鶴への恩返し

森本 有樹

蒼く甘美な死よ来たれ。

 死とは何だろうと思う時がある。

 命が断たれる、終わりが来る、機械が壊れる。では、これはどうだ?僕の機体、これは生きたまま死んでいる。あの栄光の日々と、何も変わらないまま。

「救国の英雄の記念碑」ということらしい。

「人間は認知の生き物だ。象徴があるからこそ英雄を信仰できる。」

 そんな理由でこいつは殺された。生きていた時は熱を孕み、あの低くなった天井へ触れんとの力を開放していた機体が、死化粧のままそこに横たわっている。

 深夜の戦争博物館、愛機にもう一回命を吹き込む準備は出来ている。

 恩返しの時だ。

 もう一度飛べないなら、一緒に落ちていこう。

 気化したオイルに命が灯る。

 かつてタービンに灯っていた命の熱を感じる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

鶴への恩返し 森本 有樹 @296hikoutai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