第14話・金鏡村の王妃墳墓

 丸一日バイクを走らせた鉄馬は夕刻、湖にかかる大きな橋を渡り、金鏡村に到着した。

 夕焼けの中に浮かぶ赤い虹を眺める鉄馬は、視線を村の入り口から少し離れた小さな森に向ける。

 森にはディストーション帝国前線基地の宇宙船が三個──まるで虫の卵のように、菌糸で繋がれて重なっていた。

「おぞましい光景だな、村の景観が台無しだ」


 平地の大きな湖の中洲にある金鏡村は、米に似た金色の稲穂植物の作物農地が広がる穏やかな村だった。

 上から見ると五角形をした、金鏡王妃の墳墓は観光名所の一つにもなっていて、村の収入源にもなっている。


 微風の中でヘルメットをしたまま、とりあえず村に入って宿屋でも探そうか……と、考えていた鉄馬から少し離れた空間に赤いシミのような空間が広がり、シミの中から四枚の白い翼を生やした男性天使が出てきた。

 

 翼に黒いシミがジワジワと広がりはじめている神話にでも出てきそうな天使は、鉄馬の存在には気づいていない様子で、大きく伸びをして体をほぐした。

 天使の肩甲骨の間には、罪人の宝珠があった。


「ふぅ……前線基地宇宙船の中にばかりいると、退屈で体がなまっちゃうわね……たまには気分転換で、外に出てストレッチしなきゃ……うふっ」

 柔軟体操をはじめる、お姉系口調の天使。


 天使が体をひねった時、はじめて後方にいた鉄馬の存在に気づく。

「あらぁ、誰もいないと思っていたわ……いたの?」

 さほど驚いた様子もなく、ディストーション帝国の天使は鉄馬の手の甲にある、罪人の宝珠を見て言った。

「あらあら、十四人の罪人さんが来ちゃったわね」

 日没して周囲が暗くなりはじめるのに伴って、天使の翼も黒翼に変わりはじめ、口調も男言葉に変わっていく。

「自己紹介するわね、あたしは妖星ディストーション帝国の闇天使【闇の牙】……幹部級よ、よろしくな、おまえの名前は? オレが名乗ったんだから、そちらも名乗るのが礼儀だろう」

「幻月鉄馬……罪人仲間からは【鉄馬】と呼ばれている」

「そうか、鉄馬、竜剣は元気か? アイツ、相変わらず記憶を次の世代に完全に引き継がせるコトに悩んでいるのか?」

「元気だけれど……記憶を引き継ぐって、どういう意味だ?」


「聞いていないのか? アイツらしいな……竜剣の種族は罪人の記憶を、代々次の世代に引き渡す。祖父から父親、子から孫へと……竜剣は曾祖父が罪人だった時の記憶と役目を引き継いでいる、アイツはずっと、初代罪人の人生を続けて歩んでいるコピー竜だ」

 闇の牙が出てきた赤い空間から、這い出してきた数匹のオカドーを、手の形に変わった闇の牙の黒翼が叩き潰す。

「勝手に出てくるな! オカドー!」

「グェェ」

「モウ、嫌ダ……ア──ッ、ア──ッ」


 闇の牙の竜剣を語る言葉に愕然とする鉄馬、自分の人生ではない、記憶を受け継いだ親の人生をただ歩み続けて死んでいくだけの人生。

 気を取り直して、鉄馬は闇の牙に聞いてみた。


「ディストーション帝国がこの村に来た目的はなんだ、何を企んでいる……朔夜はたいした侵略行為は、していないと言っていたぞ」

「目的は秘密だ、知りたかったら敵に訊ねるより、自分で調べろ……じゃあな、鉄馬……素敵な悪夢を見ろよ」

 そう言い残して、闇の牙は赤いシミが空間の中に入り空間も消えた。

 赤い空間が消える寸前、中から闇天使の声で。

「一言忠告しておく……【脳医】を子供扱いしたら、ブチキレて殺されるぞ」

 そんな言葉が聞こえた。


 ◇◇◇◇◇◇


 翌朝──金鏡村の宿屋の二階部屋の窓を開けて、朝日を浴びながら深呼吸をした鉄馬の目に、森で重なって朝日を反射しているディストーション帝国の前線基地宇宙船が映る。

 森の上に群がるカラスに似た鳥の群が、清々しいはずの朝の大気を禍々しい空気に変貌させている。


「朝の気分が台無しだ」

 村の宿屋の一階は食堂になっていた。

「朝飯でも食べてくるか」

 宿賃と食事代は、すべて月桂城の朔夜姫が、まとめて後払いをしてくれた。


 鉄馬が通りを二階から見ていると、竜と馬が融合したような生き物に乗った、フード付きの外套マントを着た人物がやってきた。

 銃身が長い銃を背負った、その人物は宿の前に鉄馬が停めたバイクをしばらく騎乗した竜馬の上から眺めて呟く。


「ランス・ロッドどのから借りた愛馬竜が方向音痴だから、金鏡村に到着するのに時間がかかった」


 かぶっていたフードを外して、鉄馬が見下ろしている二階の部屋を見上げる。

「闘火!?」

 銃士、闘火は竜馬から降りると、柱に手綱を結んで言った。


「やっと見つけた……宿の食堂で何か食べさせてくれ。我、食事を所望する」


 一階の食堂で鉄馬と闘火は、和食モーニングセットの朝食を注文した。

 二人が出てきた料理を食べていると、厨房の中から容器に入った食べ放題の白米を持ってきた、太った宿屋主人が闘火が背負っている銃を見て言った。

「その銃で、畑の作物を荒らすオカドーを、撃ち殺してくれるのかい?」

「場合によっては」

「期待するよ、オカドーは作物を荒らす害獣だ」


 宿屋の主人がいなくなると、闘火が小声で言った。

「誰が金鏡村に行くか、揉めに揉めた結果。到着が遅れた。

その上、ランス・ロッドどのが愛馬竜の『アーサー』を貸すのを渋った。朔夜姫からの伝言を鉄馬に伝えよう『ディストーション帝国が金鏡村に来た目的がはっきりするまでは、迂闊うかつに動くな』と……」

「わかった、当面は宿屋に連泊して、畑を荒らすオカドー退治だな」


 食後の煎茶をすすっていた闘火が。

「これを、鉄馬に渡すように【魔呪】のクッター・フィどのから、預かってきた」

 闘火はテーブルの上に、ガバメントタイプの拳銃を置いた。


 自分のいた世界にあった銃器を見せられて、驚く鉄馬。

「どこで、こんなモノを?」

「東方地域から来た行商人がくれたそうだ……この兵器に適応した弾丸は無いので、我は使いこなすコトはできない……鉄馬なら、罪人の力で使えるだろうと言っていた」

 そう言って、闘火はお茶をすすった。

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