◆義妹の奪い合い コロシアムモードで決闘

 つるを伸ばし、遠距離物理攻撃をしてくるマンドラゴラ。

 攻撃速度はそれほど早くなく、余裕で回避できた。


「おぉ、兄様。良い動きです!」

「食後の運動にバッチリだな」



 さきほど入手した『祝福のダガーナイフ』は重すぎるので、初心冒険者用の剣を使用。これは軽いけど、攻撃力がたった30と低い。


 ダガーナイフがいかにレアな武器か分かる。


 まあいい、レベルアップして直ぐに装備できるようなってみせるさ。



 俺は迫りくる蔓を回避しながら、マンドラゴラに斬撃を何度も加えた。



『――――キィィ!』



 断末魔をあげるマンドラゴラは、塵となって消えた。



 【EXP:140】

 【BELL:10】



 前のゴブリンに比べれば雑魚か。

 仕方ない。



 その後も湧いて出て来るマンドゴラを処理していく。

 レベルもそこそこアップした。



 【Lv.5】→【Lv.12】



「こんなところか」

「お疲れ様です、兄様。少し休憩しましょう」

「そうだな、昼休みもあと十分くらいだし」


 いったん【非戦闘待機モード】に切り替える。


 これは、いわゆる“離席AFK”だ。

 このモードの間はモンスターに狙われる心配はないけど、こちらから攻撃することも出来なくなる。アイテムなどの使用でもできない。


 なお、特殊なレイドイベント時などは使えないようだ。


 こういうところ、かなりシステムが細かいな。


 ひとまず休憩にしようと、した――その時。



 屋上の扉が開いて、誰がやって来た。



「ここで誰かSFOをプレイしていると思ったら……さんだったか」



 チャラチャラとした茶髪の男が入って来て、知花の方へ歩み寄る。なんだ、コイツ。



「……入江くん」

「知っているのか、知花」

「はい。彼は二年の別のクラス男子です。パーティにしつこく誘ってくるんですよ」



 ああ、さっき言っていた……。

 なるほど勧誘してくる一人なわけだ。


 俺は知花を守るように前へ出る。



「おいおい、あんた誰だよ」

「俺は知花の兄だ」


「……!? あ、兄? 古神子さんに兄がいるなんて聞いてないぞ……!」

「君が知らないだけだろう。悪いが、知花は俺とペアなんだ。帰ってくれ」


「ふざけるな。兄だか何だか知らないが、俺こそが古神子さんの相棒に相応しいんだ。そもそも、アンタはSFOプレイヤーでもないだろ。

 三年にはプロビデンスは配布されていないはず」


「俺はSFOプレイヤーだ」


「嘘だ! 今のところは二年に限定されていると学年主任が言っていた」

「嘘だと思うなら、SFOを通して見れば分かるだろ。装備とかで」


「……くっ!」



 焦りを滲ませながら、入江はSFOを起動したようだ。

 俺を見て驚愕していた。



「本当だったろ」

「馬鹿な! 三年がなぜプレイできる! ……いや、まさかプロビデンスを誰かから買収したのか! しかしそれだとアカウント譲渡の規約違反で……BANの対象だ」


「正式に手に入れたものだ。不正じゃない」


「ク、クソ! こうなったら『コロシアムモード』で決闘だ」

「決闘だって?」



 知花が耳打ちで教えてくれた。

 どうやら、対人モードもあるようで『コロシアムモード』を選択すると、正式な一対一の決闘が可能のようだ。


 ただし、装備や金品を賭ける必要があるのだとか。失うリスクがあるわけか。



「どうした、怖気づいたか!?」

「……いいだろう」


 俺が頷くと、入江とかいうヤツはニヤッと笑った。知花は焦って止めてきた。


「兄様、だめです! 対人なんて危険すぎます」

「大丈夫だ。いざとなれば切り札がある」

「でも……」

「心配するな。リアルな運動能力は高いと自負している」



 自慢じゃないが、筋トレは毎日している。

 格闘技を習ったこともあった。

 今こそその力を発揮する時だ。



「いいのか、先輩さん。俺に負けたら、古神子さんを貰うよ?」

「最初からそのつもりだろ。だが、俺が勝てば妹にはもう構うな」


「分かった。勝てれば――だがな!」



Gregoryグレゴリーさんがコロシアムモードを申請してきました】


【承諾 / 拒否】



 グレゴリー、これがヤツのキャラネームってことか。

 職業はフルアーマーに近い鎧の姿から“クルセイダー”ってところかな。細身な長剣を携えているしな。


 俺は【承諾】を押した。



 その瞬間、コロシアムは始まった。



「いくぞ……」

「遅ぇ、遅いよ、先輩さん!!」



 早くも俺の目の前に飛び出してくる入江。

 素早いが、避けれないほどではない。


 俺はヤツの剣をかわし、ただの剣で斬撃を与えていく。


 しかし、入江もうまく体をくねらせて回避した。……コイツ、体が柔らかいな。



「……お前、運動部だな」

「体操に中国武術を少々。だから、柔軟な動きが得意なのさ」


「そうか。けど、SFOこれはゲームでもある」

「だからなんだ?」


「恐らく、プロビデンスによる自動アシストがあると思われる。いくらなんでも、異常な動きができるしな。きっと、ゲーム内ステータスがリアルにも影響を受けるんだろう」


「それで?」


「レベルやステータス、武具の強さに左右されるってことさ」



 俺は姿勢を低くして、ヤツの胴に切り込んだ。

 入った。



「――ぐッ!?」



 だが、致命傷ではない。

 相手の体力HPもまだあるようだし。



「入江、お前……レベル低いだろ」

「なッ……」



 図星らしい。

 それで俺に決闘を挑むなんて、アホか。


 いるんだよなあ、運動は得意だけどゲームがダメダメってヤツ。


 これは勝てそうかな。

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