第18話・復活カイジン『強化型ササガニ』
仮想が去ってから数日間──鉄馬は一人で畑に近づく、オカドーを追い払ったり駆除をしていた。
「また、来やがったなオカドー!」
電気柵には横に連なった、学習能力が無い黒焦げのオカドーが並ぶ。
鉄馬は片方の手を乾電池に、もう片方の手を消しゴムに変えて、オカドーを倒す。
鉄馬は今まで入手した、融合可能なアイテムを頭の中で整理する。
カッター
電子ライター
乾電池
拳銃〔弾丸なし〕
消しゴム
(まだ、足りない……カッターなんて、刃が大きく折れたら使えない……何か刃物系が他にも)
そう考えながら、鉄馬は地面に踏み倒したオカドーの体を、消しゴムでゴシゴシ消していった。
畑からオカドーを追っ払った鉄馬は、切り株に座ると竹筒水筒の水を飲み、宿の人が作ってくれた竹編みの弁当箱を開けて、オニギリにかぶりつく。
「異世界にも、米みたいな穀類のオニギリがあったのは驚きだな……中の具は少し変わっているけれど」
オニギリは白米ではなく、黒米や紫米や赤米だった。
食事の終わった鉄馬は、立ち上がると木々の後ろからこちらの様子を、うかがっているオカドーを睨みつける。
「本当にオカドーは、しつこいな……動物を追い払う、音が出る何かを吊るすか? オカドーの頭蓋骨で鈴でも作るとか……あれ? オカドーが左右に道を開けるような行動を? 森の奥から何か来る!?」
近づいてくる、不気味な笑い声。
「ひひひっ、お兄さん久しぶりだねぇ……また、アタイと遊んでくれるの? 殺して! あたしを殺して」
半身が醜いゾンビ化した半分ゾンビ娘の、屍の牙がヘソ穴に柄から伸びるコードを差した刀を手に現れた。
屍の牙が言った。
「お兄さんの相手は『強化型ササガニ』と、オカドーだよ……ひひひっ」
殺気を感じて頭上を仰ぎ見た鉄馬は、いつの間にか張られていたクモの巣から、急降下してくるカイジン『ササガニ』を見た。
咄嗟に避ける鉄馬。
着地したササガニは、鉄馬が立っていた位置に、片腕のカマ状の腕のカマを突き刺す。
半分、人間の女性。半分、等身の大グモ。
(違う! 前に倒したササガニとどこか違う! そうか、左右がこの前のササガニとは逆だ!)
片腕を金属製のカマに変えられた強化型ササガニの、体にフィットした銀色のスキンスーツ服の女性側が涙を流しながら言った。
「お願い……醜い、あたしを殺してください……ギィギィ」
改造されたカマの腕を振り回して鉄馬に襲いかかるカイジン。
半分ゾンビ娘が、刀を横に振って、近くにいたオカドー一匹の首を切り落として、オカドーたちに命令する。
「ひひひっ、オカドーは使い捨てのザコ、いくら死んでも構わない……行けオカドー!」
鉄馬がササガニに、攻撃できないのを見たオカドーたちが、調子に乗って鉄馬に襲いかかる。
「ギィギィ……ドンナ脳ミソシテイルンダァ」
「オマエハ、馬鹿……カ」
拳銃と腕を融合させた鉄馬は、
だが、次々と押し寄せるオカドーに鉄馬は劣勢に変わってきた。
「ちくしょう! オカドー増えるな!」
多勢に一人で苦戦する鉄馬──鉄馬の体がオカドーで埋もれる。
鉄馬の脳裏に、自分の世界でオカドーに変えられた仲間の姿が甦る。
(ぐっ、しまった……オレもバカなオカドーに変えられ……あれっ? オカドーにならない?)
頭の中に脳医の声が聞こえた。
《鉄馬の体には、すでに免疫抗体ができているからオカドーにはならない……もう少し、耐えれば助っ人の罪人が二名、そこに到着する》
包まれたオカドーを弾き飛ばす鉄馬。
(オカドーにならないのはわかったけれど……助っ人の罪人って誰と誰だ?)
