第34話 敵陣営との遭遇

 初めて人を相手にした戦い。敵が弱いことを確認して二人に戦わせた結果、オリエッタは人殺しを躊躇した。セリナは人殺しを当たり前のように残虐に殺戮する。予想を超えた展開だった。

 オリエッタは血とかグロ表現が駄目なようで、当面は魔法で焼かせることにした。

 セリナは後衛に徹してもらい、前線に出さないようにする。

 状況を見て戦い方は変更するしかない。


 その日の夜になりエミリアと話して、彼女が巫女かより上位の存在であることを確信した。本人は何かに縛られているのか肯定はしなかった。そして、無意識に避けてきた彼女への情愛を直視することになる。

 時を遡ってやり直せるのか悩む私に、エミリアは幻影を見せた。

 そして確信することになる。

 幻の妻子を見て私の考えの甘さを知ったのだ。


 ただ、理解はしてみたものの、タイムリープを諦めたわけではない。

 私は薄々気づいている。単に諦めらきれないだけだ。





 翌日の朝に顔を合わせるとセリナはいつもと変わらず、オリエッタは気まずそうにしている。

 私はなるべく普段と変わらないように接することで、昨日のことを触れないようにした。朝食を終えるころにはオリエッタの顔色も戻り、パチモンを蹴飛ばせるくらい元気が戻ったようだ。手のかかる娘だ。

 懲りないで蹴りにいくが、吹き飛ぶのはオリエッタになっている。


 食後の運動ではないが、指揮官の詰め所に出向いて討伐証明を手渡した。単なる遺留品である。もちろん首ではない。


 指揮官は喜び、演説まで始めたが、クエスト報酬はとんでもない粗悪品だった。


「ちょっとあんた! この丸い球と紙っ切れが報酬なの! 最低!!」


 オリエッタの投げた丸い球は指揮官に直撃、男は倒れ失神してしまう。

 エミリアが魔法で復帰させると、指揮官は顔を真っ赤にして、どこから出したのかオリエッタに豪華なバラの花束とエロ衣装をプレゼントしていた。


 その光景をみて、私の目が点になる。

 当然、オリエッタは満面の笑みで受け取り、機嫌はなおってしまう。


 エミリアを睨むと、耳元まで口を寄せて「サービスよ」と囁いた。一瞬であるが柔らかい唇が触れた気がした。だが、過敏に反応しないように努力する。

 自覚はあるが、エロ耐性はない。


 どうにか誘惑に流されることなく受領イベントが終わり、クエストは次の段階に進む。指令の内容は単純だった。

 

 司令官の依頼は敵の陣地、といっても敵陣営の中立地帯であるが、そこに潜入して諜報活動を仕切る連絡員と会話することだった。相手陣地に行くには不戦域と呼ばれるクエスト独自のゾーンを抜けないといけない。


 不戦域はチュートリアルだけに存在するゾーンで、将来の対人戦では戦場に相当する場所だ。当然のことであるが敵陣営の人間の攻撃は無効化される。ただ、MPK(モンスタープレーヤーキラー)は可能なので、モンスターを他のプレーヤーに擦り付けて嫌がらせはできるだろう。



 指揮官の詰め所から不戦域に向かうと普通にアクティブモンスターがいて倒しながら敵陣を目指すことになる。たまに敵兵のNPC(ノンプレーヤーキャラクター)が攻撃してくるので、私が率先して倒している。

 オリエッタは魔法は大丈夫らしく、少しずつ馴らしていくことにした。

 どうも、グロ表現がダメらしい。


 ということで、ウェブからの爆散は死体が残らないので好都合だった。

 火力が上がると一瞬で灰になるので問題なくなるはずだ。

 セリナは怖くて戦わせてない。


 丘を越え、林を抜けると小川に出てしまう。

 浅瀬を突っ切ろうとすると対岸に敵陣営の人間がいた。パーティーを組んでいて、こちらの行動を冷静に監視している。試しに戦闘を仕掛けて、攻撃が通らないか試してみるべきだ。


「エミリアは透明になってついて来てくれ。他はここで待機すること。いいなオリエッタ」

「うん、わかった……」


 おとなしく従ったのは、敵を殺せないから躊躇したのだろう。


 私は試しに前にいる三人の男女をウェブで縛り上げる。拘束が可能であること、それは補助魔法に限定的でも効果あることが判明した。

 やはり試してみるものだ。


 慌てる後衛の女に魔法をキャストしたが、着弾エフェクトが出てもダメージはない。剣で素早く切りかかるが切った感覚もない。


「どうやら、攻撃は通らないが、補助魔法の効果はあるようだ」


 拘束の解けた敵は、慌てて私に攻撃を仕掛けてきた。

 相手の攻撃は当たらない。


 お互いに攻撃は無効だ。

 そして、敵が転職クエストを終えていることが、魔法やスキルの種類から判明する。これはあまり歓迎される情報ではない。

 なぜなら、敵は転職しているのに、こちらの陣営では我々しか転職者はいない。いたとしても少数だろう。


 私が威嚇すると敵は慌てて自軍の中立地帯に逃げていった。

 とりあえず追い払えたので仲間のところに戻る。


「敵陣営の人間から受けた攻撃は致命傷にはならない。補助魔法は要注意だ」

「はい!」

「よかったよ……。さっきのは人だよね?」

「あぁ、そうだ。それに敵は転職している。我々と同レベルなのかは不明、少なくとも自軍より強いだろう」


 収穫があったので、昼食を河原でとることにした。

 時々、別な敵が現れることから、クエスト面でも自陣営より進んでいるとみていいだろう。ここに到着していることが、その理由だ。

 厄介な事態になってきた。

 おそらく、自軍のクランに攻略法を教えるか、手伝ったほうがいいかもしれない。


「エミリアから、話せることはあるのか?」

「まあ、敵側に強者がいないから、そこから考えてみて。ごめんね、このくらいしか喋れないわ」

「いや、おぼろげであるが想像できた。ありがとう」

「たまにはサービスして欲しいものだわ」


 また他者には透明なのだろう、密着して念入りに誘惑されてしまう。

 本当にやめて欲しい。


 それにしても、エミリアの話から推測すると敵に勇者、または同等の能力をもつ者はいない。だからモンスターが通常レベルで、簡単に職クエストが完了できているのだろう。


 私が勇者だから自陣営のモンスターは強いと考えられる。

 事実、ここのモンスターは異様に弱い。

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