第36話 タイガー・タイガー
倒れていたコンパニオンを連れて司令官の待つ中立地帯を目指して帰還している。途中で敵兵のNPC(ノンプレーヤーキャラクター)に遭遇するが可能な範囲で私が処分している。
余裕というか、敵が弱すぎて粗大ごみと変わらない。
不戦域に入ると遠方で試練が発生していたが、今回は見送ることにした。
場所が丘陵地帯ということもあり、視認性が悪く私が先頭で索敵している。コンパニオンは意識が戻らず昏睡していて、パチモンに担がせた。
セリナは手つなぎ、オリエッタのシャツ掴みはお約束。
シャツは新調してもすぐ伸び放題だ。
当然、エミリアは透明密着中。
のんきに進んでいると林に何か潜んでいる。
どうやら、ネームドモンスターと敵陣営の人間のようだ。
「オリエッタ! わかっているよな?」
「燃やさなければいいんでしょ。お
「大丈夫なのか……」
途中から餌にかじりつくことに熱中している。
たぶん敵と遭遇した時点で会話を覚えてないパターンだ。
林を抜けてすぐにネームドはいた。
「こら! オリエッタ!」
予想していたので、走りだそうとするオリエッタをウェブで縛り上げた。
「愛が重いわ」
「ただの拘束だ! それは愛ではないぞ……。愛は3%も含まれてない」
エミリアが笑う。
「3%って誤差範囲じゃない。無いに等しい愛」
「妙に細かいな。オリエッタは理解してないから大丈夫だ」
「それで、あれはどうするの?」
敵は燃え盛るライオンだった。
鑑定が有効で名前はタイガー・タイガーと表示された。
「エミリア……命名則はどうなっている。あれライオンじゃないのか?」
「知らないわ。倒せばなんでも一緒でしょ」
「確かにそうだが」
「原則として仕様に忠実に生成されているから」
ゲームでも同じ名前だったと言いたいのだろう。
足元を見るとオリエッタは寝ていて、セリナは身繕いに余念がない。
「セリナはオリエッタを監視してくれ」
「はい!」
私は用心しながらタイガー・タイガーに接近する。
初撃は雷撃魔法を選ぶ。
私はチェインライトニングをキャストして稲妻が単体に連続ヒットする。
そして、タウントして敵を挑発した。
感電して動けない敵に向かって駆け込み、薙ぎ払う。
さらに首に連撃を加えて退避する。
敵は麻痺から復帰してブレス攻撃の予備動作に入る。
すかさず、ライトニングボルトをキャストしてブレスを封じた。
敵はジャンプして私の懐に入る。
予想していた私は盾でバッシュしてスタンさせ、首を執拗に切りつけた。
そしてまた、引き際にチェインライトニングで感電させる。
あとはライフを削れば討伐完了だ。
「エミリアはどうして攻撃しない?」
「何か来るのよ。私の把握できない人物」
「なんだそれ?」
「油断しないでね。私で押さえられるかわからないから」
私はタイガー・タイガーを一方的に攻撃する。
もちろん新たな敵も警戒している。
セリナは不安そうにパチモンに抱き着き、オリエッタは起きそうにない。
背後から人の気配がして、反応するようにエミリアが近づく。
「現れたわ。敵陣営の人間。でも、魔神の気配がするの」
「このネームドは弱いがライフが多すぎる。それで魔人の憑依した敵なのか」
「そのようね。ただし、敵陣営では私は対処できないわ。可能なのは守護だけね」
「何かと制約があるんだな。しかたない。状況によってはセリナとオリエッタを連れて逃げてくれ」
「貴方はどうするの?」
「一人であれば逃げられる。だから、二人を頼みたい」
「承知したわ。敵は動かないから、タイガーさんを早めに仕留めてちょうだい」
「あぁ」
私は背後の敵の気配に注意しながら、タイガー・タイガーのハメ狩りを維持して無傷で攻撃している。時間さえ経過すれば確実に倒せる。
だが、背後の敵がそれを許してくれるとは思えない。
相手から攻撃されるタイミングはタイガー・タイガーが瀕死になって能力アップするときだろう。
私は棒立ちで固定砲台と化していた。
余裕でよそ見ができる。
エミリアが私の横で不安そうにしている。いつもの余裕はどこにもない。
注意散漫になっていると、タイガー・タイガーは後ずさり断末魔の咆哮をあげた。
「そろそろ、タイガー・タイガーさんが最終形態になる。注意してくれ」
「後ろの不審者が動き始めたわ」
「足止めできれば、お願いしたいところだ」
「滅多にお願いしない貴方から……まさか頼まれるなんて。私、頑張るわ!」
エミリアは唐突に私の頬にキスして走っていった。
フラグなのか、死ぬのかエミリア?
よそ見しているとタイガー・タイガーの焔が渦巻き、火炎でトラ模様が生成した。どうでもいいギミックに口がふさがらない。
これが最終形態のようだ。
ちなみにタイガー・タイガーはゲームで出会わなかった。
背後で魔法が炸裂している。
あちらも戦闘を開始したようだ。魔法タイプなのだろう。
「おとなしく死ね! タイガー・タイガー!」
私はウェブで拘束してチェインライトニングをキャストした。
爆発を耐えた敵は硬直している。
ここぞとばかりに切り刻む。
退避して、状態の変化を確認する。攻撃力アップのバフが乗っただけで大きな変化はない。ただ、狂暴化しているのでバーサクか狂乱のどちらかになっていそうだ。
拘束しては麻痺させる。安全策をとるため危なげはない。
ただ、背後が焼け野原になってきた。
なぜか足元が沼になってきていることも気がかりだ。
気がつくとあれ程うるさかった背後の攻撃が止んでいた。
近づく足音はエミリアではない。
「クソ! やられたのか?」
パチモンと目が合った。
なぜか指示しないのにセリナ達三名を担いで逃げ出す聖獣。
どうなってる?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます