「ニャ? 鉄馬はできニャいのか? オレならできるニャ……くっ、殺せ」
そう言うと、擬態はいきなりメイド姫のヘソの穴に指を突っ込んで、体を裏返しはじめた。
「ほら、半分裏返ったニャ……元々、裏も表もないニャ」
鉄馬は擬態のエグい光景に悲鳴を発した。
「うぁぁぁぁぁ!」
◇◇◇◇◇◇
鉄馬たちが中洲の町の外れにある、傾斜地に到着すると。
すでに、ジンジューの崖破壊がはじまっていた。
今回現れたジンジューは、球根から誕生した植物の妖精のような姿をしていた。
植物の球根のような下部に根がクモの脚のように生えて蠢いていて。
球根の上部からは巨人女性のギリギリ見えそうで見えない股関節ラインからの上半身が、花弁と細い葉っぱの中から生えていた。
緑色の髪をした、巨人女性の背中からは、多数の蔓に肉食恐竜のような口が葉のように連なってついている。
巨人女性の乳房は大きめの葉で包み隠されている、頭には植物の
植物型のジンジューから少し離れた位置に、岩の上に座った石像のような異ノ牙と、強化された影ノ牙が立っている。
ジンジューを見て鉄馬が呟く。
「なんか、エロ可愛いジンジューだな……倒すのが可哀想になってくる」
「それが、妖星ディストーション帝国の手ニャ……鉄馬のような優しい男を油断させるための、誰がジンジューの相手をするニャ? どうせ、オカドーも地面から湧いてくるニャ」
「ピピピ……わたしが、ジンジューと戦おう、あの手の巨大生物の相手は慣れている……鉄馬と擬態は牙幹部を頼む」
「了解」
それぞれの相手に向かって散る、鉄馬たち罪人──メイド姫姿の擬態アストロンは異ノ牙へと、鉄馬は影ノ牙へと向かう。
ワラワラと地面から湧いてくる、クズのオカドー。
「ア──ッ、ア──ッ」
「帰リタイナァ」
「オマエハ馬鹿カ」
「ギィィ、ヒギィィ」
ヘルメットをかぶったまま、片腕を磁気を帯びた鉄拳ペンダントと融合させて、腕を金属鉄拳に変化させた鉄馬がオカドーを殴りながら叫ぶ。
「死ね! オカドー!」
陥没するオカドーの顔面や体、磁気を帯びた鉄拳に吸い寄せられるように自分の方から殴られにいっているオカドーに打撃力が増した鉄拳が炸裂する。
後頭部から一つ目の眼球が飛び出すオカドー。
裂けた胴体から、ミニオカドーを撒き散らすオカドー。
周囲にオカドー豚舎の臭いが漂う。
鉄馬の鉄拳からミストが吹き出して、オカドーの血肉を洗い流す。
「罪人の宝珠も、クズノ牙の臭いは嫌いらしいな」
擬態は、電磁気力〔ローレンツ力〕で浮上させた小石を指で弾き飛ばして、小石の弾丸をオカドーの頭や体を貫通させている。
「ギィギィ……モウ、イヤダ」
「帰リタイヨゥ」
小石の弾丸で、破裂するオカドー。
「頭ガ痛イヨゥ」
「脳ミソ、ポポーン」
異ノ牙にも、数発の小石が命中したが、まったくダメージが無かった。
擬態に向かって歩み続けながら、異ノ牙が言った。
「効かんなぁ」
機人ジャンヌは、ホバーボードに乗って飛行しながら、ジンジューの蔓牙攻撃を避けて、レーザー日本刀で恐竜の口のような食肉植物を切断した。
鉄馬と影ノ牙が、拳で激突する、飛散る火花。悪目に仮面をかぶせられた姉が仮面の下から涙を流しながら呟く声が聞こえた。
「家族……あたしの家族はどこに行ってしまったの?」
上半身がねじれるように回転して、弟の小太刀と父親の棍棒が鉄馬を襲う。
「お姉ちゃん……ルリカ……寂しいよう……暗いよぅ」
「家族……わたしの家族はどこだ? どこに行った? 守りたい……家族を守りたい」
互いの存在を認識できないまま、家族を守りたい気持ちを悪目に利用されて、戦わされている悲しき家族に、鉄馬は本気を出して戦うコトができなかった。
ホバーボードで空中を飛び回りながら、手からビームを放ってジンジューを攻撃しているジャンヌが、上空から鉄馬に言った。
「ピピピ……鉄馬、本気を出さないと、影ノ牙にやられるぞ」
「そんなコトはわかっている、でも……」
鉄馬の動きが止まった、その一瞬の隙を武闘一家の影魔は本能的に見逃さなかった。
影ノ牙に正面から組みつかれた鉄馬のかぶっていた、ヘルメットが地面に落ちる。
影ノ牙は、そのままロケットブースターを点火させて、空高く鉄馬を連れ去った。
「うわぁぁぁぁぁっ」
「ピピピ……鉄馬!」
鉄馬と影ノ牙の姿は雲の中へと消えていった。
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