第四章・おぞましきディストーション帝国の妖星【胆戦心驚】

第12話・ディストーション帝国ウィルス型宇宙船

 次の日──月桂城を抜け出して、バイクで山に向かって疾走する鉄馬の姿があった。

 鉄馬が向かう先は、山向こうにあると朔夜姫が言っていた。ディストーション帝国の宇宙船。

(そこに行けば灯花を救い出せるか、どうかはわからないけれど……考えていても、はじまらない)


 鉄馬はバイクを走らせながら、ディストーション帝国の幹部のコトを考えていた。

 今まで鉄馬が遭遇したり、会話の中で聞いた幹部の牙を頭の中で整理する。


【邪ノ牙】『空木悪目』

しかばねノ牙】『半分ゾンビ娘』

【闇の牙】天使のような姿をした牙。

【影ノ牙】人間が融合したような姿の牙。

 さらに舞姫が、隊商の帰路の途中で出会った【異ノ牙】という幹部もいるらしい。


 鉄馬は、舞姫が朔夜姫に伝えていた新たな異ノ牙の話しを思い返す。

「朔夜ちゃん、帰ってくる途中で黒い石像のような【異ノ牙】という幹部に遭遇したよ……名乗っただけで、襲ってはこなかったけれど」


 思い返しながら鉄馬は、いったい何人幹部がディストーション帝国にはいるんだ……と、思った。

【雑ノ牙】のカイジューと、まだ遭遇したコトがない『カイジン』

 組織カーストの最下位には【くずノ牙】の下等生物オカドーがいる。


 木々が生えていない、曲がりくねった山道を走り、山頂に到着した鉄馬は。谷間に菌糸を張ったウィルスのような巨大なモノがあるのを見た。

「アレが、ディストーション帝国の侵略宇宙船か」

 バイクを山頂に置いて山道を下っていこうとしていた、鉄馬の頭の中に声が響いた。

《一人で行くのかい……自己責任だ、止めはしない》

 周囲を見回しても、中くらいの石が転がってだけで、鉄馬以外に人陰はない。

「空耳か……」


 鉄馬が坂道を自分の足で下り姿が見えなくなると、今まで無かった巨石が山頂に出現した。

 実際には最初から、その場所に巨石はあったのだが、鉄馬の脳が認識していなかっただけだった。

 巨石の後ろから話し声が聞こえてきた。

「今のが十四人の罪人、最後の一人【鉄馬】ですか……後先考えない少し短絡的な性格ですね、昨日は蒸し風呂で朔夜姫の裸を見ていましたし、若さゆえのハプニングですか」

「どうする? オレが新人【鉄馬】のサポートをやるか?」


「お願いします【牛鬼】ワタシは歩幅が小さいから、坂道を下るのに時間がかかるので……ワタシも後から合流します、月桂城にいる【魚拓】の脳に連絡して鉄馬が到着したコトを、朔夜姫に伝えてもらいましょう」


「それじゃあ、先に行っているぞ……刮目かつもくせよ、オカドーども牛鬼の動きをその目に焼きつけよ……脳医、ここでクイズだ『百人の極悪な悪党と、百匹の腐った脳ミソのオカドー』どちらかを殺さなければいけないとしたら、おまえはどっちを殺して、どっちを残す?」

