第24話・朔夜姫の想い出

 食堂の外に出た鉄馬たちは、イガグリ坊主頭で一つ目のオカドーを殺しまくった。

「オカドーは化け物、生きる資格なし!」


 ケモノ化した血獣が、血小板を大量に含んだ血液をオカドーに浴びせ、凝固させたオカドーを白血球の貪食能力で溶解させる。


 超高速移動した牛鬼が、オカドーの首や手足を引きちぎる。


 竜剣が刃物状のウロコをオカドーに向かって飛ばしたり、剣で斬り裂く。


 鉄馬は扇風機ファンアームと、イヤホンをヘッドフォンスピーカー型に変化させた、スピーカーアームの風と音でオカドーを粉砕する。

「死ね! オカドー!」

 竜巻で空高く巻き上げられたオカドーの体が、竜巻渦の真空で切裂かれて、肉塊が次々と落下してきた。

「ギィギィ……モウ、イヤダ」

「帰リタイヨゥ」

 音撃を受けて破裂するオカドー。

「頭ガ痛イヨゥ」

「脳ミソ、ポポーン」


 数分で道全体に、海オカドーの死骸が散乱する。

 悪臭が拡散する中、建物の瓦屋根に座っていた屍ノ牙『骸崎乱子』の声が聞こえてきた。

「ひっひっひっ、やっぱり死んだオカドーは臭いねぇ、ここまで臭ってくるよ……殺して、あたしを殺してぇ……ひっひっひっ」

 屋根を見上げて、怒鳴る鉄馬。

「骸崎乱子!」

「おっと、今日は一戦はナシだよ……こちらにも、色々と都合があるからね。心配しなくてもいい、朔夜姫の想い出メモリーはまだ無事だから……ひっひっ、今日はカイジンとここで待ち合わせだ……おっと、噂をすれば。殺して、あたしを殺して!」


