第29話 干渉

 奇跡でも起きない限り負けは確定、そんなことは理解してるし、認めざるを得ない。だからこそ、考えなく戦っていては勝利をつかみ取れない。

 現状といえば仲間は仮死状態。どうすれば……。


 思い悩んでいても、敵は攻撃の手を緩めない。

 私のとれる選択肢は多くない。だが、どうにかして弱点か攻略法を見つけなければ。何かあるはずだ。


 私はチェインライトニングの直撃を避けながら回復に徹する。単体魔法は詠唱に入る前に範囲から出て、視線切りする。

 何発かは被弾するので、魔力切れすると回復できなくなりお終いだ。


 マジックボックスから魔力ポーションを取り出しては飲んでは捨てる。無意識に顔が歪む。回復量は微々たるもの。

 焼け石に水だ。


 パチモンはオリエッタの仮死とは関係なく戦っている。こいつはオリエッタがこの場所に残っている限り離れないだろう。

 そして、ヨーナ。

 ヨーナは無表情で戦っている。こいつは何故戦っている。

 わからない。


 経験からNPC(ノンプレイヤーキャラクター)は復活しない。それは間違いない。


「クソ! ヨーナは死ぬ必要はない。おまえは逃げろ!」

「嬉しいことを言ってくれるの! ハワードとやら、見直したぞ!」

「何を?」

「相手は箱庭のことわりを無視した存在、ある程度の限界突破は許される」


 意識が飛びかける。

 マジックボックスをからポーションを抜き取り、無理して流し込む。


 飲み過ぎで気分が悪い。魔力枯渇の影響かもしれない。

 魔法を避けようとしてふらついてしまう。


 戦闘はヨーナと女王の対戦になっていた。

 運の良いことに私は仮死状態と判定されたようだ。


 ヨーナは女王に切りかかり、パチモンはかじりりつくがアンデッドに効果はない。

 逃げても誰も文句は言わないのだ。逃げてくれ!


「さて、今までの狩りで折角いただいた経験値とやらであるが、今こそ返すときぞ! そこの幼聖獣、お主も力を示せ! 聖なるものよ!!」


 私は魔力が枯渇して動けなくなる。

 視野が閉ざされた。


 砂が口の中に入りこみ。そのことで倒れ込んだことを理解する。


 無理して目を見開き、女王とヨーナの対戦を見るため顔を上げる。

 おぼろげながら視野が戻ってきた。

 こんなところで……。


 ええい、見逃してなるものか!



 砂浜に吹き荒れていた風がやみ。天から光が射す。

 私は震える手でポーションをがぶ飲みする。

 いや、ほとんどが口からこぼれ出た。


 光の帯がヨーナを照らし白く輝かせる。


「眩しい……」


 海岸の汚物が消え去り浄化された。光球が砂から立ち昇り天に向かって浮遊している。複雑な軌道を描き、揺れながら空を目指す。



 私にはわかる。これは聖光エフェクト。

 時が緩やかに流れだす。



 咆哮するパチモンは天を仰ぎ見る。

 聖獣の身体は輝きだして小さな翼だったものが膨れ上がる。それは巨大な指ある大翼に変化した。羽根をもつ白い巨人。


 有翼巨人は飛翔する。


 ヨーナは着物を投げ捨て、白色の翼を開き空に向かって羽ばたいていく。

 女王の頭上、遥か高く旋回していた。眩い光を纏い。

 ヨーナと巨人は笑っている。


 私は夢を見ているのだろうか……。



 スノージャイアントは急降下して、巨大な手で女王を掴んだ。逃げようとする女王の胴体を握りしめ、締め上げる。

 パチモンは嬉しそうに吠えた。


 スノージャイアントは女王を完全に拘束して砂浜に縛り付ける。

 ヨーナの高笑いが響き渡る。


 どうなっている?


「そろそろ、出てきたところに帰ってもらうかの! 寄生虫」


 ヨーナの身体から煌めく粉塵のようなものが広がり出て、辺りを覆いつくすように広がっていく。脈動する粒子は大きな渦状になり女王を飲み込んでいった。


 女王のいたるところから白い虫が湧き出してくる。


「ハワードよ! この試練を越え我が元に来たれ! そして、干渉する魔神よ。みるがいい! レベルドレイン!!」


 両手に持ったランスのような光る槍を、ヨーナは笑いながら投げつけた。


 交差した槍は女王の身体を左右から浜にはりつけける。リッチの女王は虫もろとも青い焔をあげて燃えあがった。

 不思議なことにパチモンは平然としている。


 拘束された女王は捻じ曲がり、焔が消えると蝋人形のような女が暴れていた。

 それは、魔力が段違いに落ちたアンデッド。

 苦し紛れに叫んでいる。


「よくもやってくれたな! だが、その男を殺してくれるわ! お前に泣き面をかかせてやる」


 ヨーナは哀れみの微笑みを浮かべ、空から見下ろしている。


「できるのか? 我は失ったものを取り返す。もちろん異論は認めん。魔神の残滓よ!!」

「おのれ、動けぬ!!」

「さあ、美味しいところを持っていくのじゃ! ハワード」


 いつのまにか、ヨーナもパチモンも元の姿に戻り、砂浜に座っている。

 今まで見たものは幻?

 そう思いたい。


「くそ。私がやるしかないのか」


 私は震える手でポーションを取り出し、上手く飲めなくても、零れていようと気にせず飲み込んだ。


 遠い。

 足を砂にとられふらつきながら前に出る。剣は持っていたようだ。


 私は顔を歪めながら笑っていた。

 剣が重い。重すぎるだろ!


 ふとヨーナを見ると拍手している。いい気なものだ。

 私は力任せに剣を振り上げ女王を睨みつけた。手は震えるが、高く掲げた。


「お前に恨みなどない! だが、許せ!」


 振り下ろした剣先は、驚きに目を見張る女王を分断した。

 女の身体から白煙が沸き立ち、空に消えていく。そして、金貨が周辺に降ってくる。金貨の雨、違った意味で恵みの雨だ。



 ヨーナの高笑いが砂浜に響き渡る。


「鯨は大盛に決定じゃ!」




 こいつはただのNPCではない!

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