第31話 クランの実態
最大手クラン”リンデール&グライル”に潜入した私は女帝カリドール嬢の無理難題をそつなくこなし、いたぶられる優メガネのキリルを慰めている。
簡単に人を信じる気はないが、女帝以外は常識人が揃っているようだ。
まあ、適当に対応する。
クランの活動ルールを一通り聞いた後で作業現場に同行することが決まる。やっとポーターの仕事を始めることになりそうだ。
エミリアはふらふらと彷徨っていて気になってしょうがない。
時々サービスポーズで悩殺してくるので要注意だ。
「ねえ、相手してよ」
エミリアは普通に話しかけてくるが、私にしか聞こえない。だが、こっちは説明を聞いてる最中だ。おとなしくしてほしい。
下手に話せず、透明人間の相手は難しいのだ。
キリルからいい加減な説明があり、早速インスタンスダンジョンに潜ることになる。確認はできないが、ダンジョンに入れるレベルには達しているようだ。
ダンジョン前で待機していると、移動前に荷袋とバックパックのようなものを支給される。この感じから推測するにマジックボックスのクエストは受けて無いようだ。
正直なところ持ってることを隠すのが面倒でしょうがない。
このクラン、ダンジョン内に突入するのは特に問題なかった。
だが、どう見ても弱そうだ。
女帝カリドールは二名の半裸男を椅子と机にして、例の衣装で優雅にティータイム。侍女のような痩せ眼鏡メイドが二名佇み、女王を映えさせている。
こいつら……なぜダンジョンにいるのか。
呆れていると、ダンジョン内で陣形を確認したキリルが号令をかける。
「ゴブリン5匹を発見したから突撃するね! 第二班と第三班は防御だよ」
ナヨナヨした掛け声に脱力する。
緊張感がまるでない。
そして観察が始まる。
敵は最弱と誰もが知るゴブリン。それをだ……5匹程度のゴブリンを3パーティーで攻略する意味が理解できない。なぜなのだろう。どうしてこんなことに。
とりあえず観察だ。秘策があるのかもしれない。
キリルが先頭を切って駆けだした。勇敢だな……とみていると突撃したキリルがゴブリンに殴られ壁まで飛んだ。
そして、痙攣しながら、倒れ仮死状態になる。
鮮やかなやられっぷり。
後に続いたメンバーもゴブリンにサンドバックにされ討伐されている。
全滅したパーティーは復活ポイントに消え去った。
パーティーがひとつ全滅したのだ。
私は呆然と戦況を眺める。目の錯覚ではない、どうみても打たれ弱く攻撃も信じられないくらい弱い。
どうしたらこうなるのか。
「撤退するぞ。ポーターども逃げろ! 女王様を担げ野郎ども!!」
え、逃げるのか?
その日は終日ダンジョンに潜ることになり、撤退しては再突入を繰り返した。ポーターが辞める理由はリーダーの性格よりも、クランとして弱いからだろう。
エミリアは見えないのをいいことに、セリナやオリエッタを真似して私をからかっている。こいつは女忍者みたいに誘惑がしてきて、正直勘弁してほしい。
イチャイチャを回避しているとポーター仲間が話しかけてきた。
中年おばさんのような容姿をした、人懐っこそうな女だ。
「ハワードさんはポーターとしてあまり見かけませんね」
「ああ、最近冒険者をリタイヤしてポーターになったんだ」
「そうですか。このクランはまだいいですが、他のところは劣悪環境ですよ」
「この状況よりも悪い?」
衝撃の事実と現実の酷さを知ることになり、これよりひどい境遇とはどんなものなのか想像もできなかった。これぞ、驚愕の真実というやつだ。
ポーターとは仲間意識で繋がり、クラン情報や攻略状況も詳細なことが分かった。
なんでも、どのクランも職クエストがクリアーできないらしく、初期冒険者ノービスでレベルだけ上げたようだ。この事実も衝撃的だった。
休憩中にキリルと話してみることにした。
当事者に聞くしかないからだ。
「さっき、ポーター仲間から職を開放してないと聞いたけど、何が問題なんだ?」
「君も知ってると思うけど。敵がゲームの倍くらいの強さで難易度が高すぎるのさ。地下墓所のボスをどうしても倒せない」
どうなってる。あのボス、確か俺達は瞬殺だったぞ。
何かおかしい。
「ということは、キリルはゲーム経験者なのか」
「ああ、やり込んでいたほうだね。ロールプレイクランのマスターだったくらい」
「攻略方法も知ってるよな?」
「もちろんさ。でもクリアできない」
悩ましい状況であることは理解した。
その後、なんとなくキリルと雑談を続けてしまう。そして驚いたことに、互いがゲーム内では
とりあえず潜入目的であった攻略情報を仕入れたこともあり、本日限りでポーター業は契約解除することにした。
帰ろうとすると人手不足のようで、飛び入り参加OKのお墨付きを女王様直々にもらう。どうでもいいが。
エミリアと話しながら、我が家に向かって歩いていく。
「エミリアは楽しめたのか?」
「もちろんよ。愛しい人と一緒なら、たとえ地獄の業火で焼かれても共に死ぬわ」
「おまえ、相変わらず愛が重いな」
「とうぜんよ。心の底から愛してるもの」
こうやって話しているとヨーナとは思えない。エミリアそのものだ。
「なあ、おまえはエミリアなのか?」
「信じてくれないのね。私はこの世界に縛られし者。間違いなくエミリアよ」
「ヨーナはどこに行った」
「いるわよ、私の中に。会いたいなら言って」
「いや、そうじゃない」
「わかってるわ」
エミリアは幸福そうに笑み、大胆にすり寄ってきて胸を押し付けてきた。いつか間違いが起きそうだ。
私はセクハラが怖くて仕方ないが、エロ耐性は低い。
「私は貴方のために居るの。ハワード」
女の声は夕闇と同じで、真実を告げているのか確証は得られない。
それでも色恋抜きで、この女のことを知りたいのだ。
たとえ、知れなくても後悔などしない。
辺りは闇に染まり、街灯が瞬きだす。
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