第8話・城塞内の罪人仲間

  ◇◇◇◇◇◇


 血獣と別れた鉄馬と、竜剣は月桂城下をグルッと取り囲む、城壁の上にやって来た。

 幾重にも曲がりくねってジグザグ続く長い階段を、登りきった鉄馬は息を切らしながら、竜剣に文句を言う。

「はぁはぁ……なんて長い階段を作るんだ」

「階段の途中にはちゃんと、休憩所とか売店があっただろう……ここから先は注意しろよ、奇声を発して城壁を飛び越えてくる、危険なオカドーも、たまにいるからな」


 城壁の上は道になっていた。

 竜剣は、城壁の外側面に向かって、手の甲からビームを放っている人物に近づく。

「壁に張りついた狂ったオカドーは、どんな具合だ【機人】ジャンヌ」

 竜剣に質問をされたショートヘアの十八歳前後の、幼い顔立ちをした少女が答える。

「ピピピ……問題ない、想定内だ、オカドーは焼き払って落としている……わたしの脳内に埋め込まれている電子頭脳は、今日もパーフェクトだ……さっき数匹だけ、城下に侵入させてしまったが。それも想定範囲だ」


 少女の首から下は薄い銀青色のメタリックに輝く、メタルヒーローのような装甲で覆われていて。

 時々、ピピピという電子音が体から聞こえている。

 機械のような少女の足下には、空中に浮かぶホバーボードがあり、少女の体は少し地面から浮かんでいる。

 腰にはオプションのように、体にジョイントされた日本刀。

 そして、少女の片目には罪人の証の宝珠が埋め込まれていた。

 竜剣が鉄馬に言った。

「紹介しよう……十四人の罪人の一人【機人】ジャンヌだ。ジャンヌ、鉄馬だ」


「ピピピ……鉄馬よろしく、見ての通り。わたしはサイボーグだ……ピピピ、生体脳内の興奮上昇。

どうやら生身で残る、わたしの生体部分は……君を好きになってしまったようだ、愛している鉄馬」


 いきなりの機人の告白に、どうしたらいいのか困惑する鉄馬。ニヤニヤする竜剣。

「良かったな鉄馬、ジャンヌにホレられて……鉄馬、城壁の壁面を見てみろ」

 鉄馬が言われた通り、壁面を見下ろすと壁にビッシリ、オカドーが重なるように張りついて奇声を発していた。

「オマエハ馬鹿……カ」

「ドンナ脳ミソシテイルンダ」

「ア──ッ、ア──ッ」

 機人がビームをオカドーに向かって放つと、炎に包まれたオカドーが、地面に向かって次々と落下していった。


 竜剣が言った。

「ここは、任せたぞジャンヌ。鉄馬、城壁を守っているもう一人の罪人【提督ていとく】を紹介しよう……ついてこい」

 しばらく、城壁の道を歩いていくと長身でピンク色のメッシュ髪を、背中まで伸ばした。

 将校軍服姿の成人女性が腕組みをして、遠方を眺めながら立っていた。

 女性の片方の足の軍服は、千切れて生足が露出していて外太モモに埋め込まれた罪人の宝珠があった。

 竜剣が将校軍服の成人女性に訊ねる。


「どんな戦況だ? 提督」

 そっけない口調で答える【提督】

「見ればわかるだろう」

 提督が見ている先には、球体の巨大な植物の蔓ようなモノが転がり、つるには、不気味な単眼が花のように付いていた。

 蔓の球体の中からは、オカドーが虫が湧くように隙間から出てきている。


 十四人の罪人の一人、提督が言った。

「今朝から四体目の同タイプ、雑ノ牙『カイジュー』だ……これから、駆逐排除する」


 提督が片手を挙げると、巨大な主砲が付いた、三門砲塔戦艦の艦首部分だけが幻のように出現した。

 提督が挙げていた手を、カイジューに向けて叫ぶ。

「ファイヤー!」

 幻の主砲が火を吹き、発射された幻の砲弾がカイジューに命中して、カイジューが大破する。

「疾風迅雷じんらい、駆逐戦闘機隊、敵を撃破せよ! カイジューは安らかに眠れ……オカドーは銃弾で穴だらけになって、底無し地獄の暗闇を落ち続けろ」