 瓦屋根を歩いて、一匹のカイジンが現れた。

 深編笠をかぶった、半身が武士、半身が等身で直立した黒ネコのカイジンだった。

 半身ネコのカイジンが、乱子に向って一礼していった。

「少し遅れてしまったでござるか?」

「ひっひっ……アタイも今来たところだよ。カイジン『ネコマ・ライト』……殺して! あたしを殺して!」

「殺すのでござるか⁉」

 カイジン『ネコマ・ライト』が和刀を引き抜く。


 それを見て、慌てて飛び下がる乱子。

「ちがう、ちがう、これはアタイの半身の。うわ言みたいなものだから……聞き流せ。それより片割れの『ネコマ・レフト』は、どこにいる?」

「向かい側の、家の屋根で寝ているでござる」

 ライトが示した向かい側の瓦屋根の上には、半身が反転した『ネコマ・レフト』が、ネコのように丸くなって眠っていた。

「ひっひっひっ、凶暴なネコマ・レフトを扱えるのはライトの、あんただけなんだから頼むよ」

「御意」


 乱子が下から見上げている、鉄馬たち罪人を指差して言った。

「あいつらの顔をよく覚えておけ、明日戦う相手だ……ひっひっ」

「承知した、始末すればよいのでござるな」

 鉄馬は深編笠の奥から覗く、武士の眼光に威圧されて動くコトができなかった。


 乱子が鉄馬たちに言った。

「それじゃあ、明日の早朝……朝日がグリーフラッシュの閃光を放つ時刻に、それ以外の時間に遺跡に入っても意味ないよ……殺して、あたしを殺して!」

「殺すのでござるか?」

 和刀を抜くネコマ・ライト。

「ち、ちがう! アタイじゃない! ひぃぃ」

 瓦屋根の向こう側に消える、乱子とネコマ・ライト、指笛が聞こえると寝ていたネコマ・レフトが目覚め、ネコ伸びで体をほぐしてから瓦屋根の向う側に姿を消した。


 屍ノ牙とカイジンが居なくなると、食堂の中から出てきた店の女給娘が道に散乱するオカドーの死骸を見て、手ぬぐいで口もとを押さえながら言った。

「オカドーを退治していただきありがとうございます……数日前から毎日、やって来て困っていたんです……オカドーは客じゃなかったんですね」

 口にくわえていた、長い爪楊枝をオカドーの死骸に向かって、吹き刺した竜剣が言った。


「オカドーは、トゲがある枝に目玉を抜いた魚の頭を刺しておけば来ない……それでも建物の中に入って来たら、容赦なく殺せ! オカドーは害虫と同じだ」


 牛鬼と血獣が、道具を使ってオカドーの死骸を片付けているのを見た竜剣と鉄馬も無言で、オカドーの死体を片付けてはじめた。


  ◇◇◇◇◇◇


 その夜──食堂と兼用している宿屋の部屋に、鉄馬が一人でいると。

 血獣が皿に盛られた、煮た肉を持って現れた。

「ちょっと、この肉をポジティブに口に含んでみてくれ……呑み込まなくていいから」

 鉄馬は腐肉のような色をしている、謎肉に鼻先を近づけて顔をしかめた。

「なんだ、この肉……臭すぎだろう」

 箸を肉に突き刺して鉄馬が言った。

「肉質も硬そうだし……なんの肉なんだ? 食べる前に教えてくれ」

「十分に臭みを抜いたつもりだったが……海オカドーの肉だ」

「うげぇぇぇ」

 鉄馬は、食べる前に吐く。

 血獣もオカドーをゴミ箱に捨てる。

「やっぱり、オカドーの肉は煮ても焼いても食べられないか……ポジティブに考えて食べなくてラッキーだった」


 鉄馬と血獣が、オカドーの臭い肉で騒いでいると、口に長い楊枝をくわえた竜剣が部屋に入って来た。

 どうやら竜剣は、この長さの爪楊枝が気に入ったようだ。

 竜剣が言った。

「ずいぶんとにぎやかだな、月華岬に偵察に行った牛鬼はまだ、もどって来ないのか?」

 鉄馬が答える。

「まだ帰ってきては、いないけれど……なぁ、竜剣。わざわざ朝になるのを待たなくても、夜のうちに月華岬に先回りして、ディストーション帝国の先手を打った方が良くないか?」

「鉄馬なら、やっぱりそう考えるか。そう簡単にはいかない理由があるんだよ」

「どんな理由が?」


 鉄馬が竜剣に質問した時、部屋の中に風が吹き抜けて。

 突然、牛鬼が現れた。

刮目かつもくせよ、牛鬼の動きと回答を……その説明は、オレがしよう。月華岬には、すでにディストーション帝国の連中がいた」

 牛鬼の話しだと、海から上陸してきた海オカドーたちが、浜で火を囲んで車座に座っていたらしい。


「オレが岩陰から見ていたら、海から上半身が美形青年の裸体で、腰から下が黒いウナギの胴体みたいな巨大生物が現れた……腰から出ている数本の蛇腹チューブがウナギの体につながっていた……カイジューサイズの生物だったが、ありゃカイジューでもカイジンでもない新種の生物だな」

 そのエロっぽい、上半身男性裸体の巨大生物は月華岬の入り口をふさいでいた巨石を、取り除いていたらしい。


 牛鬼の話しは続く。

「取り除いた岩は、絶妙なバランスで積まれていた……さらにオレが見ていると、黄金色に輝くディストーション帝国の小型宇宙船が洞窟の中に入っていって……しばらくしたら洞窟の中から『空木悪目』が出てきたから宿にもどるついでに、超高速で空木悪目の首をへし折って……」

「ち、ちょっと待て! 今、最後に変なコトを言ったぞ! 空木悪目を殺したのか?」


 牛鬼は人差し指を立てると、いつものようにクイズを鉄馬に出してきた。

「ここでクイズだ……オレが首をへし折った空木悪目は、一番・へし折ったはずの首がすぐに再生して生き返った。

二番・生き返った悪目は笑いながら『仲間のところに帰って伝えろ、明日にならないと朔夜姫が隠した想い出の場所はわからないから、我々も動けない』

三番・生き返った悪目に戦慄を覚えたオレは、慌ててその場から逃げ帰ってきた……さあ、答えろ鉄馬、どれが正解だ」

「全部、正解だろう」

「当たりだ、空木悪目は不死身だ……逃げるオレの背に向かって『あの新しい巨大生物はカイジンとカイジューを狂ノ牙が合体させた【ジンジュー】よく覚えておけ』と言いやがった……オレの報告は以上で終わりだ、疲れたから寝るモチベーション下ったから朝まで起こすな」


 牛鬼が自分の部屋へと消えると、竜剣が言った。

「やっぱり、朔夜姫の想い出を隠した場所がわからない限りは、ディストーション帝国もオレたちも迂闊うかつには動けないか……ムダな労力は戦力を欠く、眠って明日に備えて体を休めろ鉄馬」

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