その時、突然、オカドーの数体が破裂した。
直後、聞き覚えがある声。
「鉄馬、無事だったか……助けに来たり、来なかったり」
「オカドーと、カイジンと、ディストーション帝国の屍の牙までいる……ウケるぅ」
魔呪と魚拓だった。
魔呪の近くには等身の皮人形が立っていて、木の杭が数本突き刺さっていた。
魚拓の近くには、大きな和紙が、枠組みの中に貼られて立てられている。
「魔導術と呪い術の融合した魔呪で、オカドーが破裂したり、しなかったり」
魔呪が呪文を唱えると、空中に浮かんだ木製の杭が呪い人形に突き刺さる。同時に数体のオカドーが破裂する。
魚拓が抱えた巨大な筆をオカドーに向かって振ると、墨汁がオカドーに向かって飛び、筆を和紙に向かって引くような仕草をすると。
真っ黒くなったオカドーが次々と、魚拓のように和紙に貼りついて黒い染みへと変わる。
「オカドーの魚拓、ウケるぅ」
強化型ササガニが、鉄馬に襲いかかり鉄馬のカッターアームの刃をカマで叩き割った。
武器を失った鉄馬に、魔呪が何か尖ったモノを放り投げて言った。
「鉄馬これを! 鉄馬が使ったり、使わなかったり」
受け取った物体は『アイスピック』だった、鉄馬の片腕がカッターに代わって、アイスピックと融合する。
鋭い
霧の中で白く凍結していく、カイジン『強化型ササガニ』……半身の女顔から安堵の笑みが浮かぶ。
「ありが……とう……やっと苦しみから解放された……ギィギィ」
砕けたササガニの破片が、青白い炎を出して燃えた。
カイジンを倒された、屍の牙は後方に飛び下がる。
「ひひひっ、遊んでくれてありがとう……お兄さん、今宵は皆既月食……楽しみだね。殺して! あたしを殺して!」
惨殺されたオカドーの死体と、まだ青白い炎を出して燃えているカイジンの死体を残して。
半分ゾンビ娘は姿を森の中に消した。
魔呪は、亡くなったカイジンに弔いの呪文を唱えてから。
オカドーの死体を足で蹴った。
「ブタ臭が漂うオカドーの死体は、農作物の肥料になったり、ならなかったり……ううっ、オカドーは臭い」
◇◇◇◇◇◇
宿に魔呪と魚拓と一緒にもどった鉄馬は、魚拓からライダー用のウェストポーチを渡された。
「前に東方地域から月魂国に興業で訪れた、踊り子の一団の一人からもらった、
鉄馬は、魚拓からプレゼントされたウェストポーチに、今までゲットしたアイテムを入れるコトにした。
鉄馬は、顔のネジをドライバーで緩めたり、締めたりして遊んでいる魔呪に、ずいぶんと遅れて金鏡村に到着した理由を質問してみた。
「途中で金鏡村に進行しているカイジューと遭遇して、カイジューを足止めするのに時間がかかったり、かからなかったりした」
「カイジューが、この村に近づいているのか……どんなカイジューが?」
魚拓──九十九神唯が、鉄馬の質問に答える。
「たぶん、鉄馬の世界にもいた川坊主のでっかいヤツ……あんなのが、この異世界にもいたなんて、ウケるぅ」
「川坊主って?」
魚拓が、普通サイズの書道筆で和紙に絵を描く。
それは、皿のような丸い目をした、真っ黒な妖怪・海坊主の絵だった。
「オレ、これ知っている……海坊主って名前の妖怪だ」
「鉄馬の世界では、妖怪になっていて。そう呼ぶんだウケるぅ……あたしの世界では、二メートルくらいの体長で。川から頭を出して泳ぐ実在する生き物だった……川坊主が海に出て海坊主になったんだ、ウケるぅ」
さらに、魚拓は和紙にカイジューの全体像を描く。オットセイの前肢と尾ヒレのような後脚の生物だった。
「村に来る前に、こんなのと戦ってきたのか、すごいな」
「カイジューは、たいしたコトがない……問題なのは、カイジューの頭に乗っていた『イカ』だったり、イカじゃなくてディストーション帝国の幹部牙だったり」
「イカ?」
「ディストーション帝国【狂の牙】通称『イカ』……アイツは、ヤバすぎてウケるぅ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます