第22話・影ノ牙『影魔』

 次の日──鉄馬たちは、町の許可を得て銀鉤銀山の入り口にやって来た。

 入り口には、数匹のオカドーがうろついているのが見えた。

 魔槍が言った。

「どこか、別の入り口から。すでに銀山坑道内部に侵入したか……今までオカドーが銀山に近づかなかったのは、誰かの指示が出るのを待っていたか」

 舞姫が会話を続ける。

「それとも、なんらかの準備が整ったから……やっぱり、ディストーション帝国の目的は銀山の略取?」

「そう考えるのが妥当だろう」


 魔槍と舞姫の会話を聞いていた鉄馬は、ディストーション帝国の目的は銀山ではないような気がしていた。

(本当に目的が銀だけなのか? 別の目的があるような気がする……確かに銀山を制圧すれば、月魂国の経済には大きなダメージだけれど)


 魔槍の槍が、炎の円を描く。

「坑道に突入するぞ、舞姫は外に逃げて出てきた、オカドーの始末を頼む」

「了解」

「鉄馬お兄ちゃん、行くぞ!」

 銀山に突入していく魔槍と鉄馬を見送り、手を振りながら舞姫が呟く。

「魔槍も、鉄馬くんのコトを、お兄ちゃんと認めたみたいね」

 三頭の悪食ロック鳥が牛鬼の口癖を真似て。

「くえっ、刮目かつもくせよ、舞姫の踊りをその目に焼きつけよ……くえっ」

 と、鳴いた。


 坑道の中には、貧相な顔立ちをしたイガグリ頭のオカドーが群れていた。

「アーッ、アーッ、ドンナ脳ミソシテイルンダ」

「オマエハ、馬鹿……カ」

 魔槍の炎をまとった槍が、化け物を突き刺してオカドーが燃え上がる。

「ヤメテェ」

「モウ、コナイデェ……」

「コンナ性格ダカラ、俺ハ、ヒネクレルンダ……ア──ッ、ア──ッ」

 相変わらず意味不明な言葉を発するオカドー。

 魔槍の槍が容赦なくオカドーを貫き斬り刻む。

「オカドーは、胸くそ悪い死ね!」


 鉄馬も、洗濯バサミアームとサバイバルナイフ・アームで、オカドーの頭を挟んで潰したり、巨大化したナイフで頭を刺し貫いてオカドーを殺す。

「死ね! 頭がおかしいオカドー!」


「頭ガ痛イヨゥ」

「グギィ、グギィ」

 坑道から外に逃げてきたオカドーを待ち構えていた、ロック鳥が踏み潰す。 

 踊りはじめる舞姫。

「『笑いの舞』……笑い死ねオカドー」

 オカドーの笑い声が響く。

「グギィグギィ、グギィグギィ、グギィグギィ、グギィグギィ……モウ、ヤメテェ」

 腹を押さえて笑いながら、地面を転がり回るオカドーを踏み潰す悪食ロック鳥。

 舞姫が言った。

「ロックちゃん、クズのオカドーを喰ってよーし」

 悪食の三頭ロック鳥は、オカドーをついばんで食べていく。

 イガグリ頭が割れてミニチュアサイズのオカドーがこぼれた。

 悪食ロック鳥に、捕食されなかったオカドーは、そのまま笑い死をしていった。


 坑道の中で、オカドーを殺戮さつりくしている魔槍と鉄馬の耳に、坑道の奥の方から屍ノ牙『骸崎むくろざき乱子』の声が聞こえてきた。


「ひひひっ、おいでおいで、遊んであげるよ……鉄馬のお兄さん……殺して、あたしを殺して!」

 魔槍が鉄馬に言った。

「鉄馬、行け! ここは、わたしが食い止める」

「一人で大丈夫か?」

「わたしを誰だと思う、魔槍ランス・ロッドだぞ……いいから、行け!」 

 鉄馬がいなくなると、ランス・ロッドはオカドーたちに取り囲まれた。

 苦笑するランス・ロッド。

「少しばかり、先輩罪人としての威厳も、後輩に示さないとな」


 ランス・ロッドの後方から、鋭い爪で近づくオカドー……ランス・ロッドが呟く。

「残念だが、わたしに後方の死角はない」

 ランス・ロッドの後頭部の髪が左右に分かれ、女の顔が現れた。

 同時に、ランス・ロッドの手足の関節がベキッベキッと後方へと向きを変える。

 ランス・ロッドが後頭部の女の顔で一回転して、魔槍ダーム・ヴェルトで炎の円周を描くと、取り囲んでいたオカドーたちが燃え上がった。


  ◇◇◇◇◇◇


 鉄馬は坑道の広い場所に立つ、半分ゾンビ娘の屍ノ牙を見た。

「ひひひっ、またアタイと遊んでくれるのかい……お兄さんの相手は、新カイジン『モモガテ』……殺して! あたしを殺して!」


 脇の分かれた坑道の暗闇から、不気味なカイジンが現れた。

 古代ローマか古代ギリシャの戦士のような格好をした男の上半身と下半身が寸断されて、それぞれに等身サイズのムカデがくっついていた。


 盾と剣を持った、上半身が人間、下半身がムカデの『モモガテ1号』


 トゲハサミの機械アームが移植されたムカデの半身が、人間の下半身にくっついた『モモガテ2号』

 二体のモモガテが、鉄馬に襲いかかる。


 悩んだ鉄馬は、片腕だけをサバイバルナイフアームに変える。

 アイスピックアームや、乾電池アームの選択肢もあったが、鉄馬には元が人間のカイジンに、本気を出すコトをためらいはじめていた。


 そんな鉄馬に、カイジン『モモガテ』は容赦なく攻撃してくる。

「偉大な帝国に我が命を捧げる……わたしは、わたしは」

「ギチッギチッギチッ」

 二体と一人の闘い、次第に劣勢になる鉄馬。

 2号に地面に押し倒された鉄馬に、内側にトゲが付いた機械のハサミと、ムカデの牙が迫る。

(ここまでか)


 鉄馬が諦めかけた時──飛んできた火の玉がモモガテ2号を弾き飛ばす、直後に魔槍の声。

「罪人なら、簡単に諦めるな! 闘え!」

 走ってきたランス・ロッドが、モモガテ1号と刃を交える。

 立ち上がった鉄馬も、残っていた方の腕を乾電池アームに変える。


 1号の剣を交わしたランス・ロッドの炎の魔槍が、縦長の戦盾を貫きそのままモモガテ1号の体に突き刺さる。

「ぐっ……ア・リ・ガ・ト・ウ……槍士の罪人よ」

 燃え上がる、モモガテ1号。


 鉄馬の方も、電撃で怯ませた、モモガテ2号をサバイバルナイフアームで、縦に真っ二つにした。

「ギチィィィィ」


 カイジンを倒した、鉄馬と魔槍の耳にどこからか、屍ノ牙の声が聞こえてきた。

「ひひひっ、遊んでくれてありがとう……お陰で銀脈の中にあった、希少な『レアメタル鉱石』をほじくり出せた、これ一個でディストーション帝国の侵略宇宙船が、数百機造れる……アタイたちの目的は銀山じゃないよ」

 遠ざかっていく骸崎乱子の声が、坑道内に響く。


「遊んでくれたお礼に、一ついいコトを教えてやるよ……急いで銀山の入り口にもどった方がいい【影ノ牙】と【奇ノ骨】が来ている……殺して、あたしを殺して!」


 慌てて銀山の入り口に向かった、鉄馬と魔槍はそこに倒れている舞姫と、悪食ロック鳥の光景を見た。

 驚愕した鉄馬が叫ぶ。

「いったい、何が!」

「静かにしろ、鉄馬……牙を刺激するな……あれが、影ノ牙『影魔』か」

 震えている魔槍の視線の先には、奇怪な人物がいた。


 人間ケンタウルス、影魔ルリカの馬の胴体背に乗った、ピンクに青い虎模様肌で、はかまを穿いた腰から上に三人の人間が合体したような【影ノ牙】『影魔』がいた。

 三人の上半身は薄い肌色のスキンスーツで覆われている。


 二十歳くらいの正面を向いた、拳闘士グロブをした若い娘が呟く。

「お父さん、お母さん、どこにいるの? あたしは家族を守る、弟と妹のルリカを守る」


 側面の小太刀こだちを抜いた、十五歳くらいの男の子が悲しそうな声で呟く。

「寂しいよう、お姉ちゃん、お父さん、お母さん……ルリカ、どこに行っちゃったの? ボクはみんなを守る」


 反対側の側面にいる、格闘用の棍を持った父親らしき年齢の男性が、必死に家族を探している声が聞こえてきた。

「娘よ息子よ、どこにいる? 妻よどこだ……わたしは家族を守る、末っ子のルリカを守る」


 ゾッとする鉄馬。

(近くにいる家族を認識できないのか……空木悪目、なんて残酷なコトをするんだ!)

 背を向けた、影ノ牙のたくましく筋肉が発達した背中の隙間に、女か男が判別できない、片目から顎までの半顔面が埋もれているのが見えた。

(もしかして、あの体に埋もれている仮面顔が、母親なのか?)

 

 影ノ牙は、鉄馬たちには、何もしないで人間ケンタウルスのルリカの背に乗って走り去っていた。

 残された鉄馬は、体が勝手に小刻みに震えてくるのを感じた。

 地面に倒れている舞姫が、譫言うわごとで。

「う~んっ、ロックちゃん。鉄馬くんを食べたらダメ……ペッしなさい」

 と、いう声が聞こえた。


第六章・狙われた銀鉤銀山 【黒貂之裘】~おわり~

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