「そんなの、決まっているでしょう……殺すのはこの世に害を成す方ですよ」


 ◇◇◇◇◇◇ 


 坂道を下って鉄馬は宇宙船がある場所に到着した。少し樹木が茂る谷沢のような地形に、トゲを切ったウニかクリを連想させる。

 ウィルス型のスパイクが表面に生えた、不気味な宇宙船が着陸していた。

 菌糸のようなモノが宇宙船を固定していて、周囲の木々は、立ち枯れしていて黒いヘビのようなつる植物が巻きついている。


 開いていた宇宙船の入り口から、鉄馬が中に入ると数匹のオカドーがいた。

「ギィギィ?」

「ドンナ脳ミソシテイルンダ?」

 鉄馬は一か八かで、言ってみた。

「月の牙だ」

 顔を見合わせたオカドーは、通路を開けてそのまま鉄馬の侵入を許す。

 宇宙船の通路を歩きながら鉄馬は呟く。

「やっぱり、オカドーはクズで単細胞だな」


 通路を歩いていくと、通路の壁に円が歪んだ不定形な形の窓があり、鉄馬が覗いてみるとシアター形式に並べた椅子にオカドーたちが座って、壁に映る映像を見てた。

 壁に映し出されている

映像はオカドーの超高速倍速映像で、何を言っているのかわからない。

 その映像を見続けているオカドーたちは、口から唾液を垂らしながら奇声を発する。

「ア──ッ、ア──ッ」

「オマエハ馬鹿……カ」

「モウ、来ナイデ」


 異様な光景だった。

 狂っているオカドーを見て呟く鉄馬。

「いったい何をやっているんだ?」

 鉄馬の疑問に答えるように、女性の声が背後の壁から聞こえてきた──空木悪目の声が。

「オカドーの頭を狂わせているんだ、超高速の映像を見せ続けて」

 驚いて振り返った鉄馬の目に、壁にある不定形な生体モニターに映し出される、悪目の姿があった。


 悪目が言った。

「ようこそ、ディストーション帝国のおぞましい船へ、おまえは十四人の罪人か?」

「幻月鉄馬だ! 妹の灯花はどこにいる!」

 不敵な笑みを浮かべる悪目。

「灯花? あぁ、あの世界から拉致してきた娘か……思い出した、おまえあの世界にいたな。そうか、罪人の宝珠に選ばれたか」

「妹を返せ!」

「妹を見つけたければ、わたしを追ってこい……ある部屋に案内してやる……ふふふっ」

 悪目が映し出される生体モニターがアメーバか粘菌のように形を変えて、壁を移動して鉄馬はそれを追う。


 悪目が映る生体モニターは、ある部屋の扉の隙間をすり抜けて部屋の中に入る。

 鉄馬が扉に近づくと、扉が開き部屋の中に入った鉄馬は、そこに異様な光景を見た。


「なんだ、この部屋は」

 薄暗い部屋の中には、淡い光りに照らされた円筒ドーム形のカプセルが並んでいた。

 まるで、標本室か何かの実験室を連想させる部屋の中に並ぶ液体が満たされたカプセルの中には、同じ顔の人間が入れられていた。

「灯花!?」

 ほぼ裸体に近い格好で両目を閉じてカプセルに浮かぶ、灯花の体には外科的処置を施されたように、部分的にガーゼがあてがわれたり、包帯が巻かれていた。


 額に包帯が巻かれている灯花。

 胸部で交差した包帯で、背中に外科的処置が施されたような灯花。

 尾骨と耳にガーゼがあてられた灯花。

 片目に包帯を巻かれていたり、両腕の指先にまで包帯で包まれている灯花もいた。

 愕然とする鉄馬の耳に悪目の声が聞こえてきた。

「どうだ、わたしの〝スペア体〟コレクションは」

「スペア体だと」

 声だけの悪目が言った。

「さまざまな、別世界に存在する。わたしを拉致してきて、意識を移し換えるスペア体として保存している……場合によっては脳髄ごと移植もする」


 悪目に対する怒りを爆発させる鉄馬。

「拉致してきた娘たちに何をした!」

「角とか尻尾とか、余計なモノが付いていたから切除した……わたしには、翼も第三の目も付いていないからな」

「ふざけるな! 彼女たちにだって、別々の世界で、それぞれの生活や人生があるんだぞ! おまえに、それを勝手に奪う権利があるのか!」

 冷血な口調でしゃべる悪目。

「ふんっ、権利はある……他の世界のあたしは、スペア体としてあたしに利用されるために生まれてくる。

すべての世界において、空木悪目の存在は一人だけ……残念ながら、この部屋におまえが探している妹はいない……あの娘は特別な部屋にいる」


 悪目の笑い声が響く。

「あははは……ついでに、わたしもこの船にはいない。この宇宙船はオカドーを作り出す全線基地の一つに過ぎない。

わたしは別の場所にいる。おまえが見ているスペア体の保管部屋も別の場所にある部屋だ」


 スペア部屋の風景が揺らぎ消えて、代わりに一つ目化け物のオカドーたちが現れた。

 菌糸に包まれた、不気味な卵塊から次々と生まれてくるオカドー。

「ギィギィ……ギィギィ」

 服のポケットを探る鉄馬、月桂城で寝台と壁の隙間に落ちていて無くしたと思っていたカッターと、ガスが空になった使い捨て電子ライターを取り出す。

(頼む、融合してくれ)

 祈る鉄馬、変化はない。

「ちくしょう!」

 迫り来るオカドーの群れ、絶体絶命の鉄馬。

 その時、部屋の入り口の方から男性の声が聞こえてきた。


「よう、新人の罪人……ここでクイズだ『意地を張って下等生物のオカドーになぶり殺されるか、先輩罪人の助けを素直に受け入れるか』おまえなら、どちらを選ぶ」

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