 幻影のプロペラ戦闘機の大軍が、カイジューとカイジューから溢れてきたオカドーを攻撃して壊滅させていく。

 戦闘機の機銃が、オカドーの体を穴だらけの肉片に変えていく。

「ギィギィィ」

「ア──ッ、ア──ッ、モウイヤダァ」


 死骸になった、カイジューに黙祷もくとうした提督が竜剣に訊ねる。

「大きな戦いはまだか? ボクの兵器の御霊たちは戦いたがっている」

「そのうちな、城壁の守りは任せたぞ提督。さあ、鉄馬帰るぞ……提督、新しい十四人の罪人仲間になるかも知れない、鉄馬だよろしく頼む」

 少し冷ややかな目で、鉄馬を眺める提督。

「ふ~ん、おまえがか……こいつは戦力になるのか、竜剣」

「まだ、わからない……実際に罪人の力は見ていないからな」


  ◇◇◇◇◇◇


 その夜──鉄馬はバイクを押して、城壁の大門おおもんのところにやって来た。

 三日月の夜明かりの中、周囲を見回して誰も居ないのを確認しながらやって来たヘルメットをかぶった鉄馬は、大門にある一人分が通れる小さな、くぐり扉の前にバイクを止める。

 大門の近くにある番所の明かりが消えているのを確認した鉄馬は。

 くぐり扉全体を隠すように貼りつけられた、和紙を見た。

 呪文のような文字が、墨字で書かれた和紙を、鉄馬は剥がそうとするが和紙は剥がれなかった。


 ふいに番所の横から少女の声が聞こえてきた。

「その封印紙は、剥がれないよ……朔夜姫さまの霊力が注入されているから……必死に剥がそうとしている、その姿ウケるぅ」


 番所の陰から、十六歳前後の一人の少女が現れた──書道家のような、黒いはかまと、黒い上衣を身につけていて。

 人間の耳とは別に馬のような耳が、少女の頭から生えていて、房の尻尾が揺れている。

 そして、少女の目を引く最大の特徴は、背中に背負った丸めた巨大な和紙と巨大な書道筆だった。

 少女の喉に罪人の宝珠があった。


 書道パフォーマンスでもやりそうな、少女が言った。

「書は心、魚拓も心、ウケるぅ……あたしの名前は『九十九神 唯つくもがみ ゆい』……十四人の罪人の一人、罪人名は【魚拓ぎょたく】……幻月鉄馬、君のコトは魔呪から聞いて知っているよ、ウケるぅ」

 魚拓の唯は、軽い足取りで鉄馬に近づくと、バイクを興味深そうに眺める。

「この乗り物、あたしの世界にもあったよ……ウケるぅ。ねぇ、鉄馬の世界の富士山って中腹に隕石が衝突したクレーターがある?」

「いや、オレがいた世界の富士山は、そんな富士山じゃなかった」

「なーんだ鉄馬のいた世界は、あたしのいた世界とは違う世界か……ウケるぅ。あっ、朔夜姫さま」

「えっ!? 朔夜姫さま?」


 鉄馬が振り返ると、そこにメイド姫を従えた、朔夜姫が立っていた。

 メイド姫が言った。

「朔夜姫さまが、鉄馬さまが鉄の乗り物を押して大門に向かうのを見たので……くっ、殺せ」

「こんな夜に出歩いている朔夜姫さま、ウケるぅ」

 朔夜姫が言った。

「鉄馬さま、月桂城の外に行かれるのですか? わたしも連れていってください」

 メイド姫が、手首から肘までの前腕の筋肉の隙間から、短剣を取り出して構える。

「朔夜姫が城外に出るのなら、あたしも一緒に……くっ、殺せ」

 唯がムリムリというポーズをする。

「あたしの世界にも、鉄馬が乗っているのと同じ乗り物があるけれど……あのスピードに走ってついていくなんてムリ、ウケるぅ」

「残念、くっ殺せ……鉄馬さま、朔夜姫を頼みます……ところで、鉄馬さまはどうして月桂城の外に出たいのですか?」


 メイド姫が、天空の三日月を見上げて言った。

「くっ、殺せ……今宵は三日月、妖星ディストーション帝国の力が弱まる夜とは言え、弱体化したオカドーもウロついています……なぜ? 城塞外に?」

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