異世界転生を扱う作品で転生する側ではなく、転生させる側を主役にさせる作品は結構ある。本作もそうした作品の一つだが、本作で面白いのは主役を特定せずに、短編ごとに主人公やテーマが変わるオムニバスになっているところだ。
たとえば第一話では、転生者がどの世界に転生するかを決定する立場の人が主役という、この手の話では王道の話だが、第二話では異世界をコレクションしている人に対して、所持している異世界に何かあったときのための保険屋が主役、第五話ではそうしたマニアに異世界を売りつけるため新しい異世界を探し求める異世界発掘屋が主役になっていたりと、異世界にまつわる様々な職業が出て来るのが面白い。
設定だけでなく、どの短編も毎回小気味の良いオチがついており、一つ一つの作品単独でも面白いのだが、どの短編も根柢の設定が共通しており、読んでいく内にこの世界の独自の異世界観が徐々に判明してくるという構図もよくできている。そして読めば読むほどどんどんキナ臭い要素が出て来るのも良い。
短編集ということで気軽に手を取れることもあり、異世界転生もののパロディとして大変良くできた一品である。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎 憲)