第17話・金鏡村に来た最後の罪人

 鉄馬が宿にもどると、残っている馬竜はアーサーだけだった。

「擬態、帰ったのか」

 鉄馬が、宿に入ろうとしたその時──背後から声をかけられた。

「君、この近くで魚が釣れそうな池を知らないかい?」

 振り返った鉄馬は、そこにいた一メートルほどの、奇妙な生き物を見て固まる。


 フィッシングキャプをかぶってフィッシングベストを着た、グレイ型宇宙人が釣竿を持って立っていた。

 宇宙人の顔には、なぜか歌舞伎メイクがされていた。

 歌舞伎メイク顔の小人宇宙人が、鉄馬の手の甲にある罪人の宝珠を見て言った。


「仲間か……ボクも十四人の罪人の一人だよ、ほらっ」

 帽子を脱いだ歌舞伎メイク宇宙人の頭頂に、罪人の宝珠があった。

「ボクの名前は【仮想】……十四人の罪人の一人、君の名前は?」

「鉄馬」

「【鉄馬】なら知っているかな? このゲームの出口がどこなのか……ずっと探しているけれど、ログアウトできないんだ」


 仮想も鉄馬と同じ宿にチェックインした、鉄馬の隣の部屋に入った仮想は、わざわざ鉄馬の部屋にやってきて、いろいろと話した。

「今回のイベントは、この金鏡村にある池で、黄金の魚を釣り上げるコトなんだ……」

 熱く語る仮想。鉄馬はどこか現実離れをした口調だと感じていた。


 仮想が鉄馬に奇妙なコトを聞く。

「その姿が、このメタバース世界での、鉄馬のアバターなの」

「アバター? いや、オレは……」

 アバターじゃないと、言おうとしていた鉄馬の頭の中に、脳医の声が聞こえてきた。


《仮想とは、話しを合わせてやってくれ……彼は月魂国がゲームの世界だと思い込んでいる》


 仮想と話しを合わせる鉄馬。

「そうだ、これがオレのアバターだ」

「へえっ、すごいね……そうだ、これあげる」

 仮想と鉄馬の間の空間に『消しゴム』が出現した。

「ゲームの中で拾ったけれど、ボクには使えなかったから……受け取って鉄馬」

 鉄馬は、消しゴムをゲットした。

 楽しそうにしゃべる仮想を見ながら、鉄馬は頭の中で十四人の罪人を整理する。


【竜剣】

【魔槍】

【魔呪】

【血獣】

【機人】

【提督】

【擬態】

【魚拓】

【舞姫】

【巨神】

【牛鬼】

【脳医】

【仮想】

 そして【鉄馬】の、一癖も二癖もありそうな十四人の仲間たち。

 鉄馬は、ディストーション帝国に連れ去られた妹のコトを考える。

(灯花、どこにいるんだ)


 鉄馬に話し疲れた仮想が言った。

「明日、宿の主人に聞いて黄金の魚がいそうな池に行こう……鉄馬も手伝って」


  ◇◇◇◇◇◇


 翌朝──鉄馬と仮想は宿屋の主人から聞いた、たびたび黄金の怪魚が目撃される池へと向かった。

 並んで歩く鉄馬に、仮想は親しげに話しかけてきた。

「ボクは家の部屋に、ずっと閉じこもってゲームばかりしていた……ボクがいた世界では、メタバース内での生活は、ごく当たり前なコトで希望すれば頭の中に、裸眼でもVRゴーグルで見ているような感覚になれるんだ……ボクも希望して手術を受けて、充実したメタバース生活をしていたんだけれど」


 仮想の話しだと……ある日に、ログアウトしないでゲーム途中に寝入ってしまって……目覚めたら、この別のゲーム世界にいつの間にか移行していたらしい、

 仮想がゲーム世界だと信じている異世界の、月魂国に。


 歩いていると、やがて前方に黄金の魚がいる池が見えてきた。

 仮想が言った。

「あの池にいる黄金の魚を捕獲すれば、このステージはクリヤー……!?」

 仮想の足が止まる。

 池の近くで黄金の魚を生食している、オカドーたちの姿が視界に飛び込んできた。


 それを見た瞬間、ブチキレる仮想。

「オカドー! てめぇ、何してやがる!」

 釣竿を道に放り投げて、跳躍した仮想は一番近くにいたオカドーの後頭部をつかむと、オカドーの顔面を地面に押しつけて疾走した。


「オカドー! 死ね! 死ね! 死ねぇ!」

 地面に赤い血の帯が続く、顔側面の半分を地面と擦れて失って死亡したオカドーの死体を、遠くの草むらに放り投げた仮想は、別のオカドーの眼球を手刀で突き破って殺す。


「よくもボクのゲームを邪魔したな! オカドー!」

 軽く指で弾いた衝撃で吹っ飛んだオカドーの体が空中で爆発飛散する。

「グッギィィ」

「ナンダヨゥ」

「コンナ性格ダカラ、俺ハ、ヒネクレルンダ……ア──ッア──ッ」

 すべてのオカドーを倒しても、仮想の怒りは止まらない。


「うおぉぉぉぉ! すべて消しとべ!」

 仮想の体が光りを発して、膨らみはじめたのを見た鉄馬は直感的に、これはヤバいと感じた。

「落ち着け! 仮想! 黄金の魚はまた見つければいいから……気持ちを鎮めろ、深呼吸しろ」

 鉄馬の言葉に、呼吸を整えて落ち着いた仮想が、その場に膝抱え座りで落ち込む。

「また、やっちゃった……鉄馬、ボクもうダメだ」


 鉄馬は、擬態の言葉を思い出す。

『最強の罪人だけれど、メンタルは最弱の豆腐メンタルの罪人ニャ』

(これは確かに、誰かがフォローしてやらないとダメだな)

 仮想を励ます鉄馬。

「大丈夫だ、仮想は強い……悪いのはゲームを邪魔したオカドーだ、先へゲームを進めればいいコトが待っているって」

「本当? うん、そうだね……ボク、頑張る」


 立ち上がったオカドーが明るく笑う。

「ボクの最終技は、自分の体を爆発させて敵を倒す技なんだ……ボクの体は、すぐに再生するけれど。周囲数キロがキノコ雲級の爆発力で吹っ飛ぶ……危なく、この金鏡村を跡形もなく吹っ飛ばすところだった」

 鉄馬は(うわぁ、こいつ危ねぇ)と、思った。


 道に放り投げた釣竿を拾い上げた仮想は、釣竿をボールペンくらいの長さに縮めると、耳の穴がある位置に押し込んで収納して鉄馬に言った。


「それじゃあ、ボク行くから……別の場所で黄金の魚を釣るために」

「一緒に居てくれないのか?」

「鉄馬とは、また会えるよ……脳医からの通信で、近いうちに二名の罪人が、月桂城から来るって……それまで、一人でオカドーと闘っていて。これは、鉄馬が成長するための試練だよ」

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