第28話 ウムラベルジェの女王

 濃霧に包まれてしまった難破船の方角から、霧をはらうように次々と舟が現れてくる。先頭の小舟には槍のようなものを持つ女。背後の船からはスケルトンたちが攻めてくる。


 私はオリエッタを小脇に抱え、見た目だけは美女を守る騎士の絵柄になっている。

 超絶美女は海藻まみれであるが。


 スケルトンは6体ずつ連れなって現れるため、パチモンを波打ち際に漂わせてデコイとした。そして、私は12体まとめて撃破する。

 ウェブのリキャスト時間も問題なく消費でき、安定して続々と上陸する敵を殲滅。

 敵の女大将は船の上から動かない。


 ヨーナはどこから出したのか長剣を持ち波打ち際に立っている。セリナは私の後ろにいて祈りの守護で守りを固めた。

 オリエッタは私を横からしがみつき邪魔である。


「オリエッタさん、そろそろ離れませんか?」

「わかったよ、充分楽しんだから解放してあげる」


 顔を赤らめモジモジせずに戦ってくれ。


 何ウエーブかスケルトンを倒すと例の女が呪文を唱え武器を海中に差し込んだ。海面が盛り上がり、白鯨ならぬ白骨鯨が現れる。

 大きさは比較物がないので正確にわからないが体長10mはありそうだ。


「何か海に引き入れるスキルがあるかもしれない。用心しろ」


 残念なことに白骨鯨は海から跳ねて、重力など無視して大空を飛んでいた。

 顔をこちらに向けて脇目も振らず迫ってくる。


 白い者同士はひかれあうのか……派手に激突した。


 何故止められるのか謎ながら、パチモンは鯨の動きを封じた。

 ヨーナが手に持つ剣は魔剣なのだろう、剣から炎が伸びて白骨鯨に引火した。青い焔が鯨を包んでいる。見るからにおぞましさがアップしていた。

 オリエッタは魔法で攻撃、私とセリナは聖魔法で攻撃している。


 セリナはターンアンデッドは使っていない。

 ボスクラスには効きにくいからだ。


 鯨は暴れまわるがパチモンから目を離さない。どうやってヘイトを稼いでいるのか、パチモンのカリスマは信じられないレベルで高い。

 あまり効果はないが私は魔法攻撃を続ける。


 どうやら一番効いているのはヨーナの攻撃でNPCの威力とは思えない。まるで壊れキャラである。

 パチモンのヘイト管理は神業で、齧りついたり回転したり、忙しないが鯨をホールドし続けている。もはや職人芸と言っていい。


 鯨はひれなどで攻撃するがパチモンは受け流す。


 ヨーナが死角から剣を振り入れ、骨に炎を引火させる。オリエッタはフレイムランスを連続キャストしていた。

 とにかく鯨のライフが高く、短期決戦は望めない。


 船の女はこちらを見て動かず、スケルトンの増援はない。

 傍観姿勢がかえって不気味に感じてしまう。


 もう数十分も戦っている気分で魔力の枯渇が近く、セリナと私は攻撃を止めてバフに徹していた。

 オリエッタは魔力の余裕はあっても効果的な攻撃法がないため、能力低下魔法を鯨にかけさせている。


 主な攻撃ソースはヨーナの剣による魔炎攻撃になる。


 パチモンは殴られてはゲロを吐いているが、鯨はそれを浴びると激高して尾びれでパチモンを叩いていた。

 へこんでも直ぐ元どおり、敵の攻撃にダメージはなさそうだ。

 謎生物は健在なり。


 疲労感が増して意識が飛びかけていると、ヨーナがジャンプして鯨の頭を落とした。


「晩御飯のおかずは鯨を所望する!」

「あぁ、わかった!」


 討伐した達成感から気が緩んだ瞬間、女を乗せた船が飛ぶようにこちらにやってきた。実際飛んでいるのだが……。


「敵だ! 安心するのはまだ早い」


 女は白い鎧を着た騎士姿で、長い髪は色褪せた金髪で顔は髑髏だった。生前の美貌など想像しようもない。

 手に持つのは長く細い杖、先端に三角旗がなびいていた。

 そのアンバランスさが不気味である。


 武器からして魔法職、リッチかスケルトンクイーンと言ったところか。攻撃方法で判別するしかない。

 私が睨みつけると敵は喋りだす。


「よくも、我がしもべを倒してくれたな。この先には貴様たちの宿敵が待つ大陸がある。だが、この先には決して行かせぬ。通りたくば我を滅せよ!!」


 ああ、敵勢力が支配する領土への侵入クエストに続くのか。

 受けるしかない。


「受けて立つ! 私はハワードだ!」

「よかろう! ウムラベルジェの女王ルイーズが貴様らを叩き潰す!!」


 王冠を紛失されたのであろう女王が雷撃を放った。

 闇に堕ちし大魔導士リッチに確定だ。


 魔法はチェインライトニングか、広範囲の敵に複数着弾する最上位の攻撃魔法。

 雷撃が襲いかかり、軽く麻痺する。

 セリナは常時回復の魔法を唱え、私はオリエッタを単体ヒールした。


 パチモンとヨーナは魔法耐性が高いのかライフが減っている様子はない。

 ライフは被弾時に飛び散るオーラの色で判断できる。


 問題は我々だ。


 女王はオリエッタをターゲットしてライフドレイン繰り返す。私は絶えずヒールするがヘイトがこちらに来ない。


「ハワード! どうしたらいいの? 同性に好かれたくないのだけどぉ!?」

「相手からライフを奪え、少しでもいいから。セリナもヒールを頼む」


 どう考えても相手とのレベル差が離れ過ぎている。

 またしても、理不尽なクエストだ。


 即時ヒールを連続キャストすることで、オリエッタのライフはシーソー状態をどうにか保っている。

 だが、次に大魔法が来たらオリエッタは行動不能になる。このままではジリ貧だ。


 勝てる要素はない。

 おそらく、スキル構成を練って挑まないと勝てない。


 女王は無慈悲にもチェインライトニングを唱えた。稲妻は分岐してオリエッタだけに着弾を繰り返す。わざと一人に届く位置を指定したのだ。


 女王はライトニングボルトを詠唱。手を合わせて開くと、白球が輝いた。

 雷撃が目にもとまらぬ速さでオリエッタのもとに。


 間に合わない。

 ヒールは間に合わずオリエッタが行動不能になる。


 そして、次にセリナをターゲットした。

 ライフの総量でターゲットを決定するようだ。厄介なヘイト無視の敵。


 全滅すると復帰ポイントに戻される。その場合はクエスト失敗だ。

 諦めて逃げるのも手だが、オリエッタを残しておけない。


 全滅覚悟で戦う。それしかない。


 敵は容赦なく範囲魔法と単体魔法を切れ目なくキャストする。

 固定砲台だ。

 セリナも行動不能になり、私がターゲットされた。パチモンとヨーナは私よりもライフがあるのか?


 範囲魔法の無効化は原則できない。範囲外に出るか発動前に魔法キャンセルする必要がある。


「どうした、ハワードとやら。弱すぎるぞ!」

「……」


 負けが確定なのは理解している。だが粘るしかない。このままでは勝てないから。

 だからこそ弱点か攻略法を見つけるべきだ。